歩きはじめてからどれくらい経ったか。ふとユーキが歩みを止めた。

「どうかしましたか、ユーキさん」
「しっ。今草が揺れた」
「え……?」
「この気配は魔物だけど」
「……この辺りは酷いって噂だからね。アイリスちゃん、あまり離れないようにして」
「はい……」

しん、とした空気の中、激しく草が揺れる音が近づいて来て、大きな鳴き声と共に魔物が三匹飛び出してきたのだ。

「でやがったな……!」

ユーキは腰から刀を抜いて構え、ソウはホルターから銃を取り出してアイリスの傍に立つ。

「できるだけ近くに」
「は、はい」

リアはブツブツと何かを呟き始め、同時に地面には魔方陣のようなものが現れ始める。しかし魔物たちはすぐにユーキたち目掛けて噛みつこうと飛び上がる。ユーキは刀でそれを抑え、魔物の足を斬りつけて手傷を追わせる。ソウも手にしている銃で魔物の足元を撃つ。

「……我らを守護せよ!ヴィントル!」

リアがそう叫べば、風が強く吹き荒れ、その風が魔物を切り裂き、かなりの量の傷をつけていく。

「あ、」

アイリスが小さく声をもらしたが、それは誰にも聞こえない。弱っている魔物にとどめをさすように、ユーキは刀を突き刺し、ソウは急所に狙いを定めて弾を撃ち込む。

「……っ」
「っし、」
「怪我ある人は?」
「いねぇだろ」
「……ちょっと待って。飛び出して来た魔物は三匹いたわよ」
「は?……二匹しかいねぇぞ」
「どこかにいるわよ!人間に気づかずに通りすぎるわけないじゃない!」

リアが声を上げたのと同時、アイリスの後ろで草が揺れ、大きな影が飛びかかって来た。

「アイリス!!」

とっさに振り向いたアイリスだったが魔物の噛みつきを防げるわけもなく、彼女はぎゅっと目をつむった。
暗闇の中、血が土に落ちる音がしたが、アイリスは痛みを感じていない。不思議に思ってそっと目を開けると、目の前には大きな背中――ソウが立っていた。

「いっ、……!」
「っ、ソウさん!」
「するどく強く、突き刺せ!エアーデ!!」

リアが短く早口で詠唱を終えると土が盛り上がり、ソウの腕に噛みついていた魔物は上に飛び上がり、ユーキがそれを追い、とどめをさす。

「……はあ、」
「アイリスちゃん、怪我してないね?」
「ソウさんっ、怪我が……!!」
「僕は大丈夫だから」
「嘘つかないでよ!それが大丈夫なわけないじゃないっ!」
「馬鹿、見せろ」
「いっ!!……ちょっとユーキ、僕怪我してるんだからもうちょっと優しくしてよ」
「大丈夫なんだろ、痛くねえ痛くねえ」
「はは……」

ソウの腕の傷を見ていたユーキはすぐにポーチから薬と包帯を取り出し、すぐに応急処置を行う。

「よし、これでだいぶマシだろ」
「ありがとう、ユーキ」
「そ、ソウさん……」
「大丈夫だよ、アイリスちゃん。リアも。だからそんな泣きそうな顔しないでよ」

へらりと笑うソウの左腕に巻かれた包帯にはすぐに血が滲み始め、痛々しい。

「ごめんなさい、私のせいで」
「アイリスちゃんのせいじゃないよ」
「でも、」
「油断してた俺たちが悪いんだ」
「そうそう」
「……でもやっぱり、私がいなければソウさんは怪我なんてしませんでしたよね」
「あんたがいようがいまいが、怪我するときはするんだ。気にしすぎだよ」
「……」
「ま、利き腕じゃなくてよかったな」
「だね」
「しばらくは大人しくしてろよ」
「嫌だって言っても参加させないわよ」
「あはは、厳しいな」
「ま、町は近いしすぐ着くさ。そうしたら診てもらおうぜ」
「ん。……ごめんね」

ふらふらと立ち上がったソウに寄り添うように横についたリアを後ろから見つめていたアイリスの中には、もやもやした何かがあった。




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