※幼心との繋がり有り。付き合ってます。







生徒玄関の近くに文化祭で撮られた写真が掲示され、予約が始まった。それが恐らく、そもそもの切っ掛けだったように思う。
付き合い始めて長くは経たない彼女との仲が、大きく進展したのもちょうど行事期間のことだったから、そのことも思い出してつい話が弾んでしまった。



「そういえば、模擬店のコンセプトを考える時、僅差だったよねぇ」



小動物のようにちまちまとおやつを囓る様が可愛いなぁ、なんて思いながら見つめていた時だった。
思い付いたようにきらりと輝く瞳は無垢で、一瞬反応に遅れながらも頷き返す。

確か、女装を推す女子とコスプレを推す男子とで、学級会議中に酷く討論していた記憶がある。
結局は人数配分の問題もあってコスプレ喫茶に落ち着いたが、あの熱気を思い出すと未だに苦笑が溢れそうになった。
オレとしては、可愛いなまえを見られて幸運だったと思うが。



「あれね、私ちょっと残念だったの」

「え?」

「私だけじゃないと思うんだけどねー…」



頬を染めながら相好を崩す彼女に、胸の高鳴りを感じながらもつい首を傾げた次の瞬間。
放たれた言葉に、オレは凍りつくことになる。



「辰也くんの女装って、絶対綺麗だよね」









 *




「どうすればいいと思うアツシ」

「何でオレに聞くの」



時は変わって部活時間。
練習着に着替えながら粗方の事情を話し終え、最終的に問い掛けたオレに対して、生意気なところのある後輩はうんざりとした顔で振り向いた。
それだけに留まらず、室ちんうざい、とはっきり口に出すそいつに軽い苛立ちを覚えたが、ここは我慢だ。相談を持ち掛けながらキレるわけにもいかない。



「だってアツシ、女装経験あるんだろ」

「人を変態みたいに言うのやめてよねー」



クラスの出し物でやっただけだし、と不貞腐れた顔をするアツシには悪いが、そういう事情は正直どうだっていいのだ。
重要なのは、経験があるかないか。その際の内面事情も気になる。



「普通に、気色悪くないのか?」

「室ちん喧嘩売ってんの?」

「いや、悪い。違うんだ。アツシは勿論、オレもガタイは悪くないだろ? どう考えたって女性の服を着るなんてアンバランスだと思うんだよ」

「まー筋肉とかあるしねー…肌が隠れるようなのでも身長は誤魔化せないしー」

「だろ? それを端から見て綺麗だなんて言えるとは思えないというか…」

「でも可愛いらしいよ。意味解んないけど」

「……彼女が言ったのか?」

「うん」



こくん、と頷いた後輩に、頭を抱えたくなる。
こんなデカい男の女装、それを可愛いと称するその彼女の感性が解らなかった。

そんなオレを見下ろすアツシの顔は平然としていて、何を気にする様子もない。
男には解んない感性なんだよ、と悟った言葉を吐く、アツシの考えすらオレにはよく解らない。



「じゃあ…アツシは彼女に頼まれれば女装するのか」

「えー? うーん、まぁ喜ぶならしてもいいかな」

「…My god」

「うわ何その反応」



思わず目元を掌で覆う。
アツシのキャラクターなら許されるのかもしれないが、自分よりも上背のある男が女性の装いをする様はあまり想像したくない。

どうやらその反応が気に入らなかったらしい後輩は、じゃー室ちんは着なきゃいいじゃん、と投げ遣りな答えを返してきた。



「いや、なまえが喜ぶことなら何だってしてあげたいんだ…でも本当に喜ぶなんて思えないだろ…?」

「それは室ちんの物差しで測った考えでしょー。別に頼まれてないならしなくていいじゃん。その程度ってことで」



その程度、とは随分な言い方だ。
恥を晒して引かれないとも限らないじゃないか。折角付き合うことができた彼女には、良いところを見せたいと思うだろ。



「何だってアツシはそんなに簡単に答えを出せるかな」



はぁ、と吐き出した溜息に、同じように苛立ち紛れのそれが重ねられた。



「あのねー、オレは室ちんよりずーっと必死で本気なの。オレの愛情度舐めないでよね」

「…オレが本気じゃないとでも言いたげだな」

「そんなん知らないけど。でもたった二、三ヶ月と三年以上の片想いじゃ、重さが全然違うし」

「愛は時間じゃない」

「じゃあどこまで妥協できるかなんじゃないの」



今日のアツシは中々手厳しい。

びし、と突き刺さる視線に意味もなく口角が上がった。
確かに、どこまで相手に譲りきれるかは重要なポイントかもしれない。しかし、だ。
それだけで愛情を量られるのも、不愉快だろう。

愛の差なんて。



(認めるか…!)









思案四時間




彼女の笑顔が見たい。喜ばせたい。
それはそうとしてもやり方を選びたいというのは、別に我儘でも何でもないと思う。



「なまえ…悪いんだけど、やっぱり女性の格好は女性がするから映えると思うんだ」

「へ? うん?」



翌日、悩みに悩んで出した結論を朝一番の会話の中で伝えれば、ぱちりと瞬いた瞳が不思議そうに見上げてきた。



「んーと…もしかして辰也くん、昨日言ったこと気にしてた?」

「まぁ…それなりに」

「えっごめん。思い付きっていうか…似合うだろうなって思っただけで、辰也くんを困らせたいわけじゃなかったんだけど…」



申し訳なさげに眉を下げるなまえに、ぐっ、と息が詰まる。
オレの恋人は、なんて健気なんだろうか。

普段から滅多に我儘や願い事をしない彼女だから、小さな興味でも拾って叶えたい気持ちが込み上げる。
でも、女装はやっぱり似合うとは思えない。



「悩ませちゃったなら、ごめんね」

「いや…寧ろ、聞いてあげられなくてオレの方こそごめん」

「ううん、いいよ。女装とかしなくても、私辰也くんのこと大好きだもん」



ね?、とオレの手を握りながら微笑むなまえに、熱い感情が渦巻くのを感じた。

ああもう、これだから何だってしてあげたくなるんじゃないか。



(他に願い事があったら、何でも言ってほしいな。できる限り叶えるから)
(え…辰也くんがいてくれればそれで私は嬉しいよ?)
(っ…なまえは、オレを喜ばせる天才だよ…)
(…それはお互い様、なんじゃないかなぁ)

20130421. 

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