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お風呂でパニック



オムライスもトウモロコシも食べ終えて一緒にテレビを観ていると愛心が「ねぇねぇ」と言って俺を見た。


「んー」
「おふろは?」
「あ、そうだな」


メシ作るのに疲れきって忘れてたけどもう結構いい時間だし俺も風呂入りてぇ。


「ちょっと待ってろな」
「うん」


愛心にそう言って風呂場に向かう。何から何までってこんなに大変なのかよ…。日頃やらないことをやっている為かドッと疲れを感じる。
バレーならいくらやっても疲れねぇのになぁ、嫌にもなんねぇし。
風呂場に行って栓を閉め給湯ボタンを押してリビングに戻ると、愛心は綾姉ちゃんの置いていった荷物入りのバッグを漁っていた。


「こーたろー、シャンプーのない」
「シャンプーの?」
「おふろのときね、あたまにするやつ」
「?」


愛心の言ってることが全く分からず綾姉ちゃんに聞こうと母ちゃんに電話をしてみるも繋がらない。頭にするやつってなんだ?…しょうがない、こうなったら。発信履歴からある名前をタップした。


《はい》
「あ、赤葦?」
《…なんですか》
「なんでお前そんなに嫌そうなの」
《嫌というか、木兎さんからの電話で良いことあった試しが無いんで》
「失礼なやつだな!」
《それでどうしたんですか?愛心ちゃんのことですよね》


流石察しが良いですね。そう思って愛心の言う“頭にするやつ”の話をすると「シャンプーハットのことですかね?」とすぐに答えが返ってきた。


「シャンプーハット?」
《子供が髪を洗うとき、目にシャンプーやお湯が入らないようにガードするやつです》
「何それ!なんかカッコいいな」
《いや、別にカッコよくは…》
「どこで入手できんの?」
《今時どこでも買えると思いますよ。極端な話100均とかでも売ってます、多分》
「へー、じゃあ、」
《嫌です》
「まだ何も言ってねーよ!」
《なんとなく分かったんで言ったんですけど…》
「確かお前ん家近くに100均あったよな」
《聞いてます?》
「だって俺愛心連れてあんまり出かけらんねーじゃん。頼むって!」
《……》
「愛心の為と思って、な!あっ、」


隣でテレビを見ていた愛心に耳打ちをして電話を持たせる。


「けーじくん?えっと、おねがいしますってこーたろ、」
「なっ!愛心もこう言ってる事だし」
《……はぁ。分かりましたよ》
「ヘイヘーイ、それでこそ赤葦!」
《でも少し時間ください》
「おう!頼んだぜ」


電話を切って愛心に「赤葦来るぞ」と言えば「けーじくんもおふろはいるの?」と不思議そうに風呂用のオモチャが入った袋を抱えて首を傾げていた。


·


「こんばんは。はい、コレ」
「おー!これがシャンプーハットか」


すっかり陽が落ちて暗くなった頃赤葦が袋を提げてやって来た。


「けーじくんほんとにきたー!」


袋を受け取りシャンプーハットとやらと初お目見えしている俺の横を愛心が赤葦目掛けて駆けて行く。


「こんばんは愛心ちゃん」
「こんばんはー」


赤葦にすっかり懐いた愛心は抱っこを促す様に両手を広げ、赤葦もそれに応えて軽々と愛心を抱き上げる。


「愛心さ、赤葦に懐きすぎじゃない」
「?」
「木兎さんほどじゃないと思いますけど」
「そ、そうか?」
「はい」
「ならいっか!」
「……」


赤葦の言葉に気分良く、玄関に立つ赤葦をリビングにあげた。


·


「みてけーじくん、あひるさんピンクのもいるの」


風呂を追い炊きしている間愛心ちゃんはネットの袋の中に入ったあひるのオモチャを出してリビングのテーブルの上に並べ一匹ずつ名前を教えてくれる。


「沢山いるのによく覚えてるね」
「みんなにてるけど、あこみんなのおなまえおぼえてるよ」


そう言いながら、さっき“みかんちゃん”と言ったアヒルをもう一度指差して“レモンちゃん”と言っている。まぁ見た目一緒だし4歳児だからそんなところも可愛いけど、ネーミングセンスはどうなんだろう。色、だろうか…。


