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練習を手伝うと言っても、私にできることなんて数が知れているし、本来の役目も疎かにはできない。
ということで、合宿も中盤に差し掛かる今日はマネージメントの方は幼馴染みに任せて、私は食材と足りなくなった備品の調達に出掛けることにした。

さすがに車は出ないけれど、民宿には元から貸し出し用の自転車がある。
それを拝借して少し距離のあるホームセンターとスーパーを回って大体のものを買い揃えて戻って来てみれば、駐輪場からそう離れてはいない体育館の壁に寄り掛かりながら、しゃがみ込む影を見つけた。

あれは、確か…



「高尾、くん…?」



確か、昨日の夜に少しだけ顔を合わせた人だ。

具合でも悪いのだろうかと心配になって近寄ってみると、足音に気付いたのか俯いていた首が持ち上がる。



「あれ? 白雲ちゃんじゃん」

「えっと…おはよう。高尾くん、大丈夫ですか?」



上げられた顔色はそこまで悪くない。ほっとしながら一応訊ねてみれば、人懐こい笑顔で大丈夫、と返された。



「今休憩中でちょっとバテてただけだから。白雲ちゃんは買い出し?」

「あ、はい。今から昼食の準備に入らなきゃいけないけど…」

「あーそっか、そんな時間か。食事係も大変だよなー。ってか、同級っしょ? 敬語いらねーよ?」

「そ、そっか、ありがとう…うん。選手に比べたら大変でも何でもないけどね」



幼馴染みや弟を別にして、黒子くん以外の男子とはあまり会話をしたことがないのだけれど、高尾くんは会話のテンポを掴むのが巧いのかもしれない。
最初こそ緊張していたのに、殆ど自然体で話している自分に気づいて少し驚いた。



(本当にコミュニケーション力高いなぁ…)



ちょっと羨ましい。
それに、バテていると語るのにその笑顔に無理をしている部分が見当たらないのが、凄い人だ。

そしてそんな彼を感心して見ながら、ふとあることを思い出す。



「そういえば…緑間くん」

「ん? 真ちゃんがどーかした?」

「あの、お汁粉なくて困ってたみたいだから、とりあえず四本くらい買ってきてみたんだけど…もし飲みたかったら冷蔵庫に入れてるから、勝手に取ってもらいたいなって」

「……へっ?」

「あ、あと高尾くんは何がいいのか判らなかったから、飲み物じゃなくて箱でアイスを…冷凍庫に入ってるから、よかったらどうぞ」

「え、ちょ、ちょっ待って。マジで? てか資金元どこ!?」

「マジです。資金は…まぁ、ポケットマネー?」

「……白雲ちゃんは天使か」

「人間です」



元々元気そうだったのに、更に元気を取り戻したみたいだ。
量拳を突き上げて勢いよく立ち上がった高尾くんの瞳は輝いていて、思わずつられて笑ってしまった。



「よっしゃー差し入れ! 俄然頑張る!」

「ふふ、うん。頑張ってね」

「…って、言ってるけど白雲ちゃん、オレら応援してていいの? 誠凛負かしちゃうぜ?」



くるりと振り向いた瞳はにやりと歪んでいて、中々魅力的だと思う。
けれどその問い掛けには、こちらもにっこりと笑顔を返すことができた。



「大丈夫。誠凛は勝つから」

「うーわ、強気」



オレらもかなりやる方よ?、と肩を竦める高尾くんの言葉は正しいのだろう。一度午後練で合同練習をしているところしか見てはいなくても、どちらも一切引けを取っていないことは素人目にも判ることだった。

でも、それでも誠凛が勝つ。
私はそう信じている。



「ふーん…何て言うか、まぁ?」

「うん?」

「黒子も随分と愛されてんじゃん? やー暑いわー」

「う……ん!? えっ!?」



パタパタと、わざとらしくシャツの首もとから風を入れながらにやにやと笑い始めた彼の言葉に、頷きかけて途中で停止した。



「ち、ちがっ! 黒子くんじゃなくてっ…私は誠凛が」

「え? 黒子じゃねーの? 好きな奴」

「だっ!…だから、そんなんじゃないから…!!」

「白雲ちゃーん、顔、真っ赤。ぶふっ」

「! ひ、酷い…本当にそんなんじゃないのに…」



意図せず熱を持つ顔を両手で隠せば、ごめんごめん、と悪びれない声に謝られる。

高尾くんは、いい人かもしれないけど意地悪な人でもあるのかもしれない。
休憩時間を終えて楽しげに体育館へ戻る背中を見つめながら、私は暫くの間からかいによる羞恥心と戦わなければいけなかった。







鷹の目の指摘




(愛、とか…)



そんなんじゃ、ないんだから。

20130206.

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