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「なぁ黒子ー、今日来たあの子、彼女とか?」

「…え?」

「ちょっ、コガ!? お前直球すぎねぇ!?」



部活終了後の部室にて、いつものように汗だくになったシャツを着替えている最中に小金井先輩からかけられた質問に、一瞬何を言われたのか判らず、時間が止まった。

振り返ってみれば興味津々といった様子でこちらを見つめる質問を投げ掛けた張本人と、口には出さずとも気になって仕方がないような視線を向けてくる部員全員の目に晒される。

普段目立たない分、ここまで注目されると若干息苦しい。
なんとも言えない感覚に眉を寄せながら、とりあえずは制服のボタンを留めながら素直に答えることにする。



「彼女ではないです」

「ほほーう、でも仲良さそうだったよなぁ?」

「ああ…黒子が笑ってんのあんま見ないしな」

「そうですか?」



自分ではそんなに感じないが、どうも周囲から見るとボクの表情は薄いらしい。
彼女と会話する時は確かに、よくつられて笑ってしまうことが多いような気もするけれど、そんなに普段と差があるわけでも無いと、自分では思っていた。



「でも、仲は多分いい方ですね。ボクをすぐ見つけてくれる人ですし」

「それ! それだよ! あの子何であんなに早く黒子に気づいたんだ!?」

「それは白雲さんに訊くことじゃないんでしょうか」



身を乗り出してくる小金井先輩の背後で、おろおろと水戸部先輩が見守っているのが目に入る。
そういえば水戸部先輩も彼女と親しいらしいし、彼女についてはそちらに訊いてみては、と返すと、部員全員の視線が一気にボクから逸れた。

何となく、自分の知る彼女をひけらかすようなことはしたくなかったので振った話題だったけれど、すぐに自分の判断の正しさに気づく。
水戸部先輩には悪いが、自分の知らない彼女の一面を知れるかもしれないという期待に、ボクの視線も彼らに混じって心優しい先輩へと向けられた。



「…!」

「いやいや、そう言うなよ水戸部ー。少なくとも挨拶する程度には親しいわけだろー?」

「コガ、通訳、通訳しないとわかんないからオレら」

「ああ! んっとなー、水戸部も委員会の時に少し話す程度? みたいだけど…うん? うん、おとなしいタイプだけど引っ込み思案なわけでもないし、気が利くいい子だって!」

「あー、まぁ、そんな感じなのは何となく見てて判ったかも」

「女の子らしい子だったよな。結構可愛かったし」



このメンバーで白雲さんのことが話題に上がっているのは、何となく不思議な気分になる。
不快、とまでは行かないけれど違和感が付き纏って、その会話にうまく乗っかることができず、ボクは聞き耳だけを立てながら無言で帰る仕度を進めた。

ただ、小金井先輩を介して水戸部先輩から出てきた彼女の情報は自分の持っている認識と大差なく、安心したような、それでも少し物足りないような、そんな言い表し難い感情に胸を支配される。
ボク以外の口から彼女の好印象具合を語られると、否定したいわけではないのにどうしてか、そうではない、と口に出してしまいたくなったりもして。



(可愛い…確かに、笑顔は可愛いと思う、けど)



可愛いだけの人ではなく彼女はもっと、繊細で、優しくて、広い視野を持っている。
何より、傍にいると安心する、休むことを許してくれるような、そんな雰囲気を持った魅力的な人なのだと。

そんなことを語りたくなっては、それはそれで勿体ないとも思い。
だけれど一面だけを見て、ただ可愛いだとか、女の子らしいだとか、それだけにしか見られないのも面白くなく。

ボクだけが知っている優越感と、ジレンマが葛藤を繰り返して自然と溜息を吐いてしまったのも、きっとどうしようもないことだった。





部室でのやりとり



(で、結局黒子はあの子とどんな関係なの?)
(…友達、ですかね)
(接点は?)
(話すと長くなるので、すみませんけどボクはこれで)
(え!? あ、ちょっ‥準備早っ!!)
(こらーっ黒子! 逃げんなーっ!)
20120804.

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