その日は体育の授業があった。
いつものように、隆は克彦を体操のペアに誘う。幸いにも、体育の体操は名簿順2列で行われ、隆と克彦は前後に位置していた。身長も同じくらいと言う理由もあって、隆は自然に克彦とペアを組めるのだ。

この学校の体育は3クラス合同で行う。隆と直人は一緒に行われるクラスだった。その日の授業はバスケだった。試合の休憩時間中、直人は隆の隣にやって来て、耳うちをした。

「前言ってた気になる人って、もしかして水城?」

「はっ?ちち違えし。なっ何言ってんの?」

隆は言った後に後悔した。これでは認めているのと変わらない。

「別に引いたりしねぇよ」

隆は何も言わず、下を向いていた。直人はそれを無言の肯定と受け取った。

「まぁ、俺も似たようなもんだしな」

直人が小さく呟いた。その言葉に、隆はパッと隣を見る。

「えっ、誰?もしかしてこうき…」

直人は立ち上がって話を遮る。つられて隆も立ち上がる。抱えていたバスケットボールを弄りながら直人は、今度また二人で飯でも食べよう、と言い、コートに向かった。
隆はその後ろ姿を呆然と眺めていた。


その日の週末、隆と直人はいつものファミレスに来ていた。隆の前にはペペロンチーノが、直人の前にはラザニアが置かれていた。
いつもならここに航樹がいて、おしゃべりしながら食べ進めるが、その日は全く会話が弾まなかった。目の前の料理はあっという間に無くなった。

「よし、じゃあ本題に入ろうぜ」

直人がやっと、口を開いた。

「ていうか、隆もまた変わった趣味してるよな」

「そんなことないだろ」

「いやいや、だってほとんど相手にされてないじゃん。なに?ドMなの?」

「放って置けないっていうか」

そこまで呟いて、隆はふと疑問に思った。なぜ直人は自分の好きな人が分かったのだろうか。

「隆、ホントに分かりやすいよな。前遊んだとき、ガンガン行けばって言ってお前がガンガン行った相手、水城だもん。ウケる」

馬鹿にしたように笑う直人。

「で、直人は航樹と…」

隆には全然予想していなかったことだ。どちらかというと直人は女に飢えていたように見えた。

「お前、女好きだと思ってた」

「俺は100パー、ゲイだから…黙っててごめん」

悲しそうにそう呟いた。
直人は女好きを装っていた。鋭いからこそ、空気を読めるからこそ、擬態することの重要性を知っていた。友達を信頼していない訳ではない。しかし、どうしても怖かったのだ。仲間に疎外される恐怖、仲間を裏切る罪悪感。そこから逃げるには、黙って嘘をつき続けるしかない。
だから、直人は嬉しかった。自分と同じ人間が近くにいる。相談に乗るとか言っているが、それはほとんど自分のため。嘘をつかなくても良い友達が欲しかっただけ。

「謝るなよ。直人も大変だったんだな。」

直人は目を見開いて、隆を見た。

「だって、ずっとそれを1人で抱えてたんだろ?気づいてやれなくてごめん」

「マジお前に同情とかされたくねえし」

憎まれ口しか出ない自分を直人は呪った。感謝を伝えなければならない。性格がひねくれているのは直人も自分でよく分かっている。でも、

「あ…りがと……」「そんなことよりさ、」

被ってしまった台詞。直人は本気で殺意がわいた。

「えっ、なになに?何て言った?もっかい言って」

「うるせぇうるせぇ。何話そうとしてたんだよ」

「ハハハハっ、めっちゃ赤くなってる」

腹を抱えて笑う隆。絶対に聞こえていた。真っ赤になった顔を早く冷まそうと、水を一気に飲む。
でも、良い友達を持った。直人は笑う隆を見ながら、そう思った。




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