意地っ張りで負けず嫌いな性質は自覚していて、他人に頼ることも大嫌い。
だからといって器用というわけでもないから、結局倒れそうになるくらい無理をしなくちゃ、納得できる結果なんて出せやしなくて。

そんな自分が嫌になるけれど、熟すと決めたことは熟さなければいけない。それは人間として生きていく中では当たり前のことで。
だけど、努力にも限界はある。



「…また無理したね」



開かれた扉の向こうから出てきた辰也の顔は少しだけ怒っているようで、入って、と促す声も僅かに棘を感じる。
それでも中に入れてくれる甘さに、ぱんぱんに膨れた風船を割られたように堪えていたものが身体から弾けた。



「辰也」

「うん」

「疲れた…っ」



ここまで歩いてくる間も、身体的なものか精神的な疲れか最早判らないそれの所為で、ふらつく足を必死に動かしてきたのだ。
一目顔を見て分かるくらいには、きっと私は酷い顔をしていたに違いない。

そんな最低なコンディションを彼氏に見せるのもどうなんだとは思うけれど、正直そんなことを本気で気にするような余裕はなく。
ぶわあ、と涙の溢れだした顔をぶつかるようにその胸に埋めれば、頭のすぐ上から深い溜息が落ちてきた。

それから背後で扉の閉められる音がして、次に温かい手が宥めるように背中を撫でる。
それだけで吸い込み辛かった空気が肺まで浸透していくようで、肩の力が抜けるのが判った。



「全く…やることがあるから会わないって言ったのは誰だったかな」

「っ、ごめんなさい…」

「本当に限界まで突っ走るんだから…」



こうなる前に手助けでも休息でも求めるなり取るなりすればいいだろうに。

そんな真っ当な呟きにはぐうの音も出ない。けれど、できたら苦労もしないのだ。



「ごめんなさい…疲れた」

「…仕方ないなぁ」



多分、今はもう苦笑を浮かべているのであろう彼の顔は、見上げても角度の問題でよく見えない。
一度離れることを促されて素直に従えば、その服を握っていた手を取って引かれた。

そのまま男子にしては整頓された部屋の中に案内され、先にベッドに腰掛けた辰也に繋いでいた手を軽く引かれる。
ちらりと窺い見た表情は柔らかい笑みを浮かべていたから、私は身体の芯を引っこ抜かれたような感覚に逆らうことなく、その膝に横向きに乗り上げた。



「辰也好き。大好き」

「限界だと本当に素直だな、なまえは」

「だってもう本気で疲れたんだもん…」



だから甘やかして、と首に腕を回して擦り付けば、くつくつと近くにある喉が鳴る。
そしてすぐにぐしゃぐしゃに掻き回される頭に、私の全身は力を抜ききった猫のようにだらりと彼に凭れ掛かった。

お疲れ様、いい子だね、とその甘ったるい声で慰められる度に、じんわりと広がる痺れが散らかりきっていた心に染み渡る。
子供を甘やかす親のように、髪に落ちてくるキスも優しくて呼吸が深くなる。



(しあわせ)



なんて贅沢な時間だろうか。
先程まで神経を張り巡らせていたのが嘘のように、緩やかな時間に身を委ねる。

泣きたくなるほどの苦しみを何度味わっても全く懲りることができないのは、もしかしたらその度にどろどろに甘やかしてもらえるからかもしれない。
叱るのは本当に最初の一瞬だけで、弱音を漏らすとどこか嬉しげに受け入れられてしまう。甘やかされる私だけでなく、甘やかす彼の方も何だかんだと構いたがるのは気のせいではないはずだ。



「しょっぱいな」



目尻に残っていた涙を吸って、額をくっつけてくるその顔はただでさえ綺麗なのに、甘い笑顔なんて浮かべられたら疲れも忘れて見惚れてしまう。

両頬を包まれるのを合図に目蓋を下ろせば、頭の中身を全て飲み込まれるように深いキスを交わされる。それも、お決まりの展開だった。







泣き場所は腕の中




甘く甘く慰められるから、苦しみさえ中毒になり兼ねないのだ。

20121211. 

[ prev / next ]
[ back ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -