「今日、皆さんはこの学校から旅立っていきます。その先の人生で、高校時代に培ったものは、かけがえのないものとなるでしょう。この学校を卒業すること、仲間に出会えたこと、その誇りを胸に、これから歩んで行ってください」
担任の言葉と共に、三年二組最後のホームルームが終わろうとしていた。
起立!
きをつけ!
礼!!
「「「ありがとうございました!!!」」」
青春と呼ばれる高校生活が幕を閉じた。
そして、俺は教室を出た。
「水城くん!!!」
この声は高原隆というクラスメイトだ、そう思いながらどうしたことかと後ろを振り返る。
高原隆はどことなく真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。
目の前に立つ男から次の瞬間発せられた言葉に内心度肝を抜かれた。
「俺、水城くんの事が好きだ。」
眉間にシワを寄せる。
予想し得ない突然の言葉に、廊下で談笑していた生徒たちは静まり返った。そして、つかの間に周りからヒューヒューと囃し立てる者やキャーと短い悲鳴をあげる女子が出てきた。
「何?なんかの罰ゲーム?」
ほとんど関わりが無いにも関わらず、告白するなど、ましてや同性同士、罰ゲームか、からかっているかのどちらかだろう。その考えがすぐに克彦の頭をめぐった。
残念ながら、それに乗るほど俺のノリは良くない。そんなものは相手にせずに早く帰りたかった。
「違う!!俺は……本気で………」
「……」
本気で言っているのだろうか。克彦の目をまっすぐ見据えて、隆はその言葉を伝えていた。
眉間にシワを寄せ、高原隆から視線を逸らす。そこで、自分が今これまでにない程の注目を浴びていることに気がつく。
高校に入ってから、人との関わりを極力避けてきた。なのに、卒業式の日になって、今は周りからの視線にこれでもかという程、曝されている。自分を見つめる全ての人が怖かった。
この恐怖から逃げようと、きびすを返して、何事もなかったかのように足早に帰ろうとする。みんなの前から消えれば、すぐに彼らは自分のことを忘れるだろう。
だが、そんなことできるはずもなく………
「待って!!」
その声と共に、俺は腕をつかまれ壁に押しやられた。
「俺は本気だ。」
壁ドンだなぁ、と心の中で呟いた。もくろみは失敗したが、なぜか冷静だった。まぁ、予想はしていたから。
逃げ場もなくなり、もう何をすることもできず、ずっと俯いていた。
高原隆はとても優しい。3年間同じクラスだった彼への感想だ。
俺は人間観察が好きだった。まあ、好きというよりは、ぼっちだったからそれ以外することがなかったのだが…
クラスメイトはもとより、周りの人間に高い壁を作っていた克彦は、その部厚い壁の内側から周りの人間の様子をなんとなく観察していた。
友達と談笑する姿だけでも様々なことが分かるものだ。こいつとこいつは特別仲が良い。逆にそいつはあいつを嫌っている。人と話をするときの声のトーンや言葉の違いで表情や目の動きで大まかなことは把握できた。
克彦は昔からそういう風に、人の機微に対してとても敏感だった。
だから、クラスメイトが自分をどう思っているかは何となく想像も出来るが、基本的にそう言ったことには興味は無かった。
他人からどう思われようがどうでもいい。そう、自分に言い聞かせていた。
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