とりあえず、驚愕の事実はさておき。
差し入れが差し入れなので、形を保っているうちに配らせていただくことにした。
「うんめぇー!」
「やっべこれ! ジェラートとか作れるんだな!!」
「文明の利器がありますから。気に入っていただけて何よりです」
冷凍庫で冷やしておいたガラスの器に、ジェラートとソルベを掬い分けながら頬を緩める。
自分の作ったものを美味しそうに食べてもらえるというのは、面映ゆいようなそれでいて嬉しいような、そんなふわふわとした気分になる。
「水戸部先輩もバスケ部だったんですね」
性格からか、我先にとクーラーボックスの前に並んだ人達とは違い後ろから二番目にいた顔見知りの先輩に笑いかければ、穏やかな笑顔でこくりと頷かれた。
それに反応して、一番後ろにいた黒子くんがぱちくりと瞳を瞬かせる。
「水戸部先輩とも知り合いなんですか?」
「うん、保健委員で一緒で。色々と教えてくれるの水戸部先輩くらいだから、それで少しお話するかな」
「話…水戸部先輩と、できるんですか」
「え? うん。表情と身ぶり手振りを見てたら何となく受け答えできるし、大体会話になるよ」
確かに無口な先輩だけど、無愛想な人ではない。
だから会話するのもそんなに難しいことではないと思うのだけれど、黒子くんの分のソルベとジェラートを装いながら答えた私に、その黒子くんはほんの少し、何かを考えるような間を置いてそうですか、と呟いた。
その声の抑揚が普段とは少し違う気がして、装い終わった器を差し出しながら首を傾げると、気づいた黒子くんは何でもないです、と微笑む。
「それならいいんだけど…」
「はい。それより白雲さん」
「うん?」
「これ…ジェラート、とても美味しいです」
「! 本当? ジェラートは私が作ったから、そう言ってもらえると嬉しいなぁ」
ソルベは彼方くん担当で、ジェラートは私が作ったものだった。
因みに、どちらも二人で味見済みだ。
フルーツの瑞々しさも胡麻の香ばしさも捨てがたくて、どちらを差し入れにするか選びきれずに両方になってしまったのだけれど、相性は悪くなくどちらの味も楽しめる分、これはこれで正解だったな、とは思っていた。
けれどやっぱり、自分が作ったものを気に入ってもらえるのは嬉しいわけで。
しかもそれが親しい人だと、余計にその気持ちは強まりもして。
それに、黒子くんに料理を振る舞うのは初めてだったから、空気の詰まりきった風船のように気分がふわふわと浮き上がるのだと思う。
本当に美味しそうに、少しだけ目尻を下げる彼の表情を見上げて、私もつい、いつもより更に頬が緩んでしまった。
「白雲さんは料理が上手なんですね」
「うーん…多分、数少ない特技の一つかもしれない、かな」
「そんなことはないと思いますけど…でも、料理ができるのはすごいです」
「そう?」
「ボクはゆで卵くらいしかまともに作れませんから」
きりっ、と真剣な顔でそんなことを言う黒子くんに、思わず吹き出しそうになって口を手で覆った。
多分笑っちゃいけないんだと思うのだけれど、真剣な顔でできない宣言をされると、どうしてか彼が可愛く見えて。
「白雲さん?」
「な、何でもなっ…ふっ…」
「…笑いましたね」
「ご、ごめんなさ…っふふふ」
クーラーボックスに片手をついて笑いを噛み殺す私に合わせるように、しゃがみこんだ黒子くんがじとりと見つめてくる。
その視線ですらおかしくて、ごめんなさい、と謝りながらも堪えきれなくなった私に、彼はわざとらしく許しませんと答えて、それからすぐにつられるように笑った。
深まる親交(黒子が女子と笑い合ってる…!?)
(何あれ!? あそこだけなんか青春してねぇ!?)
(つか、結局あの子、何者なんだ?)
(櫛木と仲良いっぽいしな…明日にでも訊いてみるか)
20120802.
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