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料理部の女子で借りている部屋に戻ると、既に敷かれた布団に寝転がりながら真ん中に固まり、学年も関係なく何やら盛り上がっている部員達の姿があった。



「あ、お帰りなつるちゃん」

「お手伝いおつかれー」

「あ、うん。ありがとう…何してるの?」



同級生の労いを口切りに次々と飛んでくるお疲れ様、という声に笑顔で答えながら寄ってみれば、一番近い位置に寝転がる先輩の部員がにんまりと口角を上げた。



「やー、やっぱここは定番の恋バナをしなくちゃってなってねー。白雲ちゃんも入って入って!」

「恋バナ…ですか」

「そうそう! 実のところ櫛木くんとはやっぱそういう仲なの?」

「へっ? いえ、彼方くんはただの幼馴染みですけど…」

「えーっ? ホントに? ちょっともときめきとかないの!?」

「多分…ないです」



何故彼方くんの名前が出るのかと、軽く驚いてしまった。
確かに関わりは深いしよく一緒にはいるかもしれないけれど、あくまでも幼馴染みで、兄のようなものだと思っているのに…指摘されると妙な気分になる。

なつるちゃんもおいで、と布団を叩いて急かす部員にとりあえず頷き従いかけた時、あることに気がついてもう一度立ち上がった。
そして不思議そうに見上げてくる部活仲間に、手を合わせて謝る。



「ちょっと弟に電話掛けなくちゃいけないので、その後に混ざらせてください」



しっかりした颯のことだから私がいなくても特に問題はないだろうけれど…。
何もなくても連絡は入れると、出発前に約束していたことを思い出してそう口にする私に、特に理由を訊くでもなく彼女らは快く頷いてくれた。

軽くお礼を言って、部屋の隅に集めてある荷物の中から携帯を取り出す。
一応場所を移動した方がいいかと考えて、部屋の外の廊下に出てから携帯を開いた。
朝から触っていなかった携帯にはいくつかのメールが届いていて、その中に歩ちゃんからのものも見つけて頬を弛めた。

これは後で返信しよう。
まずは、颯に連絡を入れなければ。



『…もしもし?』



数回のコールの後に電話に出た声は、朝から送り出してくれた時と変わらない。
一先ずは何事もなさそうなことに安心して、柱に寄り掛かりながら弟の声に応えた。



「颯? ご飯はちゃんと食べた?」

『気にし過ぎ。適当に作って食ったよ。姉ちゃんは彼方に困らされてない?』

「あはは…そんなに彼方くん信用ない?」

『ない』



遠慮の欠片もなく言い切る弟に、苦笑を禁じ得ない。

確かに今回の合宿も権限を振り翳していたし…それも話しておかなければならないかなと、少しだけ声のボリュームを落とした。
落としたところで伝えなければならないし、意味はないのだけれど。



「実は…彼方くんのお気に入りがいるバスケ部と合宿場が被っちゃったの」

『…で、何か巻き込まれたの』

「…食事係の指導を、少し」

『解った。帰ったら彼方は殴る』

「い、いや、私は困ってないからいいよ! それに、その、バスケ部にテツヤくんもいて、ね…」

『…黒子さん?』



しまった。

事情の説明に気をとられて、呼び名を誤ったことに気づく。
電話越しに響いた彼の名前が苗字だったことに、ぎくりと固まりかける。確か今まで私は、颯の前では彼のことを名前で呼んだことはなかったはずだ。

謎の気不味さに襲われかかった私を知ってか知らずか、颯の方はそこを問い詰める気はないらしい。



『へぇ…じゃあ、少しは安心かな』

「え…っと」

『よかったじゃん。全く知らない連中に放られなくて。黒子さんなら気にしてくれるんじゃない』

「あ、うん、それは…さっきも下拵え手伝ってもらっちゃったし…」



特に突っ込んでこない様子にほっと息を吐きながら近況報告を進めると、顔は見えないけれどすぐ傍で颯が笑ったような気がした。

そっか、と落とされた呟きには温もりがあった。



『姉ちゃんが困ってないならいいよ。報告ありがと』

「うん…颯も、呉々も気を付けてね」

『何に』

「身体とか、あとは事件とか事故とか…」

『大丈夫だしオレ男だから。姉ちゃんの方が無理すんなよ』

「うん、ありがとう」



思い遣りのこもった言葉に相好を崩しながら、おやすみを言い合って通話を切る。

電話も終わったし、とりあえずは部屋に戻ろうと閉まっていた襖に手をかけ、開いた瞬間に視界に入ってきた光景には、また思わず後退りしてしまったけれど。



「白雲ちゃあーん、テツヤくんって誰かなー?」

「もしかして彼氏ー?」

「なるほどなるほど、櫛木じゃなく本命は別にいたわけか」

「え、えっ…?」



部屋を出る前には布団の中心に集まっていた部員全員が、何故か襖を開けたすぐ傍に新しいオモチャを見つけたかのような笑顔で居座っていた。
しかも彼の名前が出てきた辺り、颯との会話の中で私が喋った分は盗み聞きされていたということで。



「でー、下拵えまで手伝ってもらっちゃったんだー?」

「っ! あ、あの…」

「ということは? 調理場に二人きり?」

「夜に? 夏の合宿中に? きゃっ!」

「これは定番のアレが起こるわね…」

「大人の階段上っちゃう系かー…」

「な、何の話ですか…っ!?」



にやにやとした視線に込み上げる羞恥心を堪えながら妙な方向に転がりかける話題にストップをかけても、興味津々といった顔を隠さない部員に部屋の中に引きずり込まれる。



「ちょっ…」

「さーあ詳しく話してもらおうか!」

「く、詳しくって」

「そのバスケ部員とのラブロマンスを!」

「ラっ…ないですよ!?」



必死に抗うも、女子と言えど複数人の力に敵うわけもない。
何だか捕食される草食動物にでもなった気分で、身ぐるみを剥がされるような心細さに泣きそうになった。






合宿ガールズトーク




(で? ぶっちゃけどこまで進んでんの? ん?)
(どこまでもないですから…!)
(いやー、だって練習後で疲れててもなつるちゃんに付き合ってくれる辺りただの友達って感じじゃないじゃん?)
(や、優しい人なの…! もう、本当にそんなんじゃないから…)
(それにしては白雲ちゃん顔真っ赤)
(それは不可抗力です…!)
20121124.

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