高2になり隆と直人と航樹は別々のクラスになった。しかし、彼らはよく一緒につるんでいた。
その日も、三人で映画を見た帰り、ファミレスに延々と居座っていた。
男三人が集まれば、当然話の内容は決まっている。恋ばなである。
「ねぇ、航樹好きな人いんの?」
直人が興味津々な様子で聞いた。こういう話を切り出すのは大抵直人だった。
「うーん、どうだろう。隆は?」
そして航樹は答えをはぐらかし、話題の矛先を変えるのも、いつものことだ。
「いないなぁ」
そして俺も、これといって話す内容はないのだ。初恋の話や過去の恋愛の話は既に、全員出尽くしている。
「気になる人とかは?」
航樹がさらに質問をしてくる。
気になる人……。そう聞いて隆が咄嗟に思い浮かんだのは水城克彦だった。しかし、隆は慌てて首を横にふる。今話しているのは女のことだ。確かに彼のことは気にはなるが、それは友達になりたいからだ。
「分からん」
結局、口から出た答えはそんな曖昧な言葉だった。
「絶対今思い浮かんでただろ」
直人が間髪入れずに指摘する。勘の良い子は嫌いだ。
「そういうお前はどうなんだよ」
「7組の斎藤って可愛くね?」
分かる分かる。確かに。4組にもいるよな可愛い子。
そうやって誰がかわいいだとか、誰と誰が付き合ってるだとか、いつものような下らない話が始まった。
ただ、隆はずっと心の中に引っ掛かるものを感じていた。気になる人と言われて、隆は迷わず水城克彦を思い浮かべた。
俺は、彼と友達になりたいのだろうか。そう、自分のなかでずっと問いかけていた。しかし、答えは出なかった。
「で、隆の気になる人ってどんなやつ?」
話の区切りがある程度ついた所で、直人が再び隆に尋ねた。隆は一瞬、はぐらかそうとした。しかし、直人の目を見て、それは止めた。
内間直人は口が悪く、素行もあまり良いものではなかった。しかし、誰よりも仲間を大切にし、相手のちょっとした変化に敏感だった。その上、空気を読むのも上手い。何か悩みを持っているものにはさりげなく相談に乗り、聞かない方が良いと判断したものはすぐに身を引く。
だから、彼と仲の良い者は、心から彼を信頼していた。もちろん隆や航樹もである。
直人は相談に乗るときの目でこちらを見ていた。隆はその思いを無下にしたくなかった。
「その人、絶対俺に興味ないからなぁ」
だからと言って直接名前を出すのは気が引ける。嘘は言わず、当たり障りのない内容に止める。
「もしかして彼氏持ちだったりするの?」
航樹が尋ねる。持っているとしたら彼女だろう、と心の中で苦笑いする。しかし、果たして彼に彼女はいるのだろうか。容姿的にはいてもおかしくはないが、あまりあの無愛想さからは想像はできなかった。
「そもそも俺、その人のことよく知らないかも」
「意味分かんねぇ。一目惚れ的なやつ?」
「そうなのかなぁ」
そう、隆は克彦のことを全く知らなかった。恋人はいるのだろうか、その前に友達はいるのだろうか、そもそもどうしてあんな態度をとっているのか、中学時代はどうだったのか。一度そう思うと、全て知りたくなった。
「じゃあもうガンガン行くしかないだろ。興味持ってもらわなきゃ」
「直人にしては良いこと言ったよね」
「うるせぇ」
直人と航樹が言い合っているのを隆はなんとなく眺める。
『ガンガン行こうぜ』
まるで某RPGの作戦のようだ。今までは『身を守れ』だった。様子を見るのはもう終わりだ。
次の日から、少しずつ隆はガンガン行くことにした。
最初は次の授業の連絡を伝えたりと、事務的なことから始めた。
暫くしたら、授業で同じ班に誘ったり、体育のペアを頼んだり、少しずつ近づいていった。
そんな隆の行動にも相変わらず無愛想にする克彦。
しかし、それでも隆は嫌にならなかった。なぜか放っておこうという気にはなれなかった。
克彦は人と目を合わせすらしないため、その真意を伺い知ることは難しかった。だが、隆は見てしまったのだ。隆が話しかけたときにした、悲しそうな目を。
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