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ハート、いただきました



午後にやって来た監督は愛心を目の前にして“大人”ってやつを発揮していた。何というか流石の対応、小さい子供の扱いに慣れている。その安心感からか愛心もすぐに懐き午前の練習中はずっとマネにボールから護られていたが、午後は終始監督に抱っこされた状態で練習を見ていた。
無論、監督も愛心にデレデレになっていてそれだけがなんとなく納得できないというかなんというか…。



「木兎」
「ハイ」
「明日音駒と練習試合ってお前覚えてるか?」
「!」
「だよな、うん。こんな状況だしそんな気はしてたわ」
「ス、スンマセン…」
「まあ愛心ちゃんの事はしょうがないから良いけど、向こうの主将にくらい言っとけよ連絡先知ってんだろ」
「ウッス」
「猫又先生には俺から言っとく」
「お願いします!」
「ん、上がってよし」
「お疲れ様です」
「せんせーバイバイ」
「バイバイ、愛心ちゃんまた明日な」


朝から愛心の事で頭がいっぱいで監督に言われるまですっかり忘れていたが、明日は黒尾んとこと練習試合だった。



·



「よーし、帰るか愛心」
「うん」


午後の練習を終えいつもの様に自主練をしようとしたが、部員ならびに監督より愛心の居る間は自主練せずに帰れと言われ早々に帰宅することとなった。


「木兎、夕飯はどうするつもりだ?」
「あ、そうだ。俺ほとんど何も作れねぇけどどうしよう」
「大丈夫かよお前。いや心配なのは愛心ちゃんだけど」
「外で食べた方がいいんじゃね?」


誰よりも心配そうな顔をする鷲尾にそう言われ、よく考えれば今日も明日も愛心と2人だということを思い出す。


「こーたろーごはんつくるの?」


部室のイスの上でぬいぐるみを抱っこしながら俺の着替えを待っていた愛心が話を聞いていたのか訊ねてきた。


「愛心は俺に作ってほしいか?」
((やめとけ愛心ちゃん!))
「うん!あここーたろーのごはんたべたい」
「ヨーシヨシヨシッ!そこまで言うなら俺が作ってやるぞー!」
「やったー」
((ああ……))


愛心を高々と抱っこして笑い合う俺たちとは対照的に後ろの部員たちは不安そうな目つきで俺を見ている。


「なんだよ」
「いや、愛心ちゃんが心配で俺寝れねぇよ」
「病院送りだけはやめろよな、マジで」
「お前ら失礼だな!」
「美味しくなかったら食べなくていいからね」
「赤葦、それどういう意味」
「そのままの意味ですけど…」
「クッソー、お前ら見てろよ!」


明日愛心に今日の晩メシの感想を言わせて驚かせてやろうと心に決め俺は愛心と一緒に部室を出た。



·
·



「愛心好きな食べ物なんかある?」
「あこね、おむらいすがすき」
「オムライスうめぇよな!」
「うん!」


俺の腕の中で、抱えていたぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめて笑う愛心を見て頬が緩む。
あー本当可愛い。晩メシ作るのとか正直面倒だけど頑張れそうだこれ。
そう思いながら母ちゃんの荷物持ちでしか訪れたことのない近所のスーパーへ愛心と一緒に足を運んだ。


「……なぁ愛心」
「うん?」
「オムライスってどうやって作んの?何でできてんだっけ?」


意気揚々とやって来たのは良いが、オムライスの構造がよく分からん。食べているところを想像しても米に卵がかかってるのしか浮かばねぇし。


「あこわかんない」
「ですよね…」


あれだけ啖呵きっといて赤葦たちに聞くのも負けたみたいで嫌だしな。


「あ、こーたろー」
「ん?」
「あこわかったよ」
「おっなになに?」
「あのね、ママのつくるのはいつもとーもこーしはいってる」
「とーもこーし?ん?なんだ?」
「とーもこーしだよ、きいろいの。あまいんだよ!」


子供用のカートに乗せた愛心が目の前で「このくらいでね?」とジェスチャーをしながら説明する。
とーもこーし、とーもこ…トウモロコシ!


「トウモロコシか!」
「うん」


やっぱ俺天才!意思疎通バッチリじゃん。
上機嫌で「トウモロコシ確保だー!」と叫びながら駆け足にカートを押していると「危険ですのでカートを押したまま走らないで下さいね」と店員に言われ、楽しんでいた愛心と一緒にしょんぼりしながら野菜売り場を目指した。


·


スマホで材料を調べて大体の物を揃え帰宅した俺たちは今キッチンにいる。


「よし、じゃあ作るぞ!」
「あこみてる」
「おう、よーく目に焼き付けとけよ!」
「うん」



ー10分後ー



「んー、みじん切りってどうやったらこんなになんの?包丁二刀流?つーか炒める順番ってそんな大事なのか?それに玉ねぎってこっちは炒めてんのにこっちはレンチンじゃん!」


あれこれと作り方のサイトを見たのが良くなかったのか、オムライス一つとっても作り方は一つではなく既に頭は混乱状態。ダイニングテーブルのイスに座っていた愛心は「おやさいトントンしないの?」と俺を急かしにかかる。


「んー」
「こーたろー?」


悩み続ける俺に愛心が痺れを切らし始めた頃、握っていたスマホに着信が入った。表示された名前は【母ちゃん】、助かった!


