summer3
俺は既に諦めの境地にあった。
ここはどこなのだろうか。
「おお!川だ!すげぇぇっ!」
暗くて姿が見えないからあまり遠くに行かないで欲しい。
バシャバシャという音が聞こえる。六時間近く自転車を漕いでいたというのに元気なやつだ。
暫くすると、満足したのかびしょびしょの姿で拓哉は戻ってきた。
「さむっ。山って冷えるんだな」
それもあるかもしれないが、主な原因は先ほどの行動にあると思う。
拓哉は自転車の籠に積んであった荷物をまさぐり始める。拓哉はTシャツとズボンを取り出すと、その場で着替え始めた。
俺も、そのタイミングで汗で鬱陶しかった上だけを着替えた。
「よっしゃ、テント立てるか」
あの大きな荷物の招待はテントだったのか。よく持ち運べたな。
俺はこんなこともあろうかと持ってきていた懐中電灯を取りだし、テントの組み立てを手伝った。
テントの組み立ては10分ほどで終わった。俺たちは早速中に入り、寝袋を用意した。
中は、想像していたよりは広かった。俺たち二人が並んで寝れる程度には。
時刻は夜の9時。町から離れているこの場所は、外はもう真っ暗だった。
拓哉はもう疲れてしまったのか、静かに寝息を立てている。
外から、川の流れる音と風の音に混じって、獣の唸り声が聞こえる。
今まで感じたことのない、胸の奥がざわざわする感覚が俺を襲った。
その感覚を振り払うように、俺はギュッと目をつぶり、拓哉の寝袋に顔を埋めた。
拓哉の寝息を聞いていると、胸のざわざわがちょっとだけ収まったような気がした。
だが、それでも慣れない環境に、なかなか寝付けないでいた。
すると、拓哉が俺の方に寝返りをうち、寝袋から手を出して俺の頭を抱きかかえた。
起きているのだろうか。俺が眠れないことを分かっているのだろうか。
それでも、先ほどの感覚はすっかり収まった。
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