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前以て知ってはいても、悩みに悩んでしまうのは性というか、当たり前のことだと思うのだけれど。



(本当にこれでいいのかな…)



目の前に出来上がったそれに、おかしなところはない。自分としては上出来な方ではあるだろう。
けれど、本当にこんなものでいいのだろうか。今更悩んでも仕方ないことは理解しながらも、やっぱり気になってしまうもので。



「何しかめっ面してんの」

「あ、颯…」



背後から顔を出されるまで、近寄られていることにも気づかなかった。
それほどまで考え込んでいたらしい私の顔と手元を覗き込んで、ある程度悟ったのか弟はああ、と軽く頷いた。



「上手くできてんじゃん」

「うん…まぁ、多分…」

「寧ろいつもより気合い入ってる」

「え…!?」



嘘、そんなに判りやすい…!?

言うだけ言ってスタスタと去っていく弟の背中に、一気に羞恥心が込み上げる。
ぶわ、と熱を増す顔に手を当てながら、激しく肩を落とすことしかできなかった。



(身内に指摘されるって…)



すごく、恥ずかしい。

しばらくは冷めない熱に眉を寄せながら、やるべき作業を再開した。









 *




「1月31日です」



そういえば、お互いの生まれた日の話はしたことがない。
それに気付いて訊ねた時、返された返事を私は頭の奥にちゃんと仕舞っておいた。

大事な友人であるテツヤくんを、祝わないなんて選択肢はその頃から既になく。
1月始めからプレゼントに悩んでいたのだけれど、弟や幼馴染み以外の男の子となると、何を贈れば喜ばれるのかが私には全く判らなかった。

一応、半月は粘って考えてみたのだ。
それでもこれといった良案が浮かばなかった私は、それ以上長引かせると用意すらできなくなるということも考えて、苦し紛れに本人希望に縋ることにした。
そこで返ってきたのが、この答えだ。



「本当に、こんなものでよかったの…?」



昼休み、彼の教室を訪ねて約束の物を渡せば、どうせだからとお昼を誘われた。
空いた席から椅子を借りて、正面から向かい合うように設置しながら振り向いた彼はきょとんと目を丸くする。

その表情が2号を思わせて、ちょっとだけ可愛いな、なんて思ってしまう。



「充分手間を掛けてもらったと思いますけど」

「でも、こんなのいつでも作れるのに…」

「それは特権です」



使うかどうかは自分の意思だと口にする彼に、軽く拒まれたような気になる。

だって本当に、お弁当なんていつでも作れるのに。
バッグから取り出し、彼の机に置いた包みを見下ろせば、どうしても考えずにいられない。

せっかくの誕生日にこんなものがプレゼントというのは、いつもたくさん甘えてしまっている分申し訳なく感じてしまう。



「開けていいですか?」

「うん…」

「気にし過ぎです、なつるさん」

「だって、せっかくテツヤくんの誕生日なのに…」



こんな日くらい、私にあげられるものなら何でも言ってほしいと思う。
つい恨みがましく見てしまう私に、包みを解く彼の唇が僅かに弧を描いた。



「いいんです、今は」

「?…どういう‥」

「願い事は小出しにした方が楽しめますから」

「小出し…ってことは、ちゃんと欲しいものがあったんじゃないの?」

「はい。だから、それはまた来年に」



騒がしい昼休みの教室で、彼に注目する人間はいない。
お願いしますね、と、机の上で握られた手に、びくりと肩が跳ねた。

誰かに見られていなくても、こういうのは恥ずかしい。
熱の集まる顔を何度か上下に振れば、すぐに満足してその手は離れていったのだけれど。

一瞬で隙間に入り込む空気は冷たく、名残を消されて残念に思ってしまう自分に、頭を抱えたくもなった。



(なんか…)



テツヤくんが、手慣れてきた気がする。主に私の扱いに。

やっぱり恨みがましい目を向けてしまう私に、彼は珍しく無邪気に傾いた表情を浮かべるから、それ以上何かを口にすることはできなかった。







欲する欠片




それがこの先へ続く約束だとも気づかずに。
私は仕方なく、妥協で準備したもう一つのプレゼントを、鞄から取り出すのだった。

20130131.

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