「もしもし!」
《光太郎、どう?仲良くやってる?》
「あれ、綾姉ちゃんか。仲良くってのは心配ないぜ、超仲良しだって」
《そう、それなら良かったわ。愛心何してる?》
「隣で見てるけど、代わる?」
《うん、ちょっとお願い》


イスの上で「だーれ?」と連呼していた愛心に「ママから」と言ってスマホを握らせると大きすぎるそれをぴったりと耳から頬につけて「ママー?」と話し始めた。
隣で聞いていると昼間の部活中の事やら覚えたての部員の名前なんかを丁寧に説明していて聞きながら笑えてくる。そして今俺がメシを作っていると言う事を言った途端「かわってって」と言ってスマホを俺に戻してきた。


「もういいの?」
《光太郎、あんたがご飯作るの?》
「そうだけど」
《頼むから変なのもの食べさせないでよ?》


心底不安そうな声がスマホ越しでもわかる。


「大丈夫だっつの!つーか、その為に作り方教えて。なるべく簡単なやつ」
《えっ、そこからなの!?》


綾姉ちゃんからオムライスの作り方を伝授されている途中、イスの上に立って電話を代わりたそうにしている愛心を見ると丁度腰あたりに抱きついてきた。


「こーたろー、あこも」
「待って待って」


言いながら頭を撫でてやれば、掴まれた服を握る手に少し力が込められた。


「綾姉ちゃんどうしよう。愛心可愛すぎんだけど…」
《そりゃどうも。で、話はちゃんと聞いてたんでしょうね?》
「余裕だって!あ、そう言えばトウモロコシってどこで入れんの?愛心が入ってるっていうから買ったけど」
《野菜とか炒める時の一番最後でいいよ》
「え、それって火通る?」
《は?トウモロコシなんてすぐよ》
「マジで?こんなにデケェのにすぐなんだな」
《……ねぇ光太郎、あんたどんなトウモロコシ買った?》
「どんなって、皮ついてるやつ」
《……》


質問に答えた俺に無言の綾姉ちゃん。そして傍にいるであろう母ちゃんに「やっぱ光太郎ダメだわー」と言っている声が漏れ聞こえてきた。


「ちょっと、聞こえてんですけど?!」



ー1時間後ー



「おなかーとせなかーが、くっつくぞー」


見るのに飽き途中からテレビの前で遊んでいた愛心が空腹から変な歌を歌い始めた頃、俺的オムライスは完成した。


「で、出来た…!」


まぁ見た目はアレだけど、味は大丈夫だろ。つーかオムライスなんてほぼケチャップ味だしな!


「愛心出来たぞー」
「おむらいす?」
「おう、オムライスだ!」


ぬいぐるみをソファに置いてイスによじ登ってきた愛心は皿の上を見てキョトンとしている。


「たまごきいろいトロトロじゃないね、ちょっとちゃいろ」
「愛心、俺にクオリティとか求めんな?」
「くおり…?」
「食べたら美味いからな!…多分」


悲しそうな顔はしないものの不思議そうな表情で俺の作ったオムライスを見る愛心にドキドキする、不味いって言われたらどうしよう…。


「こーたろーケチャップかして」
「そうだな、ホイ」


ケチャップを要求されて本体ごと渡すと「こーたろーのはあこがかくね」と、俺の分に何か書き始めた。


「何書くんだ?」
「ハーーート」


言いながらちょっといびつな形のハートが、これまたいびつなオムライスに描かれた。


「すきなひとにはハートかくんだよ、ってママがいってた。いつもパパのにもかくの」
「じゃあ愛心は俺が好きってことか!」
「うんっだーいすき!」
「!!」


愛心の笑顔に堪らずテーブルに突っ伏す。


「こーたろー?」
「あー、こーたろーやられそうだわー」
「?」


チラッと視線を向けるとケチャップを抱えたまま首を傾げて俺を見る愛心は何のことだかわからないといった感じ。これは大きくなったら心配だ…って、アレ、なんか俺親目線になってね?


「よし、気ぃ取り直して食うか!」
「あこのもかいてー」
「よーし、貸してみ」


そう言って愛心のオムライスにも同じようにハートを書いてやると、嬉しそうに口角を上げてにこにこと笑っている。


「「いっただっきまーす」」


二人で合掌し一口目を頬張った愛心に「どうですか?」と聞くと「うーんケチャップの味!」と笑顔で言われた。


「それって美味いってこと?」
「うん、とーもこーしはいってないけどおいしい」
「あ!それな、」


別皿に入れた茹でたトウモロコシをテーブルに置くと愛心が「おっきいやつだ!」と嬉しそうに指さした。


「こっちでも好き?」
「うん、リスさんみたいにたべるよね」
「確かに!じゃあオムライス食べたら食べような」
「はーい」


元気よく返事をしてスプーンを握り直し俺の作った一応オムライスを頬張る愛心を見ながら、その後ろの流し台からは目を逸らして俺もオムライスを食べるのだった。帰ってきたら母ちゃん怒るだろうな… 。
…あー、うん。ケチャップの味しかしねー。