オレの彼女は優しくて控えめで、真面目で純粋で可愛くて…たまにすごく、面倒臭い。



「自分と全く同じ容姿の人間が現れたら、きっと誰も気づかないんだろうなぁ…」



ぽつり。腕の中に収まったままの呟きを拾って、今度は何に感化されたんだろうかと眉を寄せる。
他に誰もいない自分の部屋で、彼女といちゃつく。そんな絶好の状況が崩される予感が、一気に襲いかかった。

全く自慢にならないが、情緒的なものに興味が薄いオレは、彼女が興味を示すものに同じように気づくことができない。
いくら距離を近づけても、重ならない部分があることを思い知らせてくれる。彼女はオレにない感性で、世界を見ている。

でも、言葉に出してくれるならまだいい方だ。話ができる。
だから今日もオレは、よく解らない呟きにも反応を返す。

いちゃつきたいという、自分の欲には蓋をして。



「そうっスかね…オレは気づくと思うけど」

「並べてみれば、ね。違和感を感じるだろうし、二人いればどっちが本物かは、主張で判ると思うけど」

「思うけど? 何っスか?」

「本物の私がその場にいなかったら、きっと冗談か何かだと思って流しちゃうと思うんだ」



私が本物だよって、伝えられる私がどこにもいなかったら、きっと駄目だよ。気づいてもらえない。

ベッドに背を預けるオレに、更に背を預けてくったりと脱力したまま、小さく笑う彼女の気持ちが解らなかった。

どうしてそんな、酷いことを言うんだろう。



「判るよ…オレは、絶対判る。もし家族が駄目でも、オレはなまえの言葉を信じないこと、ないっス」

「私じゃない私そっくりの人の言葉も?」

「違うって言うなら信じる」

「じゃあ、成りきられたらおしまいじゃない?」

「…でも、絶対判るっス」

「そうかなぁ」



そうだよ。絶対、そうだ。
オレがなまえを見間違えたり、見破れないなんて絶対にない。
形だって匂いだって中身だって、全部自分に刻みつけているんだから。

だけど、オレに自信があったところで、彼女が自信を持つわけじゃない。
今日もまた謙虚も度を越した彼女は、優しい笑顔を浮かべたままオレの言葉を刻み付けてはくれない。



「だったら、いいな」



いいな、じゃないよ。
そうだって信じてよ。

ふわふわ笑って離れていきそうな彼女が悲しくて、抱き締める腕に力を込めた。

何でこの子はこんなに難しいんだろう。



「オレは、なまえが好きなんスよ…?」

「私も、涼太が好き」

「だったら…」



オレの言葉を本気で捉えてよ。

重くて、切なくて、いっそやめてしまおうかとすら思って。
それでもやっぱり捨てきれないくらい大事な気持ちを、受け取ってほしい。ちゃんと、その心の中に居座らせてほしくて。

何回、何十回、何百回かかっても、伝え続けるから。
面倒臭くても投げ出さないから。ずっと変わらず抱いているから。
早く、早く信じて。

願いながらその頭に頬をくっつけると、やっぱり彼女は小さく笑った。






好き大好き愛してる




通じなくても大好きだけど、重ならないのは寂しいんだ。

20130111. 

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