「赤司くん、私は今この時偉大なる発見をしたよ」

「期待はせずに聞こうか」

「ひどい!」



試合記録と練習状況を記したファイルを交互に見つめ、照らし合わせながらこちらを振り向かずに聞くポーズだけ取るキャプテン様に、頬を膨らませたところで気付かれるわけもない。

いや、気付いていたとしてもいつも通り綺麗な笑顔で流されているだろうし、見ていなくても私がどんな顔をしているかなんて彼にはお見通しのような気もするけれど。

それでも聞くと言ったからには、きちんと耳を済ませてくれているのだということは長くない付き合いながら知っているので、その対応のぞんざいさには一時目を瞑ってあげることにしよう。

なんて、調子にのれるほど私は天才でも何でもないんだけれど。
意外と内輪には心が広い赤司くんなので、馬鹿な私が少しくらい調子にのってもスルーしてくれる。別に寂しくなんかない。本当に本当だ。



「木枯らしが吹き始めるこの季節、何故に人は恋をしたがるのか!」

「したがるのか?」

「したがるよ! 寒い季節になると女子は特に彼氏が欲しいと喚き始めるんだよ!」



教室の温かい空気に浸りながら、集った女子の7割は溜息を吐きながら、顔を顰めながら、時には雄叫びを上げるように口にするのだ。彼氏欲しい、と。

そんなことも知らないの? 赤司くんともあろうものが!?

驚く私に特に大きな反応を返すでもなく、興味がないからな、と淡々と言い切ったその背中はクールだった。寧ろクールを通り越してスーパードライだった。
歪みない。けれど赤司くんは思春期男子としてもう少しくらい恋愛ごとに興味を持ってもいいと思う。

まぁ、今は私が語っている方だから無駄な突っ込みは入れずに話を進めよう。
未だに記録を捲りながら顎に手をやって考え半分な彼も、気にしないであげることにする。



「それでね、女子が欲しているものが私には解ったんですよ」

「同じ女子だからな」

「そうだけど! でもその願望の根元に近いものがだね…!」

「結論」

「早い! 早いよ! 会話を終わらせたい気持ちがびしびし伝わってきちゃうからね赤司くん!」



泣くよ!、と叫べばそれ以上は急かさないでくれる赤司くんは変なところで優しい。
それでも振り向いてくれない背中に唇を尖らせながら、私は前置きを取っ払って導き出した結論を述べることにした。



「布団を温めてくれる存在が必要なわけですよ」

「…布団?」



あ、少し反応した。

軽くファイルから上に上がった視線に、嬉しくなって言い重ねる。
そう、布団がね、この時期は冷たくなるでしょう?
入ってすぐは寒いから、きっとそこを予め暖めてくれるくらい、自分を想ってくれる親しい人が欲しくなるんだと思うんですよ。

解説を付け加えれば、見慣れたオッドアイがくるりと振り向く。
その目は特に何かを感じているようには窺えなくて、少しだけ残念に思っていると確認し終えたのか、その手にあったファイルを差し出された。



「付き合ってすぐに夜に女子の部屋を訪れる男なんて、ろくなものじゃないと思うが」

「ちょっ、赤司くんそれぶち壊し! 確かにそりゃそうだけど、今のは比喩でいいんですー」



奪うようにファイルを受け取り片付けながら、くそぅ、と唸る私の背中に今度は彼の視線の方が突き刺さる。
少し不機嫌な態度でなーに、と訊ねて首だけ振り向いた私を、どこか愉快げな目で見つめていた彼はふっと表情を弛めるとその右手を差し出してきた。



「指相撲はしないよ」

「一言も言ってないだろう。みょうじこそぶち壊すな」

「じゃあ何、腕相撲? 私の負けは決まってるのに仕掛ける赤司くんマジ鬼畜1000パーセント」

「いいから相撲から離れろ」



じゃあ一体何なのか。

自然と眉を顰めた私に、お前はそういう奴だな、と小さく息を吐いた彼に首を傾げると、説明することを諦めたらしいその手がファイルを片付けてフリーになっていた私の手を捕まえた。
そのままぎゅっと握りしめられて、呆気にとられる。

え、何これデレですか。
クールデレならぬドライデレなんて聞いたことないんですけど、キャプテン。



「今の時点なら掌分くらいの人肌は与えてやれるが、どうする」



残りのもう片手も流れるような仕草で絡め取られて、何も言えなくなる。
どうするもこうするも、その人肌をくれる期間もどれくらいのものかも判らないのに答えなんて出せるわけがない。

しかも、訊きながらも既に両手とも奪われているのだ。
赤司くんの丸め込みかたは本当に恐ろしい。そう思うけれど。



「冬季限定ですか」

「僕を使い捨てにできるような玉か、お前が」

「…それなら」



よろしくお願いします。

多分恐らく赤くなっているであろう私を覗きこんで細くなる、赤と金色の瞳は作り物のように綺麗なのに、硬くなった掌からじわりと広がる熱は冷たかった私の指先を暖めた。







世界はきっとわたしたちに、



触れ合うための口実を差し出してくれているのかもしれない。

20121125. 

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