アイリスの髪を整え終わり、皆が落ち着いた頃。まず口を開いたのはユーキだった。
「あんたの名前は、アイリス……だっけ」
「え、あ、はい。私はアイリス・ファリアナ・ステルンベルギアと申します」
「アイリス・ふぁり……?」
「長いので、アイリスと呼んでくださって構いませんよ」
にこりと笑みを浮かべたアイリスに、リアは小さくごめんと謝る。
「気にしないでください。……ええと」
「あ。あたしはリア。リア・カーパス」
「俺はユーキ・アルストロ。ユーキって呼んでくれな」
「僕はソウ・カーパス」
「カーパス……?リアさんとソウさんは兄妹なのですか?」
「そうだよ。よろしくね、アイリスちゃん」
「あ、よろしくお願いしますっ」
一通り自己紹介が終わると、ユーキはよしっと立ち上がる。
「行くか。いつまでもここにいるわけにはいかねぇし」
「そうだね」
「……あ、そうだ。アイリス」
「はい?」
「これ、肌身離さず持ち歩いてなさい」
そう言ってリアが手渡したのは小さな袋のついたストラップ。
「なんですか?」
「魔物よけよ」
「魔物よけ……」
「町の結界と同じように、人間を守るの。魔物が嫌いな匂いを発して寄せ付けないようにするのよ」
「これがあれば、魔物に襲われないのですか?」
「ええ。まあ、それは簡単なものだからちゃんとしたものはまた買うけど」
「すごいですね……!」
「アイリスちゃん、最近は理性を無くして暴れる魔物もいるから、それを持ってても魔物に襲われることがある。……気をつけてね」
「は、はい……」
「あ、ああでもほら、僕たちがいるから大丈夫だよ!」
ソウの忠告に不安気にうなずいたアイリス。そんな彼女にソウは慌てて言葉を付け足し、ユーキがそれに重ねるように言う。
「そうそう。だから安心してさくさく歩けー。置いてくぞー」
スタスタ一人で歩いて行こうとする彼に、三人は慌てて着いていく。
こうして、籠から逃げ出した鳥の旅が始まったのだ。
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