「かわいい…!」
きらきらと瞳を輝かせるなまえちんの方が、可愛い。
食い入るようにアルバムを見つめるなまえちんをすぐ隣から見つめながら、いつも思うことを繰り返した。
「やっぱりいいなぁ…私も見たかったな…アントワネットな紫原くん」
「なまえちんたまにわけ解んないよね」
「え? そうかな?」
「どー考えてもこんなんよりなまえちんのが可愛いでしょ」
中学時代の写真が見たいと言われたから、引っ張り出してみたけど。
文化祭で撮られた女装写真を指差してそう言えば、そんなことないよ、と笑って返された。
いや、そんなことありまくりだし。
「紫原くんだったら何でも可愛いと思うよ?」
「…それもなんかビミョー」
嬉しそうにページを捲っては顔を綻ばせるなまえちんをじっと観察しながら、食べ終わったマフィンの入っていた袋をごみ箱に放った。
(あーあ)
足りない。
「えっと、この時は…私のクラスは…飲食系だったかな? 確か、わりと可愛いエプロンとかつけてた気がする」
「うん、知ってる」
「え? 紫原くんうちのクラスには来なかったんじゃ…」
「赤ちんに止められて黄瀬ちんに全力で邪魔されたしねー。行けなかったけど、何やってたかは知ってるよ」
なまえちんの可愛い格好、見たかったな。
あの時に見に行ったところで怯えられて終わりだったとは思うけど、本心だから仕方ない。
黄瀬ちんが見ててオレが見てないとか、面白くなさすぎる。
(でも、まぁ)
めちゃくちゃ面白くないけど、今のなまえちんの可愛いところはオレが一番見れているとは思うし。
写真の中のオレに夢中になっているなまえちんも可愛いし、我慢できなくはない。
我慢できないとしたら、また別のことで。
「なまえちーん」
「なぁ…にっ?」
にこにこと笑っていたなまえちんの目が、ぱちりと瞬く。
長い腕も強い力もこういう時は便利で、胡座をかいた上に引きずりあげられたなまえちんは、急に縮まった距離に反応してすぐに顔を赤くした。
ほら、やっぱりなまえちんのが可愛い。
「む、紫原くん、ちょっと恥ずかしい…」
「んー…なまえちん」
「う、ん。何?」
「おなかすいた」
恥ずかしがってうろうろと逸らされていた目が、え?、とこっちを見た瞬間にその口に齧り付くと、腕の中に収まった身体がびくりと跳ねた。
けど、写真にばっかりその目を、口を、意識を、言葉を、注いだなまえちんが悪い。
「っ、む、紫原くん…っ?」
「なまえちんの“好き”はオレにしか向けちゃダメ」
「え、意味が…っ!」
真っ赤な困り顔をされても、今回は退けない。
じたばたと藻掻きはじめた身体をしっかり抱き込んで、何度も何度も奪い返すように満足するまで噛みついた。
腹ペコむっくんの甘えかた
構ってくれなきゃお腹がすくよ。
沈没したようにくったりともたれ掛かってくるなまえちんに囁けば、蚊の鳴くような声でごめんなさい、と返された。
20121114.
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