隆と直人がお互いの秘密を共有したあとも、二人の毎日は変わらなかった。表向きは。

二人はあのあと、ある約束をした。利害の一致による協力と言った方が良いかもしれない。
直人は水城克彦の中学時代の様子を調べ、隆は航樹にそれとなく好きな人を聞くという。
直人は知り合いに水城と同じ中学の人がおり、それを頼りに調べていくことができた。隆は直人があまり積極的には聞けない航樹の恋愛事情を聞く。
半分ストーカーにも見えるが、お互い迷いはなかった。隆は納得するため。直人は諦めるため。

直人はある日の休日、その友達を誘って食事に出掛けた。昔を懐かしむ目的もあったが、本当の目的は当然…

「そういえばさ、水城ってやつ知ってる?」

「あぁ、まあ…」

と曖昧な返事をする友人。この時点で何かあることは明らかだった。あまり深く突っ込むのも気が引けるが、直人はそれでも続けた。

「何かあったの?中学の時もずっと静かだったのか?」

「あぁ…やっぱ……そう……」

友人は神妙な顔で、はぐらかす。

「もしかして…いじめ?」

友人は静かにドリンクを飲む。直人はそれを肯定と受け取った。これ以上は追求をやめようと思った時、

「中3の秋くらいかな。それまでは人気者だったんだけど」

そこまで話したところで友人は話題を変えた。これ以上聞くなということだろうか。
水城克彦は少なくとも中学の途中までは社交的だった。その後、いじめを機に彼は殻に閉じ籠ってしまった。高校で人間関係が一度リセットされてもなお、彼は人との交わりを拒絶している。
クラスの中心的存在だった者が、急にいじめの対象になった原因。そして、あそこまで心を閉ざしてしまった理由。
直人はなんとなく、それが分かった気がした。


その頃、隆は航樹と二人でいつものファミレスに来ていた。

「直人来れなくて残念だわ」

「幼馴染みとどっか行くって言ってたけど」

「なにそれ怪しい」

「いや、男って言ってた」

「良かった」

「良かったってなんだよ」

「それな」

隆はペペロンチーノを航樹はドリアを注文した。
お互い、近況や進路のことを話しながら時間が過ぎていった。そしてとうとう、隆は本題に入る。

「なあ、航樹って彼女いんの?」

「いないけど」

「じゃあ好きな人は?」

「うーん、どうなんだろ。隆は?」

航樹お得意の標的変換である。今まで航樹はこうしてのらりくらりと話題をずらしたり、逆に聞き返したりして、自分のことをあまり語らないのだ。いつもならそれにまんまと嵌まる隆だったが、今日は違った。

「俺は前話したじゃん。俺は航樹の話が聞きたいの」

「俺?よく分かんないんだよな。そういうの」

この顔はおそらく本気だろう。高校3年生にもなって恋愛事情に疎いやつはこいつくらいだろう、と隆は思った。
しかし、それでももう少し踏み込んだ質問をしたかった。

「隆はないの?なんか」

「無さすぎて、虚しくなってくる。いっそ航樹でも良いかな」

少し本気っぽく隆は尋ねた。

「えぇー、りゅう?」

即座に拒否しないのは航樹なりの優しさなのだろうか。

「良いじゃん良いじゃん。気が合うし」

「そういう問題なの?」

「じゃあ、俺か直人かって言ったらどっち」

「それなら直人。てかなんの話してんの?」

ハハハッと冗談っぽく笑って隆はそれ以上は止めておいた。
隆としても、少しは収穫はあった。だが、同じくらい罪悪感もあった。


こうして隆と直人の二人は、互いの思い人のことを知ることができた。だが、それ以上のことはどちらも何もしなかった。
さらに一歩踏み出す勇気がなかったのか、現状で満足していたからなのか、はたまた単に受験勉強で忙しかったからなのか。

次に彼らの道が交わるのは、別れの季節、3月の卒業式の日だった。




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