自分が素直でも可愛くもない性格をしていることは、重々承知していたことでらあるけれど。



「あんたが何かで一番になれたら、付き合ってもいいわ」



これはない。我ながら、ない。

高校入学直前、拳を固め顔を真っ赤にして必死の告白をしてきた奴に対して、いざという時に空回る私の口は盛大過ぎる照れ隠しを発揮してしまった。
中学時代から友人として付き合いを続けている降旗光樹。奴には私だって少なからず想いを寄せていたというか、憎からず思っていた面があったというのに。
一番手っ取り早く掴めるせっかくのチャンスを逃した私は、今日も今日とて部活に向かう目に馴染んだ背中を見送った後に机に突っ伏した。

また今日も訂正できなかったという、不甲斐なさが身体中を取り巻く。



「もうやだ…」

「自業自得じゃん」



ぴしゃりとツッコミを入れてくれる友人は、私の内面から細々とした事情まで知っていてくれている。
自業自得なんて、言われなくても解っている。呆れた表情で見下ろしてくる彼女に、そーだけどぉ、と唇を尖らせながら私は定番となりつつある愚痴を吐き出した。



「だって、本気にすると思わなかったんだもん」

「だからさー、あの性格知ってて何でそう思ったかね」

「普通に無茶なことじゃん。何かで一番とか、何であっても無理あるから」



ツッコミくらい入れられるかと、私だって思ったのだ。
無理があるだろ、と言ってくれていれば、また違う道筋が続いていたと思う。
なのに奴ときたら、私の言葉をくそ真面目にも真正面から受け入れてしまって。
しかもそれを理由に部活に本腰を入れ始めてしまったから、余計に引くに引けなくない状況になってしまった。



「最近距離できてる気がする…」

「だから自業自得じゃん」

「もー、解ってるってば」



私が一言、はいと頷けばよかったということぐらい。
告白された時点で私も好きだと言ってしまうべきだったことは、解っている。
今だって、私さえ決意を固めれば巻き返せないこともないことも。
だけれど、ふざけ合うことはできるのに、いざとなるとやっぱり素直な気持ちは口から出てきてくれないもので。可愛くない態度ばかりとってしまうし、自分で自分を殴りたい気分になったりもして。

それに、今更訂正しにくい理由は、もう一つ。



「でも、本気で楽しそうだしさぁ…」



他愛もない話で盛り上がって、たまに一緒に遊んだりしていた頃も、それはそれで降旗は優しかったし楽しげでもあったのだけれど。
それよりもずっと、時折挫けて折れそうになりながらも必死に食い付いている奴を見ていると、ああもうこれは何も言えないな、なんて諦めさせられる。



「死にそうにへろへろになっても、前よりいい顔してんだもん」



そんなの、今更嘘でしたなんて、水を差したりできないじゃないか。



「…あんた本当、見てるよね」

「うるさい」



どうせ、見るだけ見ても自分に反映されない人間よ。

だから私のとるべき行動なんて、もう分かりきっているのだ。
決して、決して、逃げているわけではなく。









「あれみょうじ? 珍しく遅いんだ」

「あー…うん、ちょっとね」



帰り際、偶然校門近くでたむろしていた男子集団の中から声を掛けられて振り向くと、馴染みの三白眼が驚いたように瞠られていた。
部活仲間といるようだからあまり邪魔もできないかと、適当に返事をして立ち去ろうとしたのだけれど。何故かチームメイトに軽い言葉を掛けた降旗は、私の近くまで駆け寄って来た。



「? 何か用?」

「え? 送ろうと思って」



じゃあな、と集団から掛かる声に返事をしながら隣に並ぶ男に、今度は私が驚く番だった。



「な、何で。あいつらと帰るんじゃなかったの?」

「いやー、そのつもりだったけど…もう暗くなる時間だし、普通送るだろ?」

「……ば…かじゃないの」

「えっ? オレ何かおかしいかな…」



離れていくチームメイトに目もくれず私の言動を一々気にする降旗が、悔しくなるくらい、免疫力の足りない私の心臓を揺さぶってくる。
何も解りません、なんて顔をしているくせに、こういうところがとことんズルい奴なのだ。

ああもう、本当、嫌になる。



「ねぇ降旗、楽しい?」

「え? ああ、バスケのこと?」



部活用具の入っているであろうエナメルバッグを見下ろして訊ねれば、直ぐ様意図を理解したらしい奴はへらりと相好を崩す。
顔には疲れの色を滲ませていても、その表情に嘘はない。悔しいけれど、やっぱり悪くない顔付きだと思ってしまうから。



「うん。まだまだオレは力不足で追い付けないし、キツいし辛いのも本音だけど…楽しい。っていうか、好きだな、誠凛のチームが」

「…そ」

「でも何で急に?」



顔に疑問符を浮かべて首を傾げてくる奴から、目を逸らしながら歩き出す。

やっぱり、私の気持ちはまだまだ解放できそうにないなと、考えながら。



「別にー」



つられて弛む頬も、その頬が熱を持っていることも、気付かれないように数歩先を歩き出した。






へたれんあい




だったら私は、本当に一番になる日を待っていよう。
何度だって惚れ直す悔しさを噛み締めて、約束が守られる日までに、この口を鍛えながら。

そういうところが好きだって、ちゃんとその時に言葉にできるように。

20131214. 

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