征陸と
出勤したら、今日は非番のはずの由良さんが居て、一瞬硬直する。 「あ、ツネモリ監視官。おはよう。」 しかし当の本人はさらりと話しかけてきて、咄嗟におはようございますと返してから、つい、「今日、非番でしたよね?」と聞いてしまった。 「そうだね、非番だからお給料は出ないよ。」 と答えた彼が、なぜだか上機嫌に見えて、それに休日出勤なんてしなければいけないほど仕事があったようにも思えなくて。 首を傾げていると、後ろからドアの開閉音がした。 ――瞬間。 「トモミさんっ!」 ぱあっ、と、……見たことの無い満面の笑顔で、彼は私の横をすり抜けた。
「…な? 犬だろ。」 「狡噛さん、」 ぽん、と肩を叩かれ、そんなことを言われる。 「…失礼ですよ、そんなこと、」 一応はそう言ったものの、正直、私も思ってしまった。文字通り、人が変わるというか……普段はあんなに、王子様みたい(と言えば語弊はあるかもしれないけれど、本当に雰囲気はそんな感じ)だというのに。 ちら、と見やれば、征陸さんの傍らで、ひどく幸せそうに手伝いをしている彼の姿が目に入る。 …まあ、本人たちが良いなら、良いのかな…なんて思ったところで、縢くんが言った。 「確かに犬みたいだけど、そうすると犬の犬ってことになるよなーって俺、前から思ってんだよね。」 「ま、ギノの言葉を借りればそういうことに――」 狡噛さんまで同意しかけたそのとき、どういう訳だかひやりと気温が少しだけ下がったような感覚がして。 気付けば、縢くんのすぐ後ろに由良さんが立っていた。 「あ、」 と私が間抜けた声を上げている間に、由良さんの手は縢くんの頭をひっぱたいた。 「いって! なにすんだバカ!」 「俺は良いけどトモミさんは犬じゃないっていつも言ってるだろ、バカガリ!」 「ばっ…!? 人の名前かってに改ざんしてんじゃねーよ!」 小気味よい音を皮切りに、ぎゃいぎゃいと騒ぎだした二人に、どうしたら良いのかわからなくて狡噛さんを見やる。顔を覆って肩を震わせているので役に立たなさそうだ。 次に宜野座さんを探したけれど、たまたま席を立っているのか部屋の中に見当たらない。六合塚さんも同様で、後は―― 「おぅい、由良。」 ビタッ、とそれこそ無理矢理せき止めたように口論が止む。――正確には、由良さんが瞬時に口を噤んだだけだったのだが、横槍に驚いてか縢くんも黙っていた。 「ちっと手伝ってくれ。」 そう言って入り口近くで手招く征陸さんに、「はい!」と嬉しそうに返事をしてすぐに離れて行ってしまう。 そのまま二人とも部屋から出て行ってしまって、残された縢くんの「…やっぱり犬じゃねーか、」という呟きに狡噛さんがまた笑った。
幻覚すら見えた気がした (立った耳と振られる尻尾)
(喧嘩は駄目だろう) (…喧嘩じゃないですけど、) (俺のために怒ってくれるのは嬉しいがな) (……ごめんなさい)
(素直に謝ってる…) (とっつぁんばっかずるくね?) (なんだ、うらやましいのか?) (べっつにそんなんじゃねーけど!)
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