summer9
そこからは順調だった。三時間もしないうちに俺たちは家に到着した。
「ごめんな。色々と」
俺の家の前で拓哉はしょんぼりした顔でそう言った。謝るようなことはないのに。むしろ、俺は生まれて初めての大冒険に満足していた。
俺は拓哉の方を向き、首を横に大きく振った。
拓哉は一瞬目を見開くと、すぐにいつもような笑顔に戻った。
「カイの笑った顔、初めてみたかも」
そう言って、拓哉は手を振りながら走り去っていった。その姿を眺めながら、俺は自分の頬に手を当てた。笑うのなんていつぶりだろうか。
俺は未だに自分がにやけていることの気恥ずかしさから、暫くその場を動けないでいた。
思えばあの時から、俺にとって、拓哉は特別になっていったんだ。
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