狡噛と

「コーガミくん、…トモミさんと女の子をオトリにしたんだって?」
医務室に入ってくるなりそう言った青年に、2対の視線が向けられる。
「…由良か。」
ため息混じりの狡噛の言葉に、常守は目を瞬かせた。
「由良さん…ですか?」
首を傾げる彼女に、あぁ、と青年は笑顔を向けた。
「初めまして、ツネモリ監視官。俺は由良歩…君の部下でもある、執行官の一人だよ。」
昨日は出てなかったから、初対面だよね。そういって手を差し出してきた青年、もとい由良と握手を交わしつつ、常守も「よろしくおねがいします、」と返した。

「…で、何をしに来たんだ?」
「え、文句言いにだけど。」
疲れたような狡噛に、由良はニッコリと笑みを深める。
「効率の良い方法をとったまでだ。とっつぁんが文句を言った訳でもあるまいし、今俺は動けないんだからこれで勘弁しろ。」
はあ、と溜め息を吐きながら言う狡噛に、由良は「わかってるけど、」と口を尖らせた。
「わかってても、文句くらい良いでしょ。今回は大丈夫だったけど…トモミさんが怪我してたら、問答無用で殴ってるからね?」
拗ねたような、年齢に似合わない表情で不穏なことを言う彼に、常守は戸惑い狡噛に助けを求めるような目を向けてしまう。
「…新人が怯えてるぞ、由良。」
呆れたように狡噛が言えば、ごめん、と素直に謝られた。
「い、いえ、少し驚いただけなので、」
少し焦る彼女に、しかし許されたからか彼はゆるりと微笑んだ。


それはまるで、
(おとぎ話の王子様のように綺麗な、)


(いつもあんな感じだからさっさと慣れた方が良いぞ)
(い、いつもって…)
(とっつぁんの犬だからな)
(犬!?)
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