「まこーいるー? いなくても上がるねー?」



勝手知ったる家の玄関。一応インターホンは鳴らしたものの返事を待たずに扉を開け、侵入した玄関で躊躇いなくサンダルを脱ぎ捨てる。
段差後のフローリングに足を上げて歩き出そうとしたところで漸く、居間で涼んでいたのだろう。うんざりとした顔付きの幼馴染みが左奥の扉を開けて出てきた。

なまえ、と私を呼ぶ声も苦々しい。



「ちょっとは遠慮しろ」



自宅じゃねぇんだぞ、と言う張本人は何度も聞いた文句を飽きずに投げ掛けてくる。
慣れたやり取りに返す反応も代わり映えしなかった。



「今更。いいじゃん別に真の部屋に無断で立ち入ったわけじゃないんだし」

「オレの部屋でもお前は遠慮しねぇだろが」



ごつりと頭頂点に落とされる拳は地味に痛いが、気にする程でもない。目の前まで近付いてきた男が機嫌よさげにしているところを見たことの方が少ないので、長年の癖もあり文句はさらっと受け流すことができる。私は心が広い出来た乙女なのだ。

大体、物心付く頃から知っている幼馴染みに変に遠慮し始める方が気持ち悪いだろうに。口先で望まれるような私になったところで、この男はさぞ気色悪げに嫌がるに違いない。



(それはそれで面白いか…?)



本気で嘔吐しそうなほど辟易する幼馴染みの姿というのも中々捨てがたいかもしれない…なんて、気が向いた時には謙虚な女子を演じてみることも検討し始めた頃、長い付き合いの幼馴染み花宮真の視線が私の手元に落ちていることに気づいた。

何をしに来たのか訊ねない辺り、抱えているものから大体の事情は察せたのだろう。
尚更不愉快そうに特徴的な眉を顰めるのが、少し笑える。勿論口には出さずに抱えていたそれを掲げるに留めたけれど。



「親戚からスイカ貰ったんだよー。と言うわけでお裾分け」

「言いながらどうせ食って帰るつもりだろ」

「それはほら、両家の仲だし?」



性格がいいとは口が腐っても言えないような目の前の男だけれど、何だかんだ家族ぐるみの付き合いは悪くない。
こうして突然お互いの家を訪ねることも珍しくない程度には気心が知れている。

というわけで、案内される前からキッチンを目指す私に強い拒絶が降りかかることもない。交渉や気遣い等に精神をすり減らす必要のない、愛すべき境遇だ。



「あれ、リビング戻らないの?」



てっきり放置してくれると思いきや、歩き出した私の斜め後ろをついてくる幼馴染みに素直に疑問を覚える。
休日を私に汚染されることを嫌っているこいつのことだから、最低限私の傍には寄ってこないものと思っていたのだが。

そんな私の視線を受けた真は心底嫌そうに顔を歪める。どうやら気持ち的には不本意らしい。



「いつかみたいに砂糖でもぶっかけられたら堪ったもんじゃねぇんだよ」

「はは、やだなー…真だけならまだしもおじさんおばさんが食べるものにそんなことしないよ」

「死ね」

「誰かさんが泣くから生きる」

「構うか。死ね」

「いやぁしかしあの口に入れた瞬間に一瞬でぐしゃっと歪んだ顔は傑作だったよねはっはっ涙目まこちゃん堪らなかったねはっはっは」

「死ね」



あれは歴代の真弄りの中でもトップファイブには入る面白さだった。感情に素直に笑い声を吐き出す。
すると直ぐ様低く冷たい声と同時に、力一杯に握られた頭部に鈍い痛みと圧迫感を感じた。けれどまぁ、慣れたものなのでこれにも騒ぐ気はしない。

数年前の些細な悪戯を未だに引き摺る器の狭いこの男が、どうしようもないと思うわりに私も気に入っているのだ。
自己が形成されて此の方、隙を見つけてはからかい倒し続けるくらいには。



「まぁ、さすがのなまえちゃんも見張られてまで大した悪戯は出来ないから。安心しなよ」



びしびしと突き刺さる敵意も肩を竦めてごまかし、辿り着いたキッチンでじゃれついてくる…と称せばまた不機嫌になるだろう幼馴染みの手をぺいっと引き剥がす。
調理器具の位置も、今更迷うことはない。取り出した大きめの包丁を軽く水洗いしたスイカにあてながら、笑った。



「せいぜい種の多い部分を切り渡すくらいに留めるよ」



種を含まない切り方のコツくらい、知ってるけど。

ちまちまと種を取り出す真とかマジ笑える、と呟いた私の腰に足裏の蹴りが入るのに一秒もかからなかった。







奥深き我等が愛で合い




そもそも、甘いもの嫌いのこの男が付き合ってこんなものに口をつける時点で、相当の甘やかしを受けていることくらい私も察しているのだ。

苦々しく頬を歪めながら切り分けたスイカに歯を立てる、その横顔で暴言暴力の不満なんて軽く吹き飛んだ。



(甘いねぇ)
(くっそ不味い…)
(練乳で冒険しようか)
(んなふざけたことしやがったらてめぇの頭上から垂らしてやる)
(やだ卑猥)
(死ね)





いつも限界ラインに挑戦しているとしか思えないエログロ美味しいイラストをくれるちみさんに、相互記念に捧げるお話です!
ちみさん指定キャラが花宮、册指定アイテムがスイカ、ということでお互いそのテーマで絵と文を…作ってみましたが…こんなんでいいのかしら( ・ω・)
花宮と気心が知れた幼馴染み。多分仲良し。一応仲良し…な、はず…です…。
美味しくなかったらごめんねちみさん! ということで。
いつも素敵イラストありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね!(*´`)
20130828. 


[*prev] [next#]
[back]
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -