夜更かし寝坊は当たり前、授業中には居眠り、部活に力を注ぐでもなく帰宅すればTシャツ一枚という色気もへったくれもない部屋着に着替え、寝転がりゲームに齧り付く。休日は昼まで熟睡するし、予習復習なんてその言葉の意味すら忘れそうになる始末。
必要な物は積み上げられた山の中から発掘するような生活に浸りきり、早二年程だろうか。
自堕落に明け暮れる日常の中、ゲーム好きな友人に薦められた恋愛シミュレーションゲームをプレイし始めた私は、ある日唐突に目が覚めた。

あ、この人間生活底辺な生き方まずいんじゃね、と。

必要以上の行動は起こさず怠けられるだけ怠けまくる生活は、自分にしてみれば楽園のようなものだけれど。
ゲームの中のイケメン達に釣り合うスペックどころか、現実のフツメンにも釣り合う自信がない体たらく。
更に俗に言う乙女ゲームの主人公達は皆外見だけでなく性格、その生活ぶりからも可愛さが滲み出しているのだ。そりゃあリア充真っ盛りになれるわけである。

人生詰み組じゃねぇかこんちくしょう。
このままでは喪女路線確実という事態に気付いた私は、思わず手頃な場所に転がっていたスプーンを投げて八つ当たりした。
何で床にスプーンが落ちてるんだよおかしいだろ。余計に自己嫌悪しちゃうだろふざけんなよ。



「そんなこんなで、真人間になろうと思う」



リア充の爆発を願うような心の狭さから抜け出したい。今ならその気もあるし抜け出せる気がする。
怒り混じりに行動を起こし、ゴミと屑の山だった自室を綺麗さっぱりとまではいかないがそれなりに見られるくらいにまで片付けた私は、そのままの勢いで友人に電話を掛けた。



『何いきなり。あんたクズ生活満喫中だったじゃん』

「くっ…クズだと思ってたの!?」

『え? 大した趣味もなく成績も落ちこぼれでやる気もなく遊び呆けることだけに時間を費やすような人間の呼び方がそれ以外にあると?』

「返す言葉もございませんが…!!」



そう思ってたなら早く言ってよ…! ここまでズルズル堕ちきる前にさぁ!!

容赦のない指摘に胸を痛める間さえ惜しい。
積み上がったごみ袋の山は明日の朝にでも出すしかない。どれくらいぶりかの早起きでもしなければ遅刻は確実である。

早寝早起きを意識するなんて…小学生時代に戻ったみたいね…。
ちょちょぎれる涙を拭いながら握り締めた携帯からは、呆れで一杯な溜息が聞こえた。



『まー頑張るってんなら応援するけどー…具体的にどうしたいの』

「まずは人間力を上げたい…後々は女子力も上げて目指せリア充……ぐすっ」

『既に挫けてんじゃないの?』

「そんなことございませんし…」



具体的な理想は抱けても、具体策が浮かばないだけで。
そう、やる気だけは満ち溢れているのだ。せめて乙ゲーイケメンに画面越しに見つめられて愛を囁かれても、罪悪感に見舞われて打ち沈まないような人間になりたい。

そんな切実な思いを語る私の声に電話越しに適当に耳を傾けてくれる友人は、何かを悩むような唸りを発したかと思うとこれまた適当な言葉を投げ掛けてきた。
恋でもすれば?、と。



「あの…私まず真人間にね? ならないとね? そんな土俵に上る資格がないと思うわけですがそこのところは」

『だからー、好きな奴でもできればやる気も継続すんじゃない? 順番はどーでもいいのよこの際。どっちにしろ目指す場所なら原動力にしちまえばって話』

「……天才か!」



継続は力なりって言うもんね…!
そりゃあ分かりやすい目標があった方が頑張る気持ちも保てるというものだ。
リア充になる為に真人間になるか、真人間になる為にリア充を目指すか。どちらも同じことならガソリンは一つでいい。

