結界からリマーレを出て、しばらく歩いた先にある森の中で一行はやっと歩みを止めた。

「ここまで来れば問題ないわね」
「この森、広いみたいだし……」
「まあ時間稼ぎ程度だろうけどな」
「充分よ。その子の服を着替えさせるだけだし」
「……え、私?」

目を向けられたアイリスは、驚いたような表情でリアを見つめる。そんな彼女にリアはため息。

「あなた以外にいないでしょ、着替えが必要な人間」
「そ、そうですよね……」
「じゃ、着替えましょうか。男どもはいいって言うまで近くを見張ってなさい!」
「はいはい」
「何かあったら声を上げるんだよ」

そう言って男二人はバラバラの方向に歩き出し、すぐに姿が見えなくなってしまった。

「はい、これがあなたの服よ」
「あ、ありがとうございます」
「着方はわかる?」
「ええと……すみません、」
「ちょっと貸して」
「あ、」
「簡単だからすぐわかるわ」

そうしてリアはアイリスに服の着方を教え、アイリスが一人で服を着替え終わったころ。

「ユーキ、兄さん!もういいわよー」
「終わったんだね」
「なげぇ」
「仕方ないでしょ」
「そうだよユーキ」
「……あの、」
目の前で広がる会話に小さく入り込むアイリス。皆がそちらを見れば彼女は、頬を赤く染めてスカートの裾を握りしめていた。

「に、似合っていますか……?」
「似合ってるって言ったじゃない」
「で、でも……ドレス以外のものって着たことないから不安で……」
「似合っるよ」
「ああ」

ユーキがわしゃっと頭を撫でて笑えば、アイリスはまた頬を染める。ふと、彼が頭を撫でたせいで落ちてきた一筋の髪が目に入った。

「あ」
「どうしたんだ?」
「あの、何か切るものありませんか?……なんでもいいんです」
「ナイフならあるけど」
「貸していただいてもいいですか?」
「え?ええ、いいわよ。はい」

どこからかナイフを取り出したリアは、それを彼女に手渡す。アイリスはナイフを受け取り、じっと見つめる。

「何に使うのよ?」
「……こうします」

彼女は長く綺麗に伸びた髪をひっつかみ、適当な位置でナイフを髪にあて、思いきり切ったのだ。

「あ……、」
「ちょっ、ええ!?」

アイリスのその行動でソウとリアは目を丸くし、ふわりと風に乗って飛んでいく綺麗な黒髪を、短くなった黒髪が風になびく様子をじっと見ていた。

「切っちゃった、の……?」
「あんなに髪してたのに、もったいない……」
「なんで切ったのよ……?」
「いらないと思ったから。それに、髪が長ければすぐに私だってわかります。せっかく外に出られたのですから、すぐに戻るわけにはいきません」

覚悟に満ちた瞳。それをみたユーキはまたアイリスの髪をくしゃりと撫で、それからリアを見る。

「ソウ。コイツの髪を整えてやれ」
「あ、うん……わかった」
「終わったらお互いに名乗って、それから出発な。リアも髪を整えるの手伝えよ?俺そういうのわかんねえから」
「え、あ、ええ……」

木のそばに腰を下ろしたユーキは、アイリスの髪を整え終わるのを待つことにした。



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