※未来設定により関係性のネタバレあり。中学生。






体内時計で自然と目覚めて、ベッドの中で伸びをする。込み上げる欠伸を吐き出しながら床に足を下ろして、まずやることは顔を洗いに行くこと。
部屋に帰ってくるタイミングで鳴り響く着信メロディに、慣れた仕種でベッド脇に置いてある携帯をとる。

それが、私の朝の始まり。



「はーい。おはよう征ちゃん」

『おはようなまえ。調子は変わりないか』

「そこそこね」

『そうか、ならいい』



満足げなその声を聞きながら、毎朝よく飽きないものだといつも思う。
とりあえずはこちらからも様子を訊いて、返事を貰えばモーニングコールは終了だ。

制服に着替えて階下に下りれば、朝食をとり終える頃の父と出会す。出勤時間の早い父と朝食をとることは少なく、先に支度を終えて仕事に出掛ける父を玄関で見送るのも親子間の一つの約束だ。
相変わらず子煩悩丸出しな父を母と二人で笑顔で送り出し、その後自分の支度にも取り掛かる。

制服の上にエプロンを着け、自分の弁当用のおかずの製作だけは手伝って、詰め終わった後に変わらず美味しい母の料理に舌鼓を打つ。
天気予報ついでにニュースも視て、歯を磨いて身嗜みを整えた頃、今度はインターホンの音が響く。これも日常風景というやつで。



「なまえ、準備は整ってるな」

「本当読んだようなタイミングで現れるよね…」

「なまえのことだからな」



朝から一切隙のない、中学生男子にしては整い過ぎたオーラを隠しもせずに現れる幼馴染みに、肩を竦めてみせながらも請われるがままに従ってしまう。
見送る母に挨拶をしながら当然のように差し出される手を取れば、家の門の前につけられていた高級車に導かれる。小学校までは集団登校で許されていたものが、学校までの距離の増えた今は征十郎の登下校の殆どは送り迎えつきとなっていた。
毎日これでは息が詰まるということで、たまに公共機関を使うこともあるのだけれど。

その征十郎とは、学校に着いた後は校門で別れる。
その際車内でもずっと繋がれていた手を離すのに手間がかかるのは…まぁ、これもいつものことだ。
甘える幼馴染みは可愛くないかと訊かれれば勿論可愛いが、どちらかというとしぶといから面倒臭いという思いが勝る。



「メールはできる限りこまめに返せ。厄介事に首も突っ込むな。それから、何かあったらすぐにオレに連絡すること。いいな?」

「毎日のことだけど…征ちゃん心配し過ぎだから。そんな私危なっかしくないでしょう?」

「危なっかしくはない。が、心配にはなる」



ぎゅう、と握り締められる手にはその気持ちがありありと表れているが、時は登校時間。周囲を通り過ぎる生徒達の興味深げな視線に溜息を吐きながら、私はできるだけ優しく拘束を解く。
む、と眉を顰める幼馴染みの機嫌を最低ラインまで落としきらないよう、赤い髪に隠れた額に自分のそれをくっつけて、それじゃあ行ってきます、と口にして。
これで少しだけ機嫌を直し、表情を弛める征十郎はまだまだ可愛いものである。

その後漸く、私の至って平和な学校生活が始まる。
幼馴染みからのメールは度々入るけれど、それらに無難な返信を送りつつクラスメイトとも交流を深めて、授業には真剣に取り組む様を見せて内申点を稼ぐ。放課後は生徒会の仕事に従事しながら周囲の信頼を獲得することも忘れない。
休む暇は少ない毎日の繰り返しでも、慣れてしまえば何てことはない。欠かさず送られてくる幼馴染みからのメールにも、辟易することはなくなった。

ブレザーのポケットで震える携帯を感じながら仕事をこなし、きっちり下校時間に帰路につく。時期によっては夕日も沈みきるその時間、一人きりで下校する私の隣に黒塗りの高級車が並び、停まる。
何も知らない他人が見れば誘拐と見紛うレベルで引きずり込まれる車内には、朝に別れたままの幼馴染みがやや不機嫌な表情で居座っていた。

それでもしっかり私を拘束する辺り、本気で機嫌を悪くしているわけでもないのだろうが。



「ただいま征ちゃん」



この子は本当にどうしようもないなぁ、と思いながらも空いている手を伸ばし、昔からしているようにその頭を撫でる。
大体は軽いスキンシップで溜飲を下げられるのだけれど、今日の征十郎はそれだけでは不満のようで、半眼で私の腰を引き寄せるとしがみついてきた。
最早抱き付くとかいうレベルじゃない。ぎしぎしと軋む背中に、私は慌てて呼吸を確保する。



「ちょ、苦しい征ちゃんっ」

「メールはこまめに返せと、言った」

「はっ? ちゃんと返したじゃない」

「最後は返ってきていない」



束縛癖持ちの彼女ですか君は。

つっこみたい思いを堪えて、呼吸だけは深くしながら逞しく育ちつつある背中を撫でるように叩く。

その力や体型を確かめる度に、本当に大きくなったなぁ…と感慨深いような気持ちにもなるけれど、中身の方はそう変化がないのがまた切なさを誘う。
知られないように嘆息しながら、徐々に男のものへと骨格を変えてゆくその肩に顎を乗せた。



「何かあったのかと思っただろ」

「ないよ。いつも言うけど、征ちゃんは心配し過ぎ」

「し過ぎなくらいがちょうどいいんだ、なまえには」

「過ぎたるは及ばざるが如しって言うでしょう」

「転ばぬ先の杖とも言う」



ぎゅう、としがみついてくる幼馴染みに、幼い頃の面影が重なる。
年々大人に近づいているはずだ。それなのに消えない執着心に、私は今日も諦め半分に目蓋を伏せた。

こんな日常に安堵する、自分に一番呆れ果てながら。







とりあえず、すべて愛情




這い出せなくなったら、どうしてくれるの。

既に片足は突っ込んだ状態で、私は日々、重すぎる愛情の処理に追われる。

20130613. 

[ prev / next ]
[ back ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -