『この夜が死ぬまで』
「ぎゅーってしていい?」
そう聞かれたとき、正直言葉に詰まった。 甘えただな、と茶化したけれど、こちらの気も知らないで、とも思わなかったわけではない。……それでも、無条件に信用されているその事実に、どうしようもない筈の衝動がすっかり凪いでいるのには、自分でも笑ってしまうくらいだった。 軋む身体を誤魔化して屈んでやると、しがみつくようにして抱き締められる。 ちいさなその体躯を抱き締め返しながら、あたたかいな、と逃避のようにおもった。このまま食うことだって出来るのに、どうせおまえは、「それでもいいよ」とか言うんだろう。 狐の面の下から聞こえたちいさな嗚咽は聞かなかった振りをして、柔らかな髪の毛を撫でる。
「じゃあな、はじめ」
震えそうになる声を必死に抑えて言いながら、「目」を奪う術をかけてやる。 痛みなど無いように。……これから先、お前を脅かすものがないように。
「またね、文さん」
返ってきた声は震えていた。けれど、そうか、お前はまだ、「また」、俺と出会ってくれるのか。
「――待ってる。」
返した声は、届いただろうか。 泣き崩れるちいさな友人のそばに座って、泣きおわるのを待った。 痛む身体も、力がこの手からこぼれていくような感覚も、恐ろしくはない。 まだべそをかきながら、それでも立ち上がって、踵を返したその背を見送る。
さみしいけれど、つらくはなかった。 ちっぽけで、あたたかい、どうしようもなく大切な。お前のくれた約束が、お前の命そのものが、おれの意思の、証になるから。
しんどすぎて書いた。 ▽イメージソング 「灰色と青」(米津玄師) 「同じドアをくぐれたら」(BUMP OF CHICKEN) 「ロストマン」(BUMP OF CHICKEN)
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