※一応クラスメイトと繋がっているような設定







オレの彼女は誰より優しくて気が利いて、何よりとにかく物凄く可愛い。
オレには勿体ないくらいいい子なのに、不満なんか持つ方が贅沢だ。

そんなことは、解ってるんだけど。



「何だかアツシ、最近元気がないな?」

「室ちん…」



部活に入る前、練習着に着替えていると不意に隣から掛けられた声に、自然とテンションが下がった。

気付かれるとか、最悪だし。
まだ本人の前では顔に出さずにいられてるはずだけど、これ以上長引くとそれも崩れてしまうかな、と考えるだけで憂鬱になる。



(なまえちんには、我儘知られたくない…)



ただでさえ振り回しまくって、今がある。これ以上あの子に嫌な思いはさせられないし、嫌われるのだって未だに怖い。
なまえちんに知られる前に自分の中で諦めをつけられればそれが一番良い。けど、諦めるという行為が一番難しいのも、事実だった。



「彼女と何かあったのか?」

「何にもないけどー…」



何にもないのが、辛いっていうか…。

着替えを終わらせて、首を傾げてくる室ちんをじっと見下ろす。
確実にオレよりもそっち方面の事情には詳しいだろう室ちんに、今は苦い気持ちを押し殺して訊ねた。



「室ちんは?」

「え?」

「彼女。何かある?」



自分でも曖昧な訊ね方をしたと思う。
数秒間、オレを見たまま瞬きを繰り返した室ちんは、それでもそれなりに理解してくれたらしい。今度は顎に手をあてながら、視線を落とした。



「何か…か。ある、というかオレは作るからな…」

「室ちん肉食系」

「男だからな」



綺麗な顔してさらっと言ってしまえる辺りが、ムカつく。
しかもアツシは意外とピュアだよな、なんて続けるものだから、思わずロッカーを叩き壊しそうになった。

ちげーし。ただ、嫌がられることはしたくないだけだし。
ピュアとか、そんなんじゃ……ない、し。



「アツシは、彼女からのアクションが欲しいんだな」

「……別に」



やたらと良い発音にもイラッとしながら、顔を逸らす。

マジでもう最悪かもしんない。
否定する声に全然力が入らなかったことが自分でも判って、眉を顰めた。

だって、もう一年近く付き合ってるのに。



「…室ちん、彼女からキスされたりする?」

「え? うん、まぁ…たまにね」

「はぁ……」

「…重症だな」



ぽんぽん、と背中を叩いてくる室ちんの手に、不覚にも泣きそうになった。

一年も付き合ってるのに、彼女の方からキスされたことがないとか…やっぱおかしいでしょ。
もしかしてなまえちん、そんなにオレのこと好きじゃない…とか? まさかないとは思うけど、可能性がゼロとは言えないし…。
確実にオレの方が好きな自覚はあるから、否定できないのがキツい。



(そもそもキスとかするの好きじゃないとか…)



だとしたら、無理させてたりすんのかな。
あ、ヤバい。考えたら泣きそう。

どうしたってオレは男でなまえちんが好きで、そうしたら触って抱き締めたくもなるし、キスだってそれ以上だってしたくなる。
それをなまえちんが物凄く恥ずかしがるってことも解るけど、でも、そういう感情込みで好きだという気持ちは偽れない。
それでも、なまえちんが嫌がることはしたくないというのも、本当で。

どうしようもない。
不満なんか、抱きたくもないのに。



「なぁアツシ、思ったんだけど」

「んー…?」



まだキスしても許されるだけ幸せなのに、と軽く自己嫌悪してる最中。ふと思い付いたように、再び背中を叩いてきた室ちんにやる気のない返事をすると、大事なことを見落としてないか、と返された。

大事なこと?



「彼女の身長だと、アツシにキスするのは難しいんじゃないか?」

「………」

「それにいつもアツシからするなら、それでいいと思ってしまうかもしれないし」



ぎぎぎ、と、錆びた金属のように首を回してもう一度見た室ちんは、人差し指を立てながらじっとこっちを見てきていて。

言われた言葉を反芻したオレは、思わず口許を手で覆った。



「……盲点、だった…っ」



ちょっと、マジで、馬鹿じゃないのオレ。







小さな背伸びと大きな一歩




それから暫くの間自分から行動を起こすのをやめて、抱き締めるまではしてもキスは我慢した。
話をするのも、立っている時はできる限り腰を折って目線を合わせた。

少ししたらなまえちんは落ち着きなくそわそわとし始めて、何だかその反応に安心しながらも可愛くて堪らなくて、我慢が効かなくなりそうになったりもしたんだけど。
それでも目標達成まではと自分に鞭を打っていたら、最終的に折れたのは真っ赤な顔を今にも泣きそうなくらい歪めた、なまえちんの方で。



「む、紫原くん……あの…」

「…うん」

「あ、の…っ」



本当にギリギリまで、粘った。
何も知らない顔なんてさすがにできなかったし、オレの方だって多分、負けないくらい顔は赤かった。

それでも、ここまで来てぶち壊すほどは馬鹿じゃない。
ベンチに座ったままのオレの目の前に立って、戸惑いながら伸ばされる手がぎこちなく髪を梳いて地肌をなぞる。それだけでもドクドクと暴れる心臓はヤバかったけど、それよりも。

いいのかな、と言いたげに覗き込んでくる、潤んだ目が、熟れた頬が、弱々しい手付きが。
もう何もかも、可愛くないところが見つからないくらい可愛くて、つい食い付きたくなる気持ちを押さえるのが本当に、死ぬほど大変だった。



(あの、私っ……き、キス…しても…)
(……もう、好きにしていいし…っオレいつもしてんじゃん…!)
(う、うんっ……頑張る)
(ちょっとマジでもう…あと何秒持つか判んないからホント頑張って…しにそう)
(しっ!? は、はい…)

20130315. 

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