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はじめてがイッパイ




まさかの3日間の子守通告を受けてから1時間後。部活に向かう為準備を整え愛心を連れて玄関で靴を履く。


「愛心も靴履けよ」
「うん」


見慣れない小さな靴が玄関にあって、その前に座り一生懸命それを履いている愛心….…が、すげぇ遅い。そして左右逆。元々早く行って練習するつもりだったし時間はギリギリってわけじゃないが何となく見ていて焦る。


「んー愛心、俺履かせてもいい?」
「あこじぶんでできる」
「…そう?」
「うん」


えっと、こういう時は何て言って、どう対応したら良いんだ?下手に手ぇ出したら泣かれたりすんのかな…。
扱いの分からない幼児相手に言葉を返せず結局愛心が自分で履き終えるのを見届けた。


「よーし、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ」


誰も居ない家の鍵をかけて歩き出す俺のジャージをすぐに愛心が引っ張った。


「こーたろー」
「?」
「おてては?」
「おてて?」
「おててつながないの?」


不安そうな顔をして見上げてくる愛心を見て、確かに子供ってみんな親と手繋いでるよな、と思い出す。


「じゃあ繋ぐか」
「うん」


そう言って手を差し出したは良いもののこの身長差。繋いで歩くのは無理だった。


「とどかないよ?」


一生懸命手を伸ばすもギリギリ届かず、そう言って今にも泣きそうになる愛心に慌てる。


「あ!じゃああれだ、抱っこは?抱っこ!」


その言葉に今度はパァッと表情を輝かせて「抱っこがいい!」と両手を広げてきた。
セーフ。そして何、可愛いな今の…。
初の抱っこに緊張しつつも脇を抱えて抱き上げると、愛心の方が抱かれ慣れているのか片腕で抱えていてスッと収まるポジションに自ら落ち着き、ジャージの胸元をぎゅっと掴んだ。


「じゃあ気を取り直して出発な!」
「しゅっぱーつ」


嬉しそうに笑いながら「高いねー」と辺りをキョロキョロ見たり、セット仕立ての俺の髪の毛先を弄って遊んでいる。


「愛心、あんまりつんつんしないで!それキメてるから」
「つんつん」
「うん、聞いてないのね…」


相手が相手なだけに怒ることも出来きない。そこから先も駅に着いて切符を買えば実は子供料金はまだいらないとか、電車の中でトイレ行きたいなどその他諸々で学校に着くまでに通常の2倍程時間と労力とを使うこととなった。



·
·



「…つ、着いたぜ」
「こーたろーのがっこう?」
「おうよ」


ゼェハァ言いながら愛心を抱っこして既にボールの音が響いている体育館の入り口に向かう。殆ど来てんだろうしちょっと預けて部室行くか、そう思って歩いていると後ろから叫び声が響いた。


「ちょっと木兎、あんた何やってんの!?」
「人攫いがいる!」


振り返ると我が部のマネ2人がボトルの入った籠を持って俺を指差している。


「はぁ?何だよ」
「何ってその子!」
「どうしたんですか」


叫び声が聞こえたのか部員達も赤葦を先頭にぞろぞろと体育館から顔を出し、直後表情を一変させる。


「!」
「木兎!?って、赤葦ショックで声出てない!!」
「遅いと思ったら何やってんのお前」
「マジじゃん、人攫い」
「ついに警察沙汰…」


次々と好き勝手言う部員達に「こっちの話を聞いてから言えよ!」と怒鳴るとその場が一瞬シーンと静まり返って、その後すぐ傍から グズッ、と鼻を啜る音がした。


「え、」
「おこっちゃやだぁ…っうわぁぁぁぁあん!」


学校にはあまりにも不釣り合いな泣き声にその場の全員がビクリと跳ね上がる。


「バカヤロー、お前らのせいで泣いちゃっただろ!」
((いや、今のはお前の声にビビったんだよ))


ここで騒ぎを起こせば困るのは連帯責任でこの場の全員だ。わんわん泣き続ける愛心がどうすれば泣き止むのか分からずわたわたしていると、漸く落ち着きを取り戻した赤葦が体育館を指差して言葉を発した。


「とりあえず、中入りましょう」


愛心以外の全員が無言で頷いて体育館へと急いだ。