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俺だけの?子うさぎちゃん



「はい、このはくん」
「おっ、ありがとう」
「こみやんもどーぞ」
「ありがとな愛心ちゃん。よし、ナデナデしたるっ!」


小見に頭を撫でられ口角を上げながらにこにこ顏の愛心を横目で見る。
今日は休憩の度にマネに変わって数人ずつだが愛心がボトルを渡しにやって来る。ボトルは両手で一つ抱えるのがやっとで、落とさない様慎重に運ぶため手元に届くまでに時間はかかるが、それでもいつもと違う小さなマネージャーの存在に皆兄のような眼差しを向けていた。
そう、それはいい。全然いい。ただ俺には1つだけ解せないことがある!


「愛心、俺にもちょーだい」
「こーたろーはさっきあげたから、つぎはおながくんのばん」
「尾長ッ!」
「す、すみません」
「八つ当たりとか見苦しいですよ」
「木兎フラれてやんのー」
「うるせー赤葦!猿!」


最初の休憩で一番初めにボトルを持ってきてくれたのは嬉しかったが次がやって来ない。どうやら愛心は部員全員に持って行きたいらしくなかなか2巡目にならないのだ。しかも持って行くたびに部員たちが構い倒してくれるものだから休憩毎に配れる人数はごく少数。


「ダァァァアッ!もうお前ら愛心と遊ぶの禁止、なでなでも禁止ーッ!!」
「なんで木兎が決めんだよ」
「そうだ、そうだー」


今まさに愛心の頭を撫でている小見から愛心をヒョイっと奪い返す。


「俺のいとこだからいいんだよ!」
「木兎さん、あんまり独占欲強いと嫌われますよ」
「愛心は俺のこと嫌ったりしねぇの」


いつもの表情でツッコミを入れてくる赤葦に舌を出して言えば、ほんの少し目つきが鋭くなった。


「こーたろー」
「ん?」


咄嗟に抱え上げた為に脇の下を持たれ宙に浮いたままの愛心はぱたぱたと足を動かしている。


「あこおりる」
「え、でも…」
「おりるー!」


より一層足を動かして身を捩られ、しょうがなく床に降ろすとすぐにマネの元まで走って行きボトルを受け取ってこっちに戻って来た。きっと俺にだな、うんうん。そう思って感激していたのも束の間。


「あかーしーくん、どーぞ」
「俺でいいの?」


チラッと俺を見た赤葦がそう訊ねたが愛心は笑顔で頷いた。


「うん!どーぞ」
「ありがとう、愛心ちゃん」
「な、なんでだぁぁぁあ、くそっ…赤葦のバカヤロー!」


そう叫んで外へと続く扉へ駆けていく俺に後ろから愛心と赤葦の声が聞こえた。


「こーたろーどうしたの?」
「気にしなくていいよ、拗ねてるだけだから」



·
·



面倒くさいとこになる予感はしていた。
愛心ちゃんに構ってもらえないと拗ねた木兎さんはその後の練習メニューをやはり、と言わんばかりに鬼畜メニューへと変更してきた。
これはさすがにヤバイと思った俺たちは、次の休憩で木兎さんへボトルを持って行くよう愛心ちゃんにお願いして機嫌を取り、なんとか午前のメニューを無事に終えることが出来た。


「よーし、じゃあ昼休憩13:00までな」
「「ウィーッス」」

「木兎さん、愛心ちゃんご飯どうするんですか?」
「コンビニ行く。俺も何も持ってきてねーもん」
「赤葦も行くか?」
「いや俺今日弁当あるんで」
「あ、俺も行くわ」
「俺もー」


汗を拭いてジャージを羽織った先輩たちがわらわらと集まってくる。


「よっ、と。愛心ちゃんは何食べんの?」


木兎さんの横におとなしく立っていた愛心ちゃんを不意に木葉さんが抱き上げ、大きく上下に揺さぶり始めた。よくある高い高いというやつだ。しかも結構激しいタイプの。


「チョット!?何やってんの木葉!」
「いいじゃん少しくらい、ねー愛心ちゃん」


始めこそ驚きからか声も出さずに表情を強張らせていた愛心ちゃんだったが、次第に「たかーい!」と言って笑い始めた。


「イェーイ」
「きゃはははっ」


一緒になって声を上げる木葉さんが今度は自分を軸にぐるんぐるんと愛心ちゃんを回し始めると「危ないから止めてッ!!」と木兎さんがあたふたしている。


「木葉さんも木兎さんも早くしないと休憩の時間無くなりますよ」
「あ、そうだな。よし、コンビニ行こうぜ」
「お前が始めたんだろうが!」
「このはくん、もうおしまい?」
「また後でね」
「危ないから、愛心も楽しくなるのやめて…」


愛心ちゃんはそのまま木葉さんに抱かれて後ろで肩を落とす木兎さんを不思議そうな顔で見ていた。完全に愛心ちゃんに翻弄されている先輩たちを見ながらも俺が今思うことはただ一つ。


「あの人達ちゃんとバランス取れた食べ物買ってあげられるんですかね」
「心配だな」
「はい」


弁当組として残った鷲尾さんと肩を並べてその後ろ姿を見送った。