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ゆらゆらと揺れる水面と立ち上る湯気を見ていると、思わずほう、と意味もなく溜息を吐いてしまう。

隣に浸かっているリコ先輩も同じような気持ちなのか、くったりと力を抜いて壁にもたれ掛かり、弛く目蓋を伏せていた。



「あー…このまま眠っちゃいたいわ…」

「本当ですねぇ…」



一日の疲れを癒す場と言ったら、お風呂は絶対に抜かせない。
その日の出来事を汚れと共に洗い流し、お湯の中でリラックスしながら身体を伸ばしながら私も段差に背中を預けた。



「でも、本当に…リコ先輩って凄いですね」

「…へ?」

「部員数はそんなに多くないかもしれないですけど…全体を見てないと監督なんかできないし、何より皆さんのこと、すごく大切に想ってるんだな…って、実感しました」



ぱちりと目を開けて驚いたような顔をした先輩に微笑みかけると、照れたのだろうか。視線が軽く彷徨いた。



「な、何いきなり…ていうか、なつるちゃんこそ急なことなのに完璧に手伝ってくれて…とっても助かったし…」

「私は所詮お手伝い要員ですから。だからなんだか、いいなぁと思って」

「いいって…?」

「んー…絆を感じるというか…皆が皆、信頼し合って大事に思い合ってる関係とかが見えて、憧れたというか…」



いい部活だなぁと、少し関わっただけの私にも思わせる。バスケ部にはそんな繋がりが見えた。
それを見守るだけではなく、確かに仲間としての立ち位置にいる監督というのも、とてもいいなぁと思ったのだ。
きっと大人以上に必死に考え、交渉しなければならない面も出てくる。
リコ先輩はそれを一人でこなして、更に毎日の練習やゲームメイクにまで頭を使い、その上マネージャーの代わりまで務めていて。

女子高生のキャパシティーを完全にオーバーしているのに、どこまでも妥協を許さない姿勢には憧れを越えて心配になるくらいで。



「私…すごく不純だったなぁ…と思ったので。これから心を入れ換えようかと」

「? 何が不純だと思ったの?」

「えっと…私その、バスケ部で仲がいいのって多分、テツヤくんだと思うんです」

「多分ってレベルじゃないと思うけど…」

「そ、そうですか…?」

「明らかにね…いや、それはまぁいいけど。黒子くんがどうかしたの?」



首を傾げてくる先輩に、なんだか今度は私の方が恥ずかしくなってくる。

深くお湯に浸かり直しながら、両目を閉じて俯いた。



「その…今まで私、テツヤくんが必死に頑張っていたから、応援してたんだなぁ…と、今更気づいてしまいまして……」

「…うん?」

「一人で成り立たないのが複数名のスポーツで、チームで勝つっていうこととか…全員で勝利するって考え方が、頭になかったんです」



思えば、とても適当な応援だったと。

普段からスポーツに関わっていないから、チームという認識からして薄く、その持ち味や繋がりも気にしていなかった。
私はどこまでもテツヤくんしか見ていなくて、彼が頑張っているから勝ってほしいと、そんな狭い視界で試合結果を見ていたのだ。

それが、とても恥ずかしい。
視野が狭かったこともだけれど、彼が信頼できる仲間という存在に、気づけていなかったことが。



「テツヤくんだけじゃないんですよね…ううん、やっぱり一番応援したいのは、親しい人なんですけど…」



少しだけだけれど、誠凛バスケ部の人達と関わることがあって、練習や日常風景を見て、思った。
彼らは本当にいいチームで、そしてリコ先輩もとても素敵な人で。



「私…これからはバスケ部のチームを、信じて応援したいなって思います」



特別応援したい人はいても、その繋がりごと。
皆に、勝ってほしい。



「だから、私にできることなら何でも手伝いたいです。とにかく合宿中は、リコ先輩が手が回らないことがあるなら何でもします」

「なつるちゃん…」

「まず、明日の仕込みは私に任せてください! リコ先輩は他にやることをやって、明日に備えて休息をとってくださいね」

「…いいの? 部員が少ないとはいえ、それなりに人数はいるでしょ?」

「大丈夫、任せてください」



料理なら慣れているし、仕込みくらいならそう時間はかからない。
リコ先輩にはリコ先輩にしかできない、絶対にやらなければいけない仕事があるのだ。

雑用や調理のすべてを私に任せてしまえるような適当な人ではないから、肝心な部分だけは残して。気にされない程度を考えて、私も私ができることをやろう。
決めた。

それまでじっと私を見つめていた先輩の瞳が軽く細まって、唇が弧を描く。



「…わかったわ。そこまで言ってくれるなら、甘えさせてもらう」

「はい」



頷いてくれた先輩にこちらも笑顔で返せば、それまで穏やかだった空気が軽く崩れる。
笑顔からころっと渋い顔になるリコ先輩は何かを思い出したのか、勢いよくばしゃりと水面を叩いた。



「もう、どの後輩もなつるちゃんくらい出来てればいいのに…っ! 本当に、櫛木くんの幼馴染みとは信じがたいわ…」

「…あはは……」



一体彼方くんは普段どんな態度で先輩方に接しているのだか…。
他の後輩という言葉に疑問を覚えつつ、私は苦い笑みを浮かべることしかできなかった。






気づきと決心




(それにしても…なつるちゃんも結構スタイルいいわよね……)
(…へっ?)
(……D…E? いや、やっぱりD…? 一体何食べたらそんなに育つの…?)
(えっ、や、あの…リコ先輩細いし…胸も脂肪ですし…っ)
(でもなつるちゃんだって太ってないじゃない…!)
(え、えっと…特に何もしてないんですけど…それに、スタイルで似合わない服とかでてきますし、最終的にありすぎても重力の影響とか靭帯が伸びたりとか、大胸筋も衰えて悲惨なことになるし…そんなに気にすることじゃ…女性は妊娠してもカップ数上がるって聞いたことも…ありますし…!)
(……なつるちゃんって本当にいい子よね…)
(は、い? いや、そんなことは…)
20121102.

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