中学三年での一年間、さすがに席までずっと隣通しというわけにはいかなかったけど、同じクラスだった。
授業中だって少し首を回せば簡単にその姿は見つかっていた。それはいつの間にか当たり前になって、どれだけ幸せなことなのかも忘れてしまっていて。



(結局、離れて気付くんだよねー…)



これだから人間は駄目だよなぁと、見回したところで張り合いのない教室内をぼうっと眺める。教師の声は一応拾っているけど、勉強が楽しくなるわけもない。

高校まで一緒に来てくれたことだけでも、充分以上に恵まれていることだって自覚してるけど。
それでも、いつでも目の届く場所に居てほしくて、見つめていたいと思うオレはやっぱり病気なんだろう。
まぁそんなの今更だけど。



(つまんねーし)



なまえちんの顔も見れない。お菓子も食べられない。授業中がこんなに苦痛なものだったなんて、高校に入ってから初めて知った。
だからって不貞寝してみても叩き起こされるし。あまり教師の機嫌を損ねると補習まで押し付けられるから、不真面目でいすぎるのもよくない。

早く昼休みになれと念じながら、うんざりするくらいよく晴れた窓の外に視線を向ける。
相変わらず最後尾で、しかもくじ引きで窓際を当てたこともあって、近い距離にある外を眺めるのは簡単だ。
体育の授業中でグラウンドに散らばる生徒達に何気なく視線をさ迷わせた次の瞬間、その中によく知る色素を見つけて一瞬息を飲んだ。

ミルクを溶かし込んだ紅茶のような、甘ったるい色の髪。
そう遠くない場所でふんわりとした笑顔を浮かべ、近くにいる女子生徒と会話を交わしていたのは紛れもなく、オレが今正に顔が見たいと思っていたオレの彼女で。
思わず名前を呼んで手を振りそうになった自分を、咄嗟に押さえられたのは偉かった。自画自賛できる。

だって、今会いたいと思ってたなまえちんを本当に今見つけるとか、もうこれ運命でしょ。ミドチンじゃないけど今日のオレの運勢は上位に違いない。
そんなことを考えながら、ふわふわと浮き上がる機嫌を自覚しながら、久々に見た授業中のなまえちんの姿に頬が弛んだ。



(可愛い)



オレの傍にいる時のなまえちんが、一番可愛いとは思うけど。
でも、女子と関わる時のなまえちんもそれはそれで違った可愛さがある。オレじゃない男子といる時も可愛くはあるけど、面白くないのが先に来るからそれは省いて。

女子の仲間の中でころころと表情を変えるなまえちんを、数十秒くらいは見つめただろうか。
順番が来たのか、バラけはじめた女子の集まりから不意に顔を上げた、その視線がばちりとオレと重なった。



「っ」



あ、と声を漏らしそうになって、踏み留まる。
驚いたのは、今まで見つめていたオレよりもあっちの方が強いはずだ。
だけど、一瞬丸く瞠られた瞳はふにゃりと弛んで、照れたような態度で顔の隣まで上げた手を二、三度振って、恥ずかしさを隠すように背を向けて走り出す。小さな背中を、最後まで見送ることができなかった。



「……なに、それ…」



可愛いどころじゃないんだけど。
可愛いにも程があるんだけど。



(意味解んない……)



机に広げたノートに突っ伏しながら、ペンを投げ出した拳を握り締める。

あんな嬉しそうな笑顔を向けられたら、授業とか吹っ飛ぶし。
ていうか、本当何なの。視線が合っただけで幸せとか。



(重症すぎんでしょー…)



でも、嫌だとも思えないから、困る。







伝わる幸せ




言葉も手も、届かないのに。
どうして一瞬で満たされてしまうんだろう。

20130511. 

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