誰だって、好意を持つ相手には好かれたいものだと思う。
少なくとも本気で嫌われたいという人間はいないだろう。いたとしたら頭の作りが本格的におかしいか、好かれる可能性が全くないが故の妥協か。
まぁ、それはいい。そんなことは一般的思考を元に動く私には関係のないことだ。

つまり私は、好きな人に好かれたいという、至極当たり前の神経をしているどこにでもいるような女子高生だということだ。



「どこにでもいる女子高生は告白の練習相手に本命を選んだりしないと思いますけど」

「シャラップ黒子。私の一大計画に口出しは無用よ」

「なら相談しないでくださいよ」



文庫本片手に呆れ顔というのも、他人の相談を聞く態度じゃないと思いますけども。

言い返したい気持ちはぐっと堪える。仕方ない。こいつには計画実行に走る直前の繊細な乙女心なんて解らないのだ。
私は心の広い乙女。小さな苛立ちくらい流してあげようではないか。

買ってきていたアイスティーを一口、流し込んで落ち着く私を、相変わらずな無表情に微妙な感情を乗せる黒子は短い溜息を溢すと文庫本を閉じた。



「というか、本当にやるんですか」

「何よ…邪魔する気? 怪しいとは思ってたけど、まさか黒子も狙って」

「やめてください鳥肌が立ちます。そうじゃなく、本気でそれでうまくいくと思うんですか」



予行練習相手が本番相手だなんて、狼少年になっても知りませんよ。

ずばり、一番の心配点を容赦なく突いてくる黒子は優しいのか厳しいのか。どちらかというと厳しいと思う。誰だこいつを紳士とかフェミニストとか言ったのは。
私なんか最近女子扱いされてない気がするんですが。女子として認識されてる自信もなくなってきたんですが。



(いや、黒子にどう扱われようと構わないけどさ…)


でも何となく腑に落ちない気持ちになるのも否めない、というか…。

とりあえず、私の感情はもう一度流しておこう。
狼少年になるかどうかというのは、まぁ、気にするべきところではある。



「でもあいつ素直だし、疑われてもちょっと頑張れば信じてくれそうじゃない?」

「…人の甘さを逆手にとる女性って怖いですね」

「それに予行練習してれば好みの告り方も知れるし、反復することでいい感じにその気にさせられるかもしれないし…」

「悪質な催眠商法みたいですね」

「使えるものは何でも使うわ…っていうか黒子さっきから本音隠そう?」



すごく悪いことやらかすような気分になってくるけど、あくまで告白しようとしてるんだからね? 予行練習とはいえ胸キュンイベント前なんだからね?

狙ったものを逃がさない精神がちょっぴり強いだけの、本来なら応援されて然るべき状況だ。
ぶう、と頬を膨らませて睨めば、肩を竦めて返される。好きにしてください、と軽く飛んできた言葉はお世辞にも応援には聞こえなかった。



「んだよ、まだ食い始めてなかったのか」



そんな愛のないやり取りが収束しそうな頃、目的の人物が教室へと帰ってくる。
腕に抱えた大量のパンと共にほらよ、と自然に差し出されたペットボトルは、私お気に入りのメーカーのフルーツティーで。
見掛けたから買ってきた、と何でもないように、当たり前のように与えられる優しさが、寸前まで黒子とドライな受け答えをしていた私の胸にどすんと突き刺さる。

これだから、これだからさぁ…!



「火神…」

「あ?」



まだ腰を下ろしていない火神に合わせ、立ち上がる。紅茶を差し出そうとしていたその手ごと両手で包み込むと、きょとんとした顔で見返された。そのあどけない子供のような表情、中々の巨体のくせにマジ天使。
なんとなく周囲から集まる視線は察知しつつも、気分の高まった今を逃す手はない。自分でも判るくらい熱のこもった瞳で見上げれば、その先の身体がびくりと揺れた気がした。



「あのね、実は私…ずっと前から…火神のことが好きだったの…」



もう食べちゃいたいくらい可愛くって大好き…とは、さすがに言えないので飲み込んでおく。自重は大事だ。それくらい判る。

さて、どのくらいのタイミングで練習だと暴露しよう。あまり間を空けると気まずさが漂いそうだし、もう言っちゃった方がいいかな。
なーんちゃって、と続けようと一度閉じた口を再び開けようとした時、ぼたぼたと、火神のもう片手に収まっていたパンの袋が落ちて中身が散乱した。



「……っ…は、なっ…なっなに、おまっ」

「へ?」

「こっ、きょっ…こんな場所でっ…っ!」



そして握ったままだった手が慌てて引き抜かれる。耳どころか首まで真っ赤にした私の想い人は、アホかあああ、と今にも泣き出しそうな声を上げながら今来たばかりの道を逆走していってしまった。

あれ、何か、ちょっと。まだ私練習って言ってないんだけども。
いや、しかし、今の反応は。



「黒子、これ、もしかして脈アリだね?」

「もしかしなくても、そうですね」

「…っしゃあああ待ってろマイエンジェル!!」



今こそ乙女の底力見せてやるわ!!

周囲の目線なんて、最初からあってないようなものだ。
こうなったらもうこれが本番でいい。落とされた硝子の靴ならぬ購買部のパンをかき集めた私は全脚力で駆け出した。








重なる心、重なる影




計画なんてくそ食らえ。手に入るなら何でもいい!



(待て火神ぃぃぃ! 昼食食いっぱぐれるよぉぉぉ!!)
(そーゆー問題じゃねぇぇぇぇ!!)

20130918. 

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