よし、恋しよう。
答えが出るのは早かった。



『まぁでもそんな相手すぐには見つかんないか』

「ここはアレだね。目標は高く!」

『はっ?』



目標というものは低すぎては意味がない。それくらいは鈍いらしい私にも考え付くことだ。
そして目指すとすればとても都合がいい人間が、遠すぎない場所に一人、いた。



「私、緑間くんを目指すよ」

『……はぁっ!?』



がたん、と何かを倒したような音が電波越しに届いたけれど、次の瞬間正気を疑ってきた友人にはしっかり頷き返す。
さすがの私も、思い付きであっても恋愛が絡むならターゲットは慎重に選ぶ。
身近と言えばクラスメイト、人間力を高めるならば並ぶのが厳しい相手が望ましい。

それにやっぱり大事なのは、一等重要なのは、何よりも顔だ。



「美人じゃん緑間くん!」



頭も良いし、インテリ系と見せ掛けてスポーツもかなりできるらしい。なんでも強豪である我が校のバスケ部で、一年にしてエース様だとか何だとか。
文武両道。しかしながら人付き合いはかなり不器用で、女子相手でもつっけんどんな態度は崩さない。そんな偏屈さには征服欲をそそられるし、顔から性格から結構好みの部類な気がする。
たまに身に付けている妙なアイテムを除けば模範的優等生緑間真太郎。学生生活は十二分に真面目な彼に本気で合わせようとすれば、自ずとレベルアップできるに違いない。



『緑間とか…いや確かに顔は悪くないけど何でまたあんな変人…』

「目標は! 高く!!」

『斜め上に滑りそうよ?』



やる気を湧かせる私に、数秒黙り混んでいた友人は難色を滲ませたけれど。
残念ながらこれまでの生活ぶりから判るように、一度ハマると抜け出しにくいのが私の性質であったりして。

既に理想像、ターゲットをロックオンした私を、止められるような人間はどこにもいなかった。






恋せよ乙女!




まぁ、つまるところは、私の本気見せてやんよってことで。



「あ、おはよう緑間くん!」



決意を新たに早寝早起きから実行開始してみれば、偶然か運命か、欠伸を噛み殺しながら辿り着いた靴箱でタイミングよくクラスメイト兼ターゲットに遭遇した。
私も普段そこまで周囲に話し掛けるようなことがないため、驚かせてしまったのだろう。振り返った彼の眼鏡の奥で、私を写す目が訝しげに歪む。



「…みょうじ…?」

「登校早いねー。私一番かと思ったのに」



計画開始初日ということで、早々と家を出てきた。歩いてきた道でも生徒を見掛けなかったから、これは初の登校一番乗りかとちょっぴり喜んでいたのだけれど。



「緑間くんに負けちゃった」



初っぱなから壁にぶち当たるとは…ある意味運がよかったのかもしれないが。
少しの悔しさに肩を落とす私に、落ちてきたのは鼻で笑うような声で。



「遅刻常習犯が勝てるわけがないのだよ」



余程普段の生活ぶりが悪い意味で目を引いていたのか。それはそれは見下すような視線と台詞に、どくりと鳴り響いた私の鼓動。
外は晴天。スタートを切るに相応しい朝に、隠された棘に刺された反動で湧き上がった感情は、私の唇をゆっくりと持ち上げた。

そんなこと、言われたら更に燃えちゃいますし。



「そうだねぇ…でも」



これからは、どうかな。

彼の中に染み付いた底辺のイメージを、どれだけ払拭できるか。
難易なことではあるだろう。けれど、壁は高いほど越え甲斐があるものだ。

ほんの僅か、瞠られた緑色の瞳の中で、笑う私は決意に満ち溢れている。



(目指せ真人間、リア充への道…ってね)



意表をつかれたような顔をしたターゲット。
彼の目の前で、火蓋は切って落とされた。





色芭さんお誕生日おめでとうございました…というわけで! 緑間出番少ないけど緑間夢…の、つもり…です…|ω・`)°。
遅くなった上に接触少ないって…救えないですね…。
これからなまえちゃんが真人間へと成長しつつ緑間の気を引いていくのだと…妄想補完お願いします…すみません…(´・ω・`)
何はともあれお誕生日おめでとうございました! ティーンエイジャー羨ましいです!!

20131018. 


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