※モブ視点。未来設定で大学生。







受験戦争を乗り越え、無事現役入学を果たした大学のゼミで、オレは同じ人間であることを疑いたくなるような男と出会った。
何よりも目を引くのは、その体躯。オレも高校時代は運動部に所属していたから貧弱な体つきをしているわけではないが、そいつはその辺りのレベルを遥かに越えていた。

簡潔にまとめると、でかいのだ。やけに。
180越えでも高身長と呼んで差し支えないと思うのに、それをも凌駕するそいつの身長は200センチ越えという上背。お前は本当に日本人かと訊ねたくなるような男は、その見た目の迫力にそぐわない幼さを備え付けているせいか女子の目を引いた。
とどのつまり、モテた。女子がギャップ萌えに弱いとはよく聞くが、この見た目で菓子好きという一面が母性を擽るとか何とかで、キャンパスライフ開始直後から餌付けを企む女子どもがまとわりつくのを呆れ半分羨ましさ半分に、オレは見つめていたのだが。



(どういうことだよ)



降って湧いた存在に、覆い被さるような勢いでじゃれつく巨体に、開いた口が塞がらない。

未だかつて、女子の猛アピールに靡かなかった男が。
食にしか興味がないといった素振りしか見せなかった男が。
菓子を与えることでしか笑顔を引き出せないような男が…!



「あー、やっぱなまえちんいると癒されるー」



オレは今、幻でも見ているのだろうか。夢かとつねった頬が痛いが、それよりも目の前の状況を受け入れきれない。
その胸にも届かないような身長の女子に、でれでれと。見たことがないような満面の笑みでちょっかいをかける紫原敦その人間が、普段から考えると露骨にも程がある態度の差が、信じられなかった。

お前今までのやる気の欠片もないような態度はどうしたよ…!?



「もう…大袈裟だよ」

「んなことねーし。うちのキャンパスになまえちんがいるとか、めちゃくちゃ幸せだし」

「敦くん、恥ずかしいから」



まるでいたいけな少女が獣に擦りつかれているような光景だった。
食堂で昼食をとっている最中、唐突に現れたその女子を視界に入れた紫原は何よりも重要視するはずの食を放り出してぱっと、それはもうあからさまに表情を変えたかと思うと、喜色満面その女子に抱き付いた。

それがどこにでもいる大学生のやったことなら、まぁスキンシップに慣れた奴なんだろうとさして興味も引かれなかったかもしれない。
だが、その行動をとったのが紫原。入学から何かと目立ち、普段愛想の欠片もないような奴だった場合。注意を引くのは当然のなり行きというやつで。

現に、近場のテーブルに着いている生徒は一様にこちらに注目している。
周囲を顧みない紫原はともかくとして、居心地悪げにそわそわと視線をさ迷わせたその女子は、紫原のいたテーブルに着いていたオレに気付くと軽く肩を揺らした。



「あの、ごめんなさい、食事の邪魔をしてしまって」

「えっ!? あ、い、いや、オレは別に…」



長い腕の中に収まりながら、恥じらい混じりに申し訳なさそうに眉を下げてきたその女子は、なんというか自然体で胸を擽るような可愛い子だった。
今まで紫原の傍に集まった女子のような我の強さや雰囲気は感じない。思わずまじまじと見つめてしまうと、それが不満だったらしい男の規格外の掌が彼女の視界を遮るようにその顔の前に出てきた。



「勝手に喋んないでよー。あと見んな」

「お、お前それは理不尽じゃね?」

「全然理不尽じゃねーし。この子はオレの彼女なんだから、オレ以外と仲良くしなくていーの」



警戒心ばりばりといった様子で高い位置から見下ろされる迫力は、壮絶なものだった。
一応友人という立ち位置にいるはずの男から発せられる敵意に、ごくりとオレが唾を飲み込んだ時、隠し込もうとする手に細い指が掛かったかと思うと、強制的に下げさせられた。



