人に好かれて悪い気はしないけれど、行き過ぎると一歩引いてしまう。
貴重な昼休みに猫だ兎だと争い合うクラスメイト達プラスアルファを尻目に、私は一人クロッキー帳でも開きながら溜息を吐いた。



「みょうじさんには猫でしょ! 性格からしてもうピッタリ!」

「確かに猫は似合うよ!? だがだからこそ新境地的な意味で兎耳も試してみたくなるだろ!!」

「白のウサミミは黒髪に映える! そんなみょうじ様が見たい!!」

「だぁらっしゃい! 黒猫の魅力には敵わないわよ!!」



他のクラスの人間が見れば一体何の争いかと驚くだろう。
かなり白熱しているが、実はこれは午後のホームルームで話し合われる文化祭におけるクラスの出し物の話し合い、それの事前戦だったりする。

1時間未満の話し合いで纏まりきるはずがない、と言い切るクラスメイト達が自主的に集合し、火花を散らせている中に頭を抱える金髪犬の姿があるのは…まぁ、珍しいことでもないので突っ込まないことにして。
よくもまぁコスプレの内容でそこまで燃え上がれるものだと、先頭をきって仕切る親友の背中をぼんやりと眺めた。



(内容勝ち取れるかも分からないのに…)



定番のコスプレ喫茶を狙っているらしい彼らの熱意を見る限り、全クラスの話し合いでも押し負かしそうではあるが。



「みょうじっちの猫耳…見たい…でも白のウサ耳は確かに似合いそうだしっ…どっちか一つなんて選べないっスよ…!」

「…そもそもクラス違うでしょアンタ」

「クラス違ってもみょうじっちへの愛に隔たりはないっ!」

「本当残念なモデルだよね」



くっ!、と前髪を乱しながら苦しげに悩む顔だけはいい駄犬にしらけた視線を向けると、だって、と泣きそうな顔で食い付かれる。



「年一回の文化祭っスよ!? しかも高校初の! みょうじっちと出逢って一年目の!!」

「そうよなまえさん、黄瀬くんには便乗したくないけどこういうのは記念なんだから!」

「来年も一緒のクラスに入れるかわかんねーだろ! 変わっても会いには行くだろうけど!!」

「このメンバーでは一回きりなんだよ? 盛り上がらなくちゃ損じゃない!」

「…なるほど」



騒がしい犬の叫びだけでなく、的を射た言葉を投げ掛けてくる友人達の真剣さには、確かに納得はできる。
私自身このクラスに入れてよかったし、皆と楽しみたいという気持ちは心にあった。

ただ、コスプレの内容がどうでもいいだけで。



「さっきから意見言ってないけど、蜜果はどうなの?」



とりあえず、話し合いだけにでも加わった方がいいだろうかとクロッキーを閉じて、全体の意見に耳を傾けながら仕切っていた親友に声をかければ、何やらとてもいい笑顔を浮かべながら、よくぞ聞いてくれた、と頷かれる。
そしてぐるりと周囲を見渡した蜜果は、空気を読んで声を落としたクラスメイト達に向かって人差し指を立てたのだった。



「なまえメイドが見たい人はこの指とーまれっ!」



それからの展開が凄かった。
蟻が獲物に群がるように一斉に蜜果の指を目指すクラスメイトプラスアルファは、気づけばまたもや置いてきぼりを食らう私に構わず、意気揚々と意見を出し合っていて。



「メイドはもちろんロングワンピにエプロンの正当派よ!」

「当たり前だろ! みょうじ様にチャラついたなんちゃってメイドなんてさせられるか!」

「調理はオレ達に任せろ!」

「なまえさんの魅力、最大限に引き出して客引きしてやるわ!!」



だからそこで何故私が中心になるのか…。

こうと決めればチームワークは万全なクラスメイト達を一歩引いた位置から見守りながら、聞こえない程度の溜息を溢した。

今日も我がクラスは絶好調に平和である。






クラス内紛争勃発中




(みょうじっちぃいい! かっわ! めっちゃ可愛いっス!!)
(…へえ)
(ね、ね、アレ言ってみて! ご主人様とかってやつ!)
(お帰りくださいご主人様、お出口はあちらになります)
(惜しい!!)

20121126. 

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