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「あの…折り入ってお願いしたいことが…あるんですけど…」



バスケ部全員分の朝食を並べ終え、彼らが口をつけはじめてすぐにリコ先輩や日向先輩の座る席に近づいて声をかけると、揃ってぱちりと瞬きを返された。



「え、ええ。何? あ、部活の方で何かしら都合が変わったとか?」

「えっ!?」

「マジで!?」

「い、いえ! それは大丈夫なんですけどっ…」



途端にざっ、と青ざめる面々に慌てて首を横に降れば、揃って胸を撫で下ろされた。
そんなに不安に感じられると、リコ先輩が可哀想な気もするのだけれど…。



「私も、空いた時間はバスケ部のお手伝いを…したりするのは、邪魔になりますか?」

「へっ?」

「あ、勿論食事メインにお手伝いしますしっ…邪魔になるのなら本当に、」

「い、いやいや! 邪魔なんてないわよ!? 寧ろ人手が増えるのは嬉しいんだけど…いいの? なつるちゃんも部活の方があるんじゃ…」

「いえ…ちょっと、色々ありまして…。皆さんがよろしければ、そっちに参加したいなと…」



迷惑じゃなければ…と見回して、殆どが笑顔で頷いてくれたことに少しほっとする。
もう一度リコ先輩に向き直れば、今度ははっきりとした笑みで許諾してもらえた。



「私としては大歓迎。だけど、無理は禁物だからね。マネージャーは結構ハードよ!」

「はい、頑張りますっ」

「あと体力仕事はじゃんっじゃん部員や櫛木くんを使っていいから!」

「ああ? あーまぁ、なつるが倒れたら面倒だしな。無理だけはすんなよ」



部員と何かあったと言っても特に追求はせずにご飯を掻き込む彼方くんには、お礼だけ言っておく。
それから食事の手を止めたり、箸を動かしながらも話を聞いて受け入れてくれたバスケ部の面々に、よろしくお願いします、と頭を下げた。



「よろしく」

「俄然やる気でたー!」

「無理せず、楽しくな」

「はい!」



優しい言葉を掛けてくれる人達に、素直に表情が綻びるのが自分でも判る。
それならば早速、朝食を食べてしまわねばと自分の席に戻ると、すぐ隣に席をとっていたテツヤくんにそっと呼び掛けられた。



「なつるさん、何かあったんですか?」

「あ、うん…まぁ、ちょっと…っあ、別に苛めとかじゃないから、大丈夫だよ?」



質問が質問だったので曖昧に答えを濁してしまい、気遣うように微かに寄せられた眉に気付いて軽く首を振る。
そんな私の反応に不思議そうに瞬いた瞳は真っ直ぐで、まじまじと見つめられてしまうと恥ずかしさが込み上げた。

それもこれも、料理部の皆がからかうから…!



「……な、何でもないよ?」



だからお願い、あんまり見ないで。

言外に掌を挙げてそう示しても、意外と頑固なところのある彼は引き下がってはくれなかった。



「なつるさん」

「は、はい…」

「心配なんです。教えてくれませんか?」

「う…っ」



正に言葉通り、心から心配そうな顔をされてしまうと、誤魔化しにくい。特にテツヤくんは表情筋の動きが微かな分、気づけてしまうとその効果は絶大で。

結局折れてしまう私は練習もあるし、軽く話すだけだからと断ってから個人的な事情を明かすことにした。
勿論、他の人には聞こえないよう、なるべく声のトーンは落として。



「昨日、夜に颯に連絡を入れて…テツヤくんと合宿場がかぶったこととかを報告してたんだけど」

「はい」

「それを、女子部員にね…盗み聞きされて…」

「…はい」

「な、なんか、その…テツヤくんとの仲を勘繰られたり詮索されて…居心地が悪くなっちゃって…」

「…なるほど」



それは困りましたね…と呟くテツヤくんの顔は、あまり困っているようには見えない。
そのちぐはぐさを指摘するより、言ってしまえば不快な思いをさせるのではと焦っていた私は、事情を明かしても彼の態度が変わらなかったことにとても安心した。

密かに速まっていた心臓を胸の上から押さえながら深く息を吐き出していると、でも、と続ける彼の声が耳に届く。



「なつるさんが部活の方も手伝ってくれるというのは、嬉しいです」

「…そ、そう?」

「はい。大変でしょうけど…ボクも協力できることならしますから」

「…ふふ。それじゃお手伝いが逆になるよ」



私がお手伝いしたいのに。
相変わらず優しい言葉に、つい笑みがこぼれる。

漸く再び箸を動かし始めながら口角を上げる彼の言葉には、嘘がないから嬉しくて、擽ったい。



「なつるさんはすぐに無理をしそうですから」

「そんなことないです」

「そんなことあります」

「テツヤくんは心配性だよ」

「なつるさんが顧みてくれればいいんです」



優しいから、私よりも顧みてくれる人がいるから、無理なんて思えなくなるのかもしれない。

喧嘩にも満たない小さなやり取りを満喫しながら、食べた朝食は美味しかった。







隣で朝食




(オイ、あそこだけまたリア充な空気蔓延してるぞ)
(何あれちょー羨ましいんだけど!)
(てか櫛木、アレいいのか?)
(よくない。が、まぁ疚しいとこないなら今のところは目を瞑る)
(面倒くせぇなお前…)

20121204.

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