※時系列が中学生
出逢った瞬間は、そこらにいる同年代と何も変わらない子供だと思っていた。
しかし見た目から下した判断を軽く蹴り飛ばし、その存在はすんなりと懐の中に入ってきた。
見た目は可愛らしいのに誰よりも先を見据えた考えを持つ存在に、興味を引かれたし純粋に好意も抱いた。
自分と並ぶ、もしくはそれ以上の賢さを兼ね揃えたその存在に、いつの間にかとてつもなく強い執着心を抱いていて。
そして、傍に居続けたが故に、気付いてしまった。
「おはよう、なまえ」
「おはよう…今日も早いね征ちゃん」
「なまえもな」
家を出て真向かいにある壁に背を預けて立っていたオレを目にすると、今日もまた軽く眉を下げながら笑うなまえが門を閉めてから寄ってくる。
鞄を持っている方とは逆の空いている手を取れば、素直に溜息が吐き出された。
「征ちゃん…いい加減もうこれ、卒業した方がいいと思うよ」
「何のことだ」
「解らないとは言わせない」
白々しく流そうとするオレをじとりとした目で睨んでくるわりに、無理に振りほどかれはしない左手には力も宿らない。
いつからだろうか。
もどかしい虚しさを、掻き消すことに夢中になっているのは。
呆れ半分に不満をぶつけてくる幼馴染みは、恐らくこちらの足掻きには気付いているのだろうに、それでいて中々尻尾を掴ませてくれない。
あと一歩で入り込めそうな、なまえのパーソナルスペースは昔からずっと無人のままだ。
「なまえが他の目を気にするとは思わなかったな」
そちらがその気ならと、つい見栄を張る自分にも軽く辟易する。
触れ合うことは難しくない。細い指も包み込めるくらいに身体は成長しているのに、未だ心は完全に引き留めきれない虚しさを喉奥で飲み込み続ける。
なまえは、昔から変わらない。
変わらず、当たり障りのない程度の親しさを振る舞い続け、本質をさらけ出してはくれない。
見え隠れするそれを捕まえておきたいオレを、躱し続ける。
気づいた時には、既にその距離は保たれていた。
つまりは、恐らく最初からそうあったのだ。
変わらず彼女を欲しがるオレの感情と同じように、彼女の中にも変わらず在る、枷のような何かが。
「征ちゃんモテるでしょうに…女の子達がショック受けちゃうよ?」
「興味がないな」
「まあ酷い」
「どっちが」
今度はこちらから睨み返せば、隣を歩くなまえの瞳がゆるりと細くなる。
そう、解っていて逃げるなまえだって同罪だ。気持ちを知りながら踏みにじるオレと何も変わりはしない。
「オレにはなまえがいればいい」
他はいらない。何度言えば理解して、受け取られるのか。
オレを思って突き放すポーズを崩さないなまえを、歩みを止めて睨み付ける。
好きな子ができる、もっと大事にしたい子が現れるからと、何の根拠もない誤魔化しを蹴り飛ばし続けるこちらの気持ちは、どうだっていいのか。
形は普通と違うのかもしれない。執着と言われれば確かに全て否定はできない。
けれどそうだとしても、触れたいと思うだけ焦がれるのは、確かに目の前のたった一人だけなのだ。
「いい加減、諦めろ」
お前にだって、オレが要るくせに。
再び歩き出したその隣、軽く握り返された手と苦い笑みは、崩れない関係性を示しているようで。
「まだまだ諦めきれないかな」
未だ虚勢を張り続けるその姿が、やはり歯痒くて仕方がなかった。
そして、時は廻る
幼い頃に人知れず抱えた焦燥は、今だ消えずにこの胸にある。
恋愛的な好意は受け取らない、いつも完璧な人格を保ってはいる。
それなのにどうしてか時折放っておかせない顔をする彼女に、疼く心に目を伏せた。
(狡い女とはなまえのようなのを言うのかもしれないな)
(そうだね、征ちゃんには似合わないだろうね)
(そこは本人の意思を重んじてほしいところだが)
(いつかいい人見つかるよ)
(…意地が悪すぎるぞ)
20121127.
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