※奪った者勝ちよと同ヒロイン。黄瀬が女々しいので注意。





我が幼馴染みは、幼い頃から極端に存在感が薄い子供だった。
物心が付く前からよく一緒に遊んでいた私にはあまり感じないことなのだけれど、周囲の人間は尽く彼を見失い、最初からその場にいるにも関わらず、唐突に現れるなどと勝手なことを言って大袈裟に驚く。
そんな反応を見て私がその事に気付いた頃には、本人は既に自らの性質は自覚していたらしい。



「いつもかくれんぼしてるきぶんです」



当時からあまり変化のなかった表情を僅かに寂しさに傾けて、呟いた幼馴染みの手をぎゅっと握り締めたのを、覚えている。






 *



「さて、行かなくちゃ」

「え、なに?」

「ちょっと用事があってさー。今日はご飯他の子と食べてくれる?」



昼休み突入直後直ぐ様席を立ちながら、いつも一緒に昼食をとっている友人に断りを入れる。
まぁいいけど、と頷いてくれる淡泊な友人にお礼を言ってから、私は机横に掛けていたバッグを手に取った。

今日は幼馴染みの両親が朝から忙しいとのことだったので、彼の分のお弁当も作ってきたのだ。

廊下に出ると、まず確認するのは窓の外だ。
本日快晴。風も強すぎず、天気は良好。となると、居場所は外である可能性が高い。
中学生という幼さ故に携帯を持たない生徒が人を探すとなると、この広い校舎では中々の重労働になる。
特に目撃情報を得にくい幼馴染みが相手では、ルールや合図無しの隠れん坊は勝ち目はゼロに近い。

それが、私相手でなければの話だが。



(こういう日は木陰が有力なんだよねー…)



ふんふんと鼻歌を歌いながら、足取りは軽い。
十年以上の付き合いとなれば、幼馴染みの好みそうなことくらい容易に導き出せるのだ。

今日はデザートにバニラムースも作ってきたし、喜んでくれるに違いない。
柔らかく笑ってお礼を言って、それからちゃんと褒めてくれる幼馴染みの顔を思い浮かべながら一人で浮かれていると、昼休みの廊下のざわめきの中にあっ、という短い驚きの声を聞いた。



「ん?」

「こないだの子じゃないっスか!」

「…えーっと…黄瀬くん、だ」



反対側の廊下からやって来て鉢合わせた顔を、見上げながら思い出す。
確か、モデルで女の子にモテモテで、人への態度が両極端で懐くと犬っぽいという、黄瀬くんだ。
因みにこれらの認識は幼馴染みから承ったものなので、私自身には彼への印象は特に存在しない。あって、眩しいほどのイケメンだなー、くらいのものだ。個人的には断然テツヤの方が好みだけど。

まぁ、そんなことはさておき。



「何か用ですか?」

「えっ!? あ、いや、偶然見かけたから…」



まぁ、そんなことだろうとは思ったけど。
ちらりと私の手に落とされた視線と軽く寄った眉を、私は見落とさなかった。



「もしかして、黒子っちに会いに行くとこ…だったり?」

「そうですね」

「あー…それで今日は断られちゃったのかー」



残念そうに溜息を吐く姿は様になっているが、そこに含まれる感情を汲み取れないほど私も馬鹿ではない。
せっかく桃っちが嬉しそうだったのになー…とぼやくイケメンに、私は口角を上げた。



(随分と言い回しが回りくどくしつこい男だなぁ)



こいつ、うざいな。
顔には出さず、毒を吐く。

私は男前な人間が大好きだ。
その逆側に位置する人間には反吐がでるほどに、私も両極端な性質を持ち合わせてもいる。



「実は桃っち…こないだいた女の子ね、黒子っちのこと好きなんスよ」

「はぁ」

「だからっつーか…幼馴染みとか、そーゆー理由だけで黒子っちにひっつくの、やめてほしいなーって」



にっこり笑顔でとんでもないお願い事をしてくるモデルとやらに、ドン引きする。こいつ本気でうざいわ。
自分が頼めば粗方の女子は受け入れるだろうと自覚した笑顔に、対する私の笑みも深まった。



(調子のってるな)



幼馴染みの関係は、“それだけ”という言葉で括れるほど安くない。
特に、テツヤと私は。



「そう桃井さんが言ってたんですか? 随分と自分勝手な人なんですね桃井さんって」



この男がここまで愚かな行動を取るのが、彼女の望みとは到底思えない。
読んでいながらわざと口にした台詞に、単純な目の前の男は弾かれたように慌てた。



「え! い、いや、これはオレが思ってることで…」

「あはは、じゃあ黄瀬くんが女々しいんですね。知らなかったわ」



こんなに鬱陶しい人だなんて。

にっこり笑顔を、返せただろうか。
目を見開いて固まった男の表情は鳩が豆鉄砲を食らったようなもので、滑稽だ。
こんな暴言、女子に吐かれたことないんだろうなぁ。



(でも残念)



私、自分の敵には容赦しないの。そう決めているから。
貴方がそういう態度なら、私だって同じように返すのみだ。



「狡いとか邪魔だとか思うなら、私より先にテツヤを見つけてから言ってくれませんか? 私並みにテツヤを想ってる人間しか、土俵にだって上がる資格はないんですから」



まず、貴方が口出しする権利は欠片もありません。女同士の戦いに首を突っ込むなんて野暮でしょう?
テツヤの気持ちも私のことも何一つ知らないくせに、当てずっぽうな立ち入り方をするなら、許さない。



「私が戦うなら桃井さんです。貴方は、邪魔」



言葉をなくして立ち竦む男に最後に丁寧に頭を下げる。
それでは失礼します、と隣をすり抜けても、呼び止められるようなことはなかった。

苛立ちを振り切り、数歩歩いた先ではもう、私の頭の中は切り換えられている。



(やっぱり、中庭かな)



足早に廊下を進み階段を駆け降りる私の足は普段通り軽かった。

早く、彼のもとへ急がなければ。







みーつけた




「遅いです、なまえ」

「ごめんね、場所の見当はついてたんだけど邪魔が入っちゃって」



案の定、中庭の木陰に位置するベンチを陣取っていた幼馴染みは、走りよった私を見ると不満げに眉を寄せていた。
拗ねています、と言わんばかりの顔についにやけながら謝ると、何笑ってるんですか、と更に厳しい言葉を頂く。

けれどそれが幼馴染みなりの甘えだと解っているから、私は気にせず隣に腰掛け、バッグの中からお弁当を取り出した。



「怒らないでよー、バニラムース作ってきたんだよ?」

「…それは嬉しいですけど」

「うん」

「ボクより黄瀬くんを優先しましたよね」

「うーん」



どっから見てたのかな。

不満げな態度は崩さず、お弁当はしっかりと広げ始める幼馴染みに、にやける口元が抑えきれない。
テツヤ以外を優先するなんて有り得ないし、口にした通りあの男は邪魔でしかなかったのだけれど。



「今度また遅くなったら、拗ねますから」

「ふふ、はぁーい」



もう拗ねてるけどね、なんて、言わないでおいてあげよう。
判りやすい嫉妬が嬉しかったから、今回は。



(大丈夫だよ、私はテツヤが大好きだもん)
(どこにいても絶対に、すぐに見つけてあげるから)

20130409. 

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