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「うー…中々、重いなぁ……っ」



肩にかかる重量に時折呻きながら、私は足早に体育館を目指す。

女子の身体には少々不釣り合いな大きなクーラーボックスは、彼方くんの突然の命令により運搬中のもの。
いつもなら重いものを運ぶ時は手伝ってくれるのだけれど、今日は何故だか頑として動いてくれなかった。
余程顔を合わせたくない人でもいるのだろうか。

嫌がられては仕方がないし、他の部員に迷惑をかけるのも気が引けたので、大人しく私一人で彼方くんの命令をこなすことにしたけれど…。
そろそろ重いを通り越して痛みに変わり始めたような…いや、気のせいだよね。うん、気にしたら敗けだ。



「つ、着いた…っ」



家庭科室から長い道のりを経てようやく辿り着いた体育館の入口に、どさりとボックスを下ろして息を吐く。

この程度で疲れるなんて体力不足かなぁ、と少し情けなく思いながら、滲んだ汗を持ってきていたミニタオルで拭って扉から中を覗き込んだ。



(う、わぁ…)



バスケ部が練習しているとは聞いていたけれど、実際に目に写すと見惚れずにはいられない。
真剣な表情で声を発する、汗だくになりながらも俊敏に動いてボールを操る男子生徒達の姿は、純粋に格好よくて頬が緩んだ。

そしてすぐに自分が何をしに来たのかを思い出して、はっとしたのだけれど。



(これ、どうやって声かければいいのかな…)



練習の邪魔をするわけにはいかないし、男子生徒は無いとして…。

誰か手の空いた人はいないかときょろきょろ辺りを見回せば、ホイッスルを手に指示を出していた女子生徒と目が合う。
軽く首を傾げられたので会釈すると、いかにもさばけたイメージのその人が小走りで近寄ってきてくれた。



「えっと…誰かに用事かしら?」

「あ、いえ! 私料理部の者なんですが、預かりものをお届けに…」

「預かりもの?」

「櫛木彼方って言えば分かると聞いたんですけど…」

「へ? 櫛木くん?」

「カントクー! 次のメニューは…って、誰だ?」



何と説明したものか、悩みながら言葉を選んでいると、今度は眼鏡をかけた男子生徒が近寄ってきてこちらに気づく。
女子生徒が監督さん…?、と疑問に感じながらも、とりあえず私は彼方くんの命令を遂行すべく制服のポケットから一枚のメモを取り出した。



「初めまして、料理部の者です。ええっとそれで、彼方くんからの伝言なんですが…」

「は? 彼方くん?…ってもしかして櫛木か?」

「あ、はい! 『海常との練習試合に勝つとはお前らのわりにはよくやったな。その調子でアイツが帰るまで負けんじゃねーぞ。オレとなつる特製の差し入れ心して食え』…って……彼方くん…」



何て上から目線な…。

読み終わった走り書きに苦い笑みしか浮かばない。
おそらく先輩であろう目の前のお二方の頬がひくりと引き攣るのが見えて、私は申し訳なさに深く頭を下げた。



「ごめんなさい…不器用な人なんです。これでも喜んでて、彼なりの激励なんだと…」

「あ、ああっ! いいのよ、貴方は何も悪くないから!」

「つか、差し入れ…って」

「あ、はい。この中に。できればすぐに召し上がってもらいたいんですけど…大丈夫ですかね」

「えーっと、中身は?」

「桃のソルベと胡麻のジェラートです」



そろそろ暑くなってきたから、嫌がられるものではないだろう。栄養分もそれなりにあるし、と思いながらボックスを体育館の床に上げると、眼鏡の先輩が館内に向かって唐突に叫んだ。



「お前らぁああ! 恵みだぁああああ!!」

「えっ!? 何々!?」

「恵みって…」

「差し入れがきた!!」

「何だと!?」

「っしゃああああ!! 休憩! 休憩しよう! なっ!?」

「意義なし!!!」



わあわあと沸いた空気に、一瞬呆気にとられて思考が固まる。
もしかしてこれは、邪魔になってしまった…!?



「…えっ? え、あの、練習中じゃっ」

「はぁ…まぁ、大丈夫よ。ある程度のメニューはこなしてるし、そろそろ休憩入れてもいいかなと思ってたところ。それより、わざわざありがとう。重かったでしょ?」



ダッシュで集ってくる男子を呆れた目で見つめながらも、笑顔でお礼を言われてほっとする。
監督と呼ばれていたけれど見た目は可愛い普通の先輩に、私も笑って首を振った。



「確かに、重かったのはありますけど…美味しく食べてもらえればそれでいいんです。強豪校に勝ったって聞きましたし…私からも、激励ということで」

「櫛木くんの後輩にしてはいい子ね…」

「あはは…」

「ね! コレ!? コレ何入ってんの!?」

「え? あ、はい。桃のソルベと胡麻のジェラートで…あれ?」



いつの間にやら私と監督さんを取り囲むように輪ができていて。
待ちきれないといった様子で訊ねてきたおそらくは先輩らしき人に、答えようと顔を向けたところで飛び込んできたその姿に、私はぱちぱちと瞬きを繰り返してしまった。



「白雲さん…?」

「え? あれ? 黒子くん…?」



同じく、きょとんと目を瞠ってこちらを見つめてくる彼と私を周囲の人達は交互に見つめて、知り合い?、と首を傾げた。

そういえば彼との会話で部活の話をしたことはなかったと、その時初めて私は気づいたのだった。





部活時間の体育館



(黒子くん…バスケ部だったんだ)
(白雲さんは料理部だったんですね…)

(ていうかあの子、すげぇ早く黒子に気づかなかったか?)
(一体何者……)
20120730.

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