「え? バーベキュー?」
「はい。せっかくだからバスケ部も合同にしようって、彼方くんが」
それなりに長く思えた合宿も、最終日。
バスケ部も全く同じ日取りだったらしく、兼ねてから企んでいたのだろう幼馴染みはいつの間に話していたのか、既に料理部の方も説得済みのようで。
食材の方も有り余るほど確保しているのだから、侮れない。
相変わらず無茶を通しきる彼方くんには苦笑しながら、私はバスケ部の方の説得にかかっていた。
「いいの…? 元は料理部だけの打ち上げでしょ?」
「人数は多いに越したことはないですし…食材もかなり余ってますから、逆に消費に協力していただけたらな、って」
実を言うと、これを機にいい男と知り合いたい…なんて邪な考えの部員達に後押しされた部分もあるのだけれど。
(言わぬが花…だよね)
さすがにそれは、黙っておこう。
私としても、合宿中頑張っていたバスケ部の面々に、最後くらい羽目を外してもらいたい思いもある。
「迷惑じゃないんなら、こっちは構わないわ。寧ろあいつらは喜ぶだろうし…」
「よかった…バーベキューの後は花火もするので、よければそっちも一緒に」
「解ったわ。わざわざ声掛けてくれてありがとう」
快く頷いてくれたリコ先輩に、こちらこそ、と笑顔を返す。
テツヤくんがいなければここまで深く知り合うことはなかったとは思うけれど、バスケ部の面々と少しでも仲を深められたのは純粋に嬉しいことだった。
「そうと決まれば、今日も扱くわよ…!」
バスケ部の合宿は二回に分けて行われるのだと聞いている。
海近くで行われたこの合宿で終わりということはないので、中途の打ち上げは企画されていなかった。
それならこの先の景気付けも兼ねて存分に食べてもらおうというのが、恐らくは彼方くんの考えなのだろう。
口には決して出さないけれど、幼馴染みなりの激励だ。
(でも、バーベキューだけだとな…)
バスケ部と料理部の合同となると、自然とタイムロスも多くなる気がする。
時間を考えると、先に他に食べられるものを調理してもらっておいた方がいいかもしれない。
「すみません、リコ先輩、ちょっとその件で部の皆にお願いしたいことがあるので、電話してきます」
「了解!」
脇目も振らず砂浜練習に励むバスケ部を眺め、時折指示を飛ばしているリコ先輩から離れる。
少し離れた日陰に持ってきてあるバッグから、先に軽く汗を拭った手で携帯を取り出した。そして部内でも一番話しやすい友人の番号を呼び出す。
確か、足りない調味料や山菜類を買い出しに行くと言っていたから、今の時間帯ならちょうどいいはずだ。
予想通り、少し待って繋がった通話の先では、ごちゃごちゃとした騒がしい音や声が溢れていた。
『もしもし? なつるちゃん?』
「うん。買い出し中だよね、ごめんね。夜の合同バーベキューは大丈夫そうだよ」
『マジで! やった! オッケー出たって!』
近くにいた部活仲間に呼び掛けたのか、小さく歓声が聞こえる。
元気だなぁ、と笑いつつも、それでお願いがあるんだけど…と切り出すと、テンションの高まった友人は直ぐ様食い付いてきた。
『なになに? 何かいるものあるとか?』
「うん…というか、バーベキューだけだと人数に対して焼く時間が掛かるだろうから、他に二、三品作り置きとか頼んでもいい?」
『おっけ! うちらの腕の見せどころじゃない!』
「手間暇掛けすぎなくていいけど、美味しいもの食べさせてあげたいの」
と言っても、私はマネージメントの手伝いもあるから、そっちに混ざるのは遅くなるんだけど…。
少し申し訳なく思いながらもお願いすれば、いいよ、と笑い返された。
『こっちは暇だし、楽しくやるよ。勿論美味しいもの作るけどね!』
「うん…ありがとう」
『どういたしましてー。あと何か他に、絶対欲しいものとかある?』
「絶対欲しい……あ、お金は後で払うから、お願いしたいかも」
個人的な買い物だけれど、ついでに買っておいてもらえると助かる。
伝えるとこちらも承諾してもらえて、予想はできていたことでもほっとした。
本当に私は、周囲に恵まれている。
色々とからかわれたり、困ることもあるけれど、気のいい人達が集まっていることを改めて実感した。
(あとは…マネージメントだけかな)
通話を切った携帯をバッグに仕舞いこみ、今の内に水分を補給してから再び引き返す。
じりじりと照り付ける太陽には体力を奪われるけれど、これで最後だと思うと不思議と足取りは軽かった。
最終日の企み今日が終われば、ここまで深く関わることはなくなる。
それが少しだけ、寂しい気持ちを引き摺らせた。
20130315.
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