ザップさんの「ゆうれい」

「はは、ザップ!今日も随分と派手に怪我をしたもんだな!」

ザップさんの見舞いに訪れた病室で、まず僕を迎えたのは、けたけたけた!という効果音でも付きそうな声。テンションはいっそ堕落王のそれにすら近く、とても面白おかしそうに、その人物は――ベッドに寝かされたザップさんの、「頭上」でくるくると踊っていた。

「うるせえよ…」

ザップさんにしては、抑えた声だった。まるで、他の人間には聞かれてはならないとでも言うような。

「アッハッハ!いいねえ、バカみたいにボロボロなのにまだ口が減らない!」

反面、かれはけたたましい。誰だかわからないし、その顔もフードを深く被っていて伺えないけれど、にんまりとみかづき型に裂けた口が、酷く印象的だった。

「…最近は大人しかったじゃねえか…なんでまた…」

ぼそぼそと、とても不機嫌そうにそう言うザップさんの顔は、ちょうどサイドテーブルの陰になってしまっている。それは、彼からも僕が見えないということで。

「なんでもなにもないだろ、人がちゃあんと情報もってきたのに!」

「あー…そういや頼んだっけか…」

「忘れてたな?酷い話だ。本当、人が調べ物してる間に死にかけるなんて、よしてくれよ、まったく。」

「はいはい…で、成果は?」




(…たぶんこれ、気付いてないな。)

宙に浮いてる誰かさんはわからないが、少なくともザップさんは僕が来たことに気づいていないようだった。そして、きっと、「彼」と話していることを、誰にも気付かれたくないから、声も抑えているのだろう。

どうしたものか。

声をかけてもかけなくても、面倒なことになるような気がして、少しの間考える。ただ、このまま聞いていると「何かしらの取引」を目撃することになりそうで、それは別に、気が進むものではなかった。

「あの、」

意を決して口を開くと、だれかさんは、「おっと……おいザップ、お客さんだぜ」と言いながらザップさんの上から退き、こちらを見ている……ような気がした。実際は目が見えないのでわからないが。ただそれが、とても不躾な視線に感じられて、少しむっとする。
そして、言葉を受けた瞬間跳ねるようにして起き上がったザップさんはといえば、なんだか見たことのない顔でこっちを見ていた。これはこれで不気味だ、なんだこの状況。
まったく異なる二つの視線に晒されながら、えーと、と口ごもる。

「…今の、聞いてたか。」

低い声だった。緊張しているような、警戒しているような。

「え、ああ…すみません。これ以上聞いたらまずそうだったんで声かけました、はい。」

片手の手のひらをザップさんにみせながら、なんだかばつが悪くてもごもごとそう答えた。

「………いいけどよ……っつーか寝言だ、気にすんな。」

ふい、と視線をそらしながら言うザップさんに、ぽかんとする。いや、どう見ても会話してたじゃん、なに言ってんの、この人。……とはいえ、別にそこまで気にすることでもない、言うことが支離滅裂なの自体はいつものことだった。そう思い直して、それでもこれは聞いとくべきだろうと、今度はこちらから口を開く。

「んで、その人、誰っすか?」

退屈そうに浮遊している人物に目を向けながらそういった瞬間、その人物は、あれほどニヤニヤとしていた口をきゅっと閉じ――ザップさんは、今度は、これでもかと言うほどに目を見開いた。

そうして、ひとこと、搾り出すように。

「みえんのか、れお」

と、言ったのだ。
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