「なあ、俺卒業式の日に、航樹に告白しようと思う。」

学校からの帰り道、直人は真剣な面持ちで隆にそう告げた。
受験も既に終わり、今日は卒業式の予行練習を行う日だった。第一志望の大学に受かった者、滑り止めの大学に行く者、浪人を決めた者、就職した者。それぞれが、それぞれの道のスタートラインに立ったのだ。

隆と直人はそれぞれ別の私立の大学に入学が決まった。航樹は国立の医学部に受かったらしい。
そして、水城克彦もどうやら第一志望の大学に受かったということだ。これは先生からそれとなく隆が聞き出した情報だが。

長かった高校生活に終わりが近づいていることを隆はなかなか実感ができなかった。
明日が終われば、克彦とも会えなくなるだろう。普通のクラスメイトなら同窓会などで集まる機会がこれから何度もあるだろうが、あの水城克彦がそんなものに来るわけがない。

そうやってしんみり歩いていたときに、直人が先ほどの台詞を言ったのである。

「…がんばれ。まあ、振られたらちゃんと慰めてあげるから」

「なんで振られる前提なんだよ」

そう軽口を叩いた隆だったが、その表情はどこか晴れないでいた。

「お前は……隆は伝えなくて良いのか?多分最後なんだろ?」

「……」

隆は黙りこくってしまう。

「後悔だけはするなよ」

直人は隆の肩を軽く叩く。
高校三年間、隆と克彦は奇跡的に同じクラスだった。しかし、関係性の進歩はほとんどなかった。どれだけ隆が歩み寄っても、克彦はその度に距離を取ろうとした。嫌われたのではないかと思うほどだった。
しかし、隆はそれでも諦めきれなかった。
隆は知っていた。克彦が隆を突き離す度にする、表情を。
都合の良い考えかもしれないが、それは克彦からのSOSではないかと隆は思っていた。

思いを伝えれば、さらに彼を傷つけてしまうのではないか。隆はそう思っていた。
しかし、なんとなく気がついてはいた。思いを伝えないのは、自分が嫌われたくないだけなのだと。隆は克彦と接する人としては唯一に等しかった。そこで、どこか優越感のようなものがあった。自分だけが克彦と会話をする。

今まではそれだけで良かった。

しかし、これからはそういうわけにはいかないのだ。

隆はそんなことを独り考えているうちに、駅に着いていた。

「余計なお世話かもしれないけど、多分お前らは大丈夫だよ」

直人は隆の背中を強く叩いた。
隆は驚いて隣を見ると、既に直人は自分の乗る電車のホームへ向かって歩いていた。

「直人っ!」

隆が叫ぶ。その声に直人は一度歩みを止めた。

「俺、明日言うよ。水城に。俺の気持ち」

直人は笑みをこぼすと、そのまま振り返ることなく再び歩き始めた。

直人はその後ろ姿を見送ると、自らの向かうべきホームへと歩きだした。





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