「敦くん、それはちょっと横暴…だし、失礼だから…」

「なにそれ。なまえちんオレよりこいつにつくの?」

「そうじゃなくて…こんな注目集めて、見るなってのは…」



無理、だと思う。

恥ずかしさを堪えるように絞り出されたか細い声に漸く周りに目が行ったらしいそいつは、あ、と小さな声を漏らすと自分のいたテーブルの席に着き直した。
注目を集めた張本人は集まる視線に気付きはしても、気にまではしない。
傍にいた彼女を当たり前のように引き寄せて器用に膝の上に乗せたそいつに、目を剥いたのはオレを含めた周囲の方で、慌てたのも彼女一人きりだった。



「ちょっ…敦くん、これ余計駄目だからっ…見られるから…!」

「えー? 今更じゃん。空いてる席も少ないし、オレなまえちんとくっついときたいし。よくない?」

「よくないっ! 駄目、恥ずかしいから、お願いだから普通に椅子に座らせてっ」



席が少ない、と言ってもオレ達の着くテーブルには余りがある。
騒然とし始める周囲を気にしながら紫原の手から逃れ出た彼女は、聞いた限りでは所謂交際相手、らしいが。



「ま…まともだ……っ」



体躯から価値観からぶっ飛んでいる紫原と付き合っているにしては、まともすぎる。

意図せず口から滑り出た言葉に、振り向いた紫原は不満げに眉を顰めたが。
心なしか苦い笑みを浮かべたその女子は、改めて椅子に腰掛けながら小さく溜息を吐いたようだった。









彼と彼女となぜか僕





「で…彼女さん?、は、何でここに…?」

「一緒にいたいから」

「え?…いや、え?」



極端過ぎて全体の見通しの効かない答えを返した紫原は、再びテーブル上の昼食に手をつけ始める。

いや、一緒にいたいって。
気持ちは解らないではないが、根本的な理由にはなっていないだろう。



「通う大学が別になって、物足りないんです…多分。敦くんがうちのキャンパスに来ると目立っちゃうし、一度一緒に過ごせれば満足するって言うから…それなら私が来た方がいいかな、と思ったんですけど」



食に集中し始めた紫原に代わり答えてくれた彼女は、別の方向に目立っちゃったみたいだけど、と苦笑する。
その態度はどこにでもいそうな人当たりのよさで、紫原に振り回されている現状を見ると何故かこっちが切ないような気分にさせられた。

びしびしと、彼女の横から地味に突き刺さる敵意はとりあえず気にしないことにする。



「…って、物足りない?…てことはもしかして、高校からの付き合いとか?」

「正しくは、中学から」

「なっが!!…あ、いや、ごめん…いやでも、よく続くね…そんな」



相手が紫原なのに、なんて口にすれば命を落としかねないので飲み込むが。
それにしたって、中学生なんて思春期真っ只中からそう長く付き合えるカップルも中々いないだろう。それが、こんな恋愛のれの字にも反応しないような奴とそこまで続くとは。

半ば信じられない気持ちで穏やかに笑っている彼女から視線をずらせば、デザートに買っていたらしい杏仁豆腐を突いていた紫原と目が合った。
その目が気分良さげに細まるのも、よく見えて。



「可愛いでしょ」



あげないけど、と口角を上げたそいつは、もしかしたらかなり食えないタイプだったのかもしれない。
周囲のテーブルであからさまに肩を落とす女子や愕然とする男子、それらを知ってか知らずか、横に座る彼女に甘い顔を見せるその男、紫原敦の性質を見直すべきかどうか。

頭を冷やしたくて飲み込んだ水がやけに甘く感じて、胸焼けがした。




(さすがに講義までは一緒は無理かー…残念)
(てか、いいのか彼女。あのまま食堂に置いてきて。女子とかに絡まれるんじゃ)
(あー…まぁ、大丈夫っしょ。なまえちんあれでいて結構強い子だし)
(……お前、まさか女避けに使う気じゃ)
(彼女いるって一々言わなくて済んでいーよね)
(お前…!)
(オレあの子以外いらないし。鬱陶しいの嫌い)
(……お前ほんと、色々裏切りすぎだろ)
(そーお? でも敵わないって理解して、諦めた方が無難じゃない?)
(……正論だけど、なんだかな…)

20130809. 

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