※やっぱり黄瀬が女々しいので注意。






来るだろうとは、予測できていた。
一度懐に入れると過剰なまでに意識する彼のことだ。彼女に対して何かしらのアクションを取ることも容易に想像できたことで、意外なことでも何でもない。

それに対し、何の感情も抱かない、というわけでもないが。



「黒子っち! 何であんな子とつるむんスか!」



校内で幼馴染みと過ごせる貴重な昼休みを縮めてくれたチームメイトは、その日の放課後の部活時間、待ってましたとばかりに部室に入ったボクに飛び付いてきた。
悪気があるわけではないことは理解している。しているが、あまりにも予想と違わず鬱陶しい反応に自然と自分の声が低くなるのが判った。

彼は、気づいていないようだが。



「あの子、ですか」

「黒子っちの幼馴染みとかいうあの子! みょうじサンだっけ? 今日偶然鉢合わせたんスけど、めっちゃ性格悪いじゃないっスか!!」



ぎゃんぎゃんと、駄犬よろしく騒ぎ立てるチームメイト、黄瀬くんに、ふつり、胸の内で黒い感情が蠢く。
彼女との時間を奪っておいてこの言い種だ。何様かと、つい毒を吐き出しそうになる口を一度閉じて開き直した。



「こういうのをブーメランって言うんでしょうね」

「はぁっ?」

「黄瀬くん、いいことを教えてあげます」



それまで逸らしていた目をぐるりと回して睨み上げれば、騒がしかったその口が反射的に閉じられる。

大事なチームメイトに向かってこんな感情を抱きたくはないが、この場合は仕方がないことと割り切った。
自分を棚に上げて彼女を貶す、彼に対して苛立ちしか込み上げなかったのだ。



「なまえは鏡なんですよ」



何も知らないから喚き倒せる。何も知らないから蔑める。
見当違いなお節介は、その身を貶めることを理解させねばならない。
これも元教育係の使命ですよね。

ぽかんと口を開けて間抜けな顔を晒す黄瀬くんは、中々に滑稽だった。



「か、鏡…?」

「そう。なまえは主体が微少な人間なんです。ボクが関われば話は別ですけど」

「どういう…?」

「なまえは他人の感情を正確に読み取れます。そしてその相手の望む形を忠実に再現して返します。もしくは、気に入らない相手なら皮肉代わりに鏡写しの反応を返します」

「……え、っと…」

「つまり、君が彼女を性格が悪いと思ったなら、君の性格の悪さが彼女に露呈したため、そのまま返ってきたんですよ」



段々と身を縮めてゆくチームメイトを眺めながら、淡々と言葉を並べ立てる。

彼女は昔からそうあった。期待に応えるのが上手で、これと決めた人間には愛情深い。
だからこそ、彼女の中で重要視される人間は限りなく優遇されてきている。
その中に、確かにボクは存在する。これほど幸せなことはないと、思っている。



「それで、君、ボクの大事な幼馴染みに、一体どんな不躾な態度をとったんです?」

「え、えっと…黒子っち、何か怖いっスよ?」

「そうですか。どうでもいいです。それで、どんな重要な話題があってボクとなまえの時間に無意識とはいえ水を差したんですか?」

「あ、の…」

「寧ろ誰の許可があってなまえに話し掛けたりしたんですか? 名前を呼ぶことすら許した覚えはないし、関わってくれなんて頼んでませんよね。剰え彼女に対して礼儀に反する態度までとって、最終的には雑言をばら蒔く、と。ここまで来るとどう頑張っても好意的には解釈できませんが…君は何がしたいんです? ボクを怒らせたいんですか? 黄瀬涼太は性格が悪ければ器も狭く最低な人間だと、そんなレッテルを貼らせたいんですか?」



どうなんですか、黄瀬くん。黙っていても分かりませんよ。さぁ何か答えてみてください。三秒以内に。

ご自慢の顔を真っ青に染めるチームメイトを、嫌いたいわけではないけれども。
誰よりもボクを愛し尽くしてくれたただ一人を引き離そうとするならば、打つ手は変わってくる。
ボクはボクから彼女を奪う要素を、一欠片だって残しておくつもりはない。

その相手が、誰であろうとも。
例え共に勝利を掴むべく、切磋琢磨してきた仲間であろうとも。



「ああそうだ黄瀬くん、もう一つ教えてあげます」



完全に初期の勢いを失い、言葉を失う彼に対して、今は可哀想に思うこともできない。
当然だ。ボクがどれだけの時間を彼女と過ごし、癒され、救われてきたかも知らない人間に、好き勝手に関わられて不愉快にならないのは難しい。

だから、ここで牽制しておこう。
もう二度と馬鹿な行動に走られないように。思考に至れないように。彼女に近付くことの、ないように。



「愛しているのは、ボクの方なんですよ」



だから、邪魔しないでくださいよ。







愛される or 愛する




鏡のように愛し返してくれる彼女との絆を、こんな馬鹿げた理由で邪魔をされては堪らないのだ。

20130614. 

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