「うー…ダルいー…」

「うん…湿気がきついもんね…」

「なまえちん…暑いよー」



台詞とは真逆にべったりと張り付いてくる彼に、未だにドキドキしながらもそうだね、と頷く。私も私でマネージャー業に専念していた所為で汗をかいているのが気になるけれど、それ以上に練習で動き回っている紫原くんの方は気にせずくっついてくるので、もういいか、という気持ちになった。
蒸し暑い気候に、若干頭のネジが緩んでいるのかもしれない。

梅雨時期もそろそろ終わりとはいえ、次には本格的に太陽が猛威を奮う季節がやってくる。
これからまた更に暑くなるんだなぁ…と、ぼんやりと思いながら、まだ渡していなかったドリンクはその手に握らせて、タオルを持ち上げて彼の頭に被せた。
体勢はかなりきつい。けれど、そのまま汗を拭き取ってあげると彼の機嫌が浮かび上がるので、これも一応私の仕事なのだ。

休憩時間で皆してだれているので、部員の視線は気にならない。



「なまえちんあんま無理しないようにねー」



いまいち気候定まんないし、と大人しく私に頭を預けながららしくない心配をしてくる彼に、私はつい相好を崩してしまう。

怠い、という気持ちの次に私の体調を考える、その優先順位が堪らなく嬉しい。



「大丈夫だよ。私これでも弱くないんだから」

「んー…知ってるけど、一応。丈夫でも無理しちゃ意味ないしー」

「うん。紫原くんに心配かけたくないし、気を付けるね」

「うん、そーして」



約束ね、と緩んだ表情で見下ろしてくる紫原くんに、もう一度素直に頷き返す。
それに満足したのかいい子、と大きな手に頭を撫で返されて、きゅう、と胸が縮まった。

改めて、優しくしてくれる紫原くんが好きだと思う。



「にしても暑いー…アイス食べたいなーアイスー」

「部活終わったら、買いに行こうか」

「行く。行くけど、今暑いんだよねー」



今身体を冷やしたい、と言う彼に、それはそうだろうなという思いを抱くも、部活中となればどうしようもないわけで。

少しでも暑さを紛らす方法もマネージメントの課題にしてもいいかなぁ、なんて考える私は彼に甘いのだろうか。
いや、でも快適さって大事だとは思うし…延いては部活全体の為と思えば決して悪い考えではないはず…。



(って、言い訳してる時点で不純かな…)



暑さの所為か、元からか、偏る思考に溜息を吐き出す。我ながらどうしようもない。
そんな私を不思議そうに見下ろしてくる彼に再度視線を送れば、タオルの影から乱れた紫色の髪が見えた。



「…あ」

「? どしたのなまえちん」

「えっと…紫原くん、髪の毛括ったら少しは涼しくなるんじゃない?」



秋田に来て、更に伸びた髪を見て考える。その髪型が似合わないわけではないけれど、夏場に首もとに髪がかかるのは鬱陶しいだろうと。
女の私でもそうなのだから、彼は更にそう感じることが多そうだ。そう思って提案すれば、ぼんやりとしていた紫原くんの瞳がはっと見開いた。



「なまえちん括ってくれるっ?」

「う、うん。ゴムもあるし」

「じゃーそれ、なまえちんと同じにしてっ?」

「え…う、ん?」



同じ…?

期待をこめた眼差しに、少しばかり仰け反る。
同じ髪型、というと、今の私は機能性重視でお団子にまとめ上げているのだけれど。
さすがにお団子にできるほどは紫原くんの髪は長くない。



「お団子は…ちょっと長さ的に、無理かな」



スッキリするし、できるものならやってあげたいけれど。
申し訳ない気持ちでそう返せば、一瞬えー、と唇を尖らせた彼は良案でも浮かんだのか、再び強く主張してくる。



「じゃあいつもの! いつものなまえちんの髪型は?」

「え、ハーフアップ?」

「名前知らないけどいつものなまえちんの髪型、できない?」

「や…できると思うけど…でもそれ、首に髪がかかるのは変わらないよ?」



暑いのも、変わらないと思うし。

戸惑う私の前にしゃがみこむ紫原くんは、怠そうな雰囲気も消えてご機嫌だ。
これはもう、決まりなのか。



「なまえちんと同じなら暑くてもへーき」



上機嫌に私を待つ彼の笑顔には、勝てない。
嬉しさ混じりの恥ずかしさを噛み締めながら、私はしゃがんでも高い位置にあるその頭へ、手を伸ばすのだった。






おそろい




何だかちょっと可愛いな、なんて。
言ったら怒られてしまうかな。



(お前何その髪)
(なまえちんとおそろいー)
(マネージャーにやってもらったんか)
(そー。いいでしょ)
(マネージャー今は団子にしてるアル)
(いーの。また明日朝からやってもらうし)
(えっ…学校でもするの?)
(うん。なまえちんとちゃんとおそろいにしたいし)
(そ…そっか…)

でも、やっぱりちょっとだけ、恥ずかしいかもしれない。

20130615. 

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