「お、愛心風呂あったまったぞ」
「おふろー」


追い炊き完了の合図となるブザーが鳴って木兎さんがそう言うと、愛心ちゃんはネットの中にアヒルを戻し始めた。


「じゃあ俺そろそろ帰るんで」
「そうか?」
「けーじくんかえっちゃうの?」
「また明日ね」
「うん」


見上げてくる愛心ちゃんの頭を撫でて二人に玄関まで見送ってもらった。扉を閉めた木兎さん達を見届けて、使いっ走りさせられたものの思ったより何もなかったことに安堵しながら少し歩いた時だった。


「あかーしーーっ!!」
「!!?」


閑散とする夜の住宅街に自分の名前が響いてビクッとしつつも慌てて振り返ると、あろうことかパンツ姿の木兎さんが玄関の扉を開けて叫んでいるではないか。
何やってんだあの人!!


「アンタもうちょっと時間帯と場所考えて行動してくださいよ!」


急いで木兎さんの家まで戻って、その場で話し始めようとする木兎さんを玄関内に引きずり込み扉を閉めてからそう言うと「それどころじゃないだって!」と俺の注意なんて御構い無しに被せ気味で話し始めた。


「…何がですか」
「子供の風呂の入れ方が分からん」
「はい?」
「だから!愛心をどう風呂に入れたらいいかわかんねーの!」


何を今更。大体どんなつもりで今までお風呂の準備をしていたんだ。


「確かお前妹いたろ、風呂とか一緒に入ったことあるだろ?」
「そりゃ小さい時はありますけど、子供だって大人とそう変わりませんから。髪と身体洗って浴槽に浸かるだけですよ」
「けどなんか小さくてこえーもん」
「木兎さんに洗われる愛心ちゃんの方がよっぽど怖いですって」
「だから手伝って!」
「は?」


俺の返事を聞く間も無く無理矢理風呂場まで引き摺られて行くと、そこには洋服を全て脱いでオモチャを抱えた愛心ちゃんがマットの上で足踏みしながら待っていた


「ぎゃぁぁあ、なんて格好してんの愛心!」


咄嗟にバスタオルで愛心ちゃんを包み顔を逸らす木兎さんを見ながら「こーたろーはやくー」と言う愛心ちゃん。


「何言ってんですか、お風呂入るんだから服脱がなきゃでしょ」
「そうだけど、そうなんだけどっ!」
「あと、見てて変態っぽいんで本当やめてください」
「ちょっと!?」
「それに早くしてあげないと愛心ちゃん風邪ひきますよ」


そう言うと「それはいかん」と我に返って漸く現実と向かいあった木兎さん。


ー5分後ー


「ちゃぷちゃぷー」
「……」
「……」
「こっちもちゃぷちゃぷー」
「……」
「…木兎さん」
「ん?」
「これ何なんですか」


俺と木兎さんは二人並んで浴槽の中でアヒルのオモチャで遊ぶ愛心ちゃんを見ているという状況にある。勿論俺は服を着ているし木兎さんはパンツ姿のままだ。


「一緒に入るのはまだ難易度が…」
「そんな言葉よく知ってましたね」
「お前今日やけにあたりキツくない?」
「いつも通りです」
「ねぇねぇ、こーたろーもけーじくんもなんでおふろはいらないの?」


浴槽の淵に手を付いて俺たちを交互に見る愛心ちゃん。


「俺はもう入ってきたんだよ」
「けーじくんのおうちで?」
「うん」
「そっか。じゃあこーたろーは?」
「お、俺はあれだ、勉強中!」
「べんきょー?」
「……」
「風呂の入れ方をな」
「ふーん」


