教室にはボーッと窓の外を見つめる一人の少年がいた。
高原隆はそんな彼を眺めていた。

西和高校。隆は1ヶ月前に第一志望であるその高校に入学した。彼は持ち前のコミュ力で初対面のクラスメイトともすぐに打ち解け、クラスの輪を広げた。入学当初はみな友達ができるかと少なからず不安を抱いている。だからこそ積極的に動けば、すぐに友達ができ、その輪を広げられる。
隆はそうやってクラスの中心的な存在になっていった。彼のクラスは他のどのクラスよりも早く打ち解けていた。1人を除いて。

水城克彦
彼は入学当初から常に一人で行動している。そんな彼に、他のクラスメイトが話しかけたりもしていたが、彼はその人達と目を合わせることもなく、それはそれは愛想のない態度であしらっていた。

「なにボーッとしてんの?きもっ、隆きもっ。」

突然の悪口に振り返ると、そこにいたのはクラスメイトの仲田航樹だった。隣には内間直人もいる。彼らは隆がいつも行動を共にしている、いわゆるイツメンという奴だ。

「うっせ、なんか用?」

「次実験だろ?早く行こうぜ。」

はいはい、と面倒そうに言いながら、隆は席を立つ。そしていつものように下らない話をしながら次の授業に向かう。未だに外を眺める教室のクラスメイトを尻目に。克彦は常に1人を望んでいる。
もちろん、隆も頑張って会話をしようとしたことがある。

……………………
…………
……


「ねえねえ、水城君ってどこの中学の時何部だったの?」

「………入ってない」

もうこの時点で会話が進展する気が全く起きない。めげそうになりながらも、続ける。

「じゃあさ、高校で何部入るか決めた?」

「別に………」

お前はどこぞの女優か!!水城様か?みずき様なのか?
相変わらず彼の目はこちらを一切向くことなく、明後日の方向を向いている。

「もしかしてバイトするとか?」

「……ごめん、用事あるから」

質問を無視して、彼は立ち上がりすたすたと去っていく。その後ろ姿を呆然と眺めながら、ただ頭を抱えていた。

……
………
……………………


高原隆は昔から世話好きだった。困っている人を見たら放っておけないタイプだ。中学の時も内気な子には積極的に話しかけて、クラスの輪に引き入れていた。
ぼっちというのは、大半は実は人と仲良くしたいと思っているし、話してみると意外と面白いやつが多い。
そんな風にして小学校、中学校とを和気藹々と楽しんでいた隆にとって、水城のようなタイプは初めてだった。

最初から全てを拒んでいる。
クラスのやつらは、既に仲良くしようとは思ってないらしく、彼のことを気にかけず、新しく始まった高校生活を楽しみ始めている。

だが、隆は違った。いつもいつも一人でいる彼のことは、どこか放っておけない気持ちがあった。攻略が難しいものほど燃えるのと同じ原理だろうか。

隆はしばらく水城克彦には話しかけず、なんとなく彼を眺めていた。というか話しかけても無駄だと判断した。彼は人が近づくこと自体を拒んでいる節があるから。

「なあ、水城って喋るの?」

実験室に到着し、直人が不意にその疑問を口にした。

「隆、よく話しかけてたじゃん。なんか聞いたりしねえの?」

「いや、すごい迷惑そうな顔されただけ」

彼との過去のやり取りを思い出して、苦笑いをする。

「ちょっと感じ悪いよね、あの態度」

あぁ、と曖昧な返事を返す。やはり、周りからはそう思われているのか。当然と言えば当然である。

「そりゃ所詮は隆だもん。しょうがないだろ」

どういう意味だコラ。直人の暴言は慣れている。こいつは口は悪いが、悪いやつではない。

「隆に話しかけられるとか、かわいそう」

「はっはっはっ、確かに」

悪いやつではない……多分。そして航樹も乗っかるな。

「でも、何でずっとぼっちなんだ」

直人が話の軌道をもとに戻した。

「ぼっちって言うより、一匹狼って感じだけどね」

「確かに普通に格好いいしな」

そう、水城克彦はかなり整った容姿をしている。普段、あまりにも静かにしているため、分かりにくいが、教室から窓の外を見つめる彼の姿は絵になるのだ。格好いいというよりはどちらかというと美しい、美少年という言葉が相応しいのではないだろうか。だからこそ、友達がいないという事実はただただ疑問なのであった。顔というのは武器になるものだ。その気になれば、男子からも女子からも好かれそうな顔をしているのに。

そうこうしている間に授業は始まる。ふと教室を見回すと、水城克彦も既に席についていた。いつの間に来たのだろうか。
先生の話そっちのけで、チラチラと克彦を観察する。彼は、真面目に先生の話のメモを取っていた。実験が始まり、彼は淡々と自分の仕事をこなしていた。同じ班の人と実験について何か話している用だが、いつものようにひとつひとつの所作が全て機械的だった。
水城克彦をチラチラと盗み見る俺も、いつもと変わらなかった。




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