よく分からないだろう愛心ちゃんはそのまま木兎さんの言葉を流して「しゃんぷーする」と浴槽から出る仕草を見せた。


「ほら木兎さん、勉強するんでしょ」
「お、おう…」


愛心ちゃんを抱き上げて椅子の上に座らせると俺の買ってきたシャンプーハットを手に固まる木兎さん。


「ねぇ、これどうやって着けんの?」
「最初に少し髪濡らしてあげた方が着けやすいんで、一回シャワーで流してあげてください」


俺の言葉にシャワーを捻った木兎さんは思いっきり真上からそれをかけようとした。


「ストップ、ストップ!」
「なに、ダメ?」
「当たり前じゃないですか、ビックリしますよ!」


心底見ててよかったと思う。別に俺だってこんなこと詳しくはないけど、木兎さん一人に任せてたら愛心ちゃんの身が危険だったということだけはよく分かった。


「あわモコモコ?」
「おう!すっげーモコモコだぞ、ソフトクリームにしてやるぜ!」


無事シャンプーハットをしてシャンプーをするに至った愛心ちゃんの髪で遊んでいる木兎さんに「遊んでないで早く流してあげてください」と言うと「ヘイヘイ」と言いながら覚束ない手つきでなんとか第一段階をクリアした。


「次は身体洗ってあげるだけですからできますよね」
「あらってー」
「へ?」


ボディーソープを付けて泡立てたタオルを渡すと、愛心ちゃんも万歳して洗ってもらうのを待っている。が、そんな中木兎さんはまたビシッと固まったまま。


「木兎さん?」
「……無理…」
「は?」
「?」
「俺には洗えないっ!!」


そう叫ぶとあろうことか手にしていた泡だらけのタオルで顔を覆った。


「ぎゃーーーっ!!!」
「ちょっと何やってんですか!」
「目が、目が死ぬーっ」
「急いで顔洗ってください。それで邪魔なんでもう外出ててください!」


一人でパニクって騒動を起こす木兎さんに洗面台で顔を洗っておくように言って、浴室から追い出した。


「はぁ…」
「こーたろーだいじょうぶかな?」
「大丈夫だよ。つーかあの人一体何なんだ」
「けーじくんおこってる?」


身体を洗ってあげていると少し不安そうな表情でそう訊ねられ、いけないいけない。と思い直す。


「怒ってないよ。それに木兎さんはいつもあんなんだから慣れてる」
「そっかー。けーじくんはこーたろーといつもいっしょなんだ」
「…まぁ、一緒の時間は長いかな」
「いいなー」


そう言って座っていた椅子の上で足をパタパタとしている愛心ちゃん。あんな木兎さんでも本当に好きなんだな。


「あかーしー、まだー?」


浴室の扉の外で小さくなって座っている木兎さんの姿がシルエットで分かる。


「もう終わります。タオル準備してて下さい」
「了解!」

「愛心ちゃん」
「なーに?」
「木兎さんのこと好き?」


身体の泡を流してあげながら聞くと両手を目一杯広げて「だーいすき!」と満面の笑顔付きで返ってくる。ああ、これは木兎さんもすっかり堕ちるわけだ。


「けーじくんは?」
「え?」
「けーじくんはこーたろーすき?」
「えっ、ああ…うん。手はかかるけどね」


まさかの質問返しには驚いたけど、外の木兎さんに聞こえないように小さな声でそう返した。



「赤葦カモン!」
「はいはい」
「こーたろー」
「うわっちょっと待て愛心、俺が濡れる!」
「いいじゃないですか別に、今から入るんですよね?」
「そうだけど」
「木兎さん上がってくるまで愛心ちゃん見てるんで早く入ってきてください」
「マジ!?助かる!」


そう言ってその場でパンツを脱ぎだす木兎さんから愛心ちゃんを遠ざけるように、俺は愛心ちゃんを抱えてリビングへ向かうのだった。