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うさぎとフクロウ



ちょっと待って、本当に待って!
うさぎと猫がどうだとか、ぬいぐるみ貸してあげるとかそんな話をしながら愛心ちゃんと歩いていたのが少し前。そんなおれと愛心ちゃんが今歩いているのは薄暗くなった街の通りではなく、配色がカラフルすぎて眩しくなるような陳列棚の並ぶ店の中。


「ねぇ愛心ちゃん、どこ行くの?」
「こーたろーがあったの」
「え…木兎さんなら外だよ、」
「ちがう、ぬいぐるみのこーたろー」
「ぬいぐるみ?」


もう何言ってるか分からない…。振りほどく事は簡単に出来るけどそうする訳にも行かずぎゅうっと握られた手を引かれるがまま愛心ちゃんについて行く事しかできなかった。



·



「ここだよな」
「多分そうです」
「研磨生きてっかな…」


木兎と赤葦と騒ぎながら歩いていると後方から研磨の助けを求める声が響いた。そして直後、その姿は先を行く愛心ちゃんと共にとある店の中へと消えて行ったのだ。


「「「……」」」


進んでいた距離を少し戻りその店の前に立つ180オーバーの男子高校生3人。まあ無言になってもおかしくはないだろう。


「木兎さん行ってきてくださいよ」
「俺!?」
「そうだ、愛心ちゃんがこの中にいる」
「それ言ったら幼馴染の孤爪君もだろ。お前に助けてって言ってました!俺にはそう聞こえましたー!」
「2人共少し声のボリュー、」


赤葦が咎めの言葉を言い切る前に店の自動ドアが開き、派手なショップバッグを提げた学生らしき女子2人組が出てきて、俺たちを見るなり怪しいものを見る視線を向けながら歩いて行く。


「完全に場違いだろ」
「外観も中も眩しい…」
「で、どうすんですか?」


そう、愛心ちゃんと研磨が入って行ったのは女子中高生が好んで行きそうな派手な外観の雑貨屋だった。彼女と、と言うシチュエーションならまだしも、まず今の俺達の様なガタイのいい男3人組では余程の事がない限り入る機会などないであろう店だ。


「まず男入れんのこの店?」
「入れはしますよ、入りたくはないですけど」
「あ、意外と孤爪君だけでも大丈夫なんじゃねーの?あっちには愛心がいる訳だし違和感はないよな?」
「「確かに」」


木兎の発言にノッた瞬間ポケットに入れていた携帯からバイブ音がして、届いたメールを見るとやはりそう都合良くはない様だった。


「ん、」
【早く来て】
「やっぱそうですよね」
「まあ何が目的で愛心ちゃんが孤爪をここへ引っ張って行ったかは知りませんけど、早いとこ用を済ませてここから離脱しませんか?さっきから視線が痛いんで」


1組2組と出てくる客が不思議そうに俺たちを見てくるのだから赤葦の言う通りさっさと済ませた方がいい。


「じゃあ行きますよ」
「「おう」」





店内に入ると予想通り周りの目を引いたのは言うまでもなく、嫌という程女子から視線を投げつけられる。


「え、あの人達3人で来たのかな?」
「背たかぁい」
「うそ、男だけなの?」
「高校生だよね?」
「ねぇねぇ、あの右の人カッコ良くない?」
「私は真ん中の人が良い〜」


聞こえてくる声は非難的なものばかりでは無いのが唯一の救いか。


「黒尾さん、こんな時に女の子物色しないでくださいね」
「おい!どういう事だ赤葦。ってかお前の俺に対するイメージどうなってんだよ」
「イメージだけで言ったら物色しそうなイメージです。木兎さんは愛心ちゃんの事しか今頭にないと思いますし」
「失礼だな!」
「すみません、以後気を付けます」
「まずイメージ修正しとけよ」
「くっそー、どこだよ愛心」


俺と赤葦のやりとりには目もくれず、木兎はキョロキョロと愛心ちゃんを捜している。


「お客様、何かお探しですか?」


あまりに目を引いたのか1人の店員が声を掛けてきた。


「いとこを!」
「え、いとこさん…へのプレゼントか何かですか?」
「いえ、4歳くらいの女の子がこの店の中にいるはずで、その子を捜してるんです。ちょっとはぐれてしまって」


言葉の足りない木兎を呆れたように見ながら赤葦が補足説明をする。


「あと金髪でプリンヘッドの高校生も一緒にいるはずなんですよ」
「4歳の女の子と金髪の高校生、ですか…」


要点のみを言われると何とも言えない2ショットだな。まあ事実なんだが。


「とりあえず一周歩き回ってみます」
「そうですか?」
「はい。目立つんで割とすぐ見つかると思いますし」
「分かりました。じゃあこちらもお見かけしたらお連れ様がお捜しになっていたことを伝えておきますね」
「お願いします」


俺と赤葦が店員と話している間も落ち着きなく辺りをうろつく木兎の後を追って愛心ちゃんと研磨捜しを再開した。



·



「あ!!いたっ!」

とある陳列棚の前を数人の女子が塞いでいたがこっちは高身長。俺たちは容易にその奥に蹲る愛心ちゃんとその隣で困った様に座り込む孤爪の姿を見つけた。


「ちょっとごめんね」
「わっ!」
「っと、すみません」
「い、いえっ!!」


愛心ちゃんの姿を見付けてズンズン進んでいく木兎さんの肩に触れた女の子の1人がよろけたので咄嗟に肩を支え、謝罪の言葉と一緒に直ぐに離れた。悪いのは周りを見ていない木兎さんでその子は何も悪くないと言うのに、ペコペコと頭を下げなら周りの友達と何やら高めのテンションで話しつつその場を離れて行った。


「やだぁ、赤葦ってばいやらしい〜」
「は?」
「見ず知らずの女子の肩抱くなんて」


さっきの仕返しなのか面倒くさいテンションで絡んでくる黒尾さんを無言で睨み木兎さんの後を追う。


「おい、ねぇ無視やめて!」


何だかんだ木兎さんと黒尾さんって似てる部分あるよな…。


「愛心!」
「…こーたろー」


蹲って座っていた愛心ちゃんは木兎さんの声で少しだけ顔を上げた。


「もー、何やってんだよ。急に居なくなったらダメだろ?」


愛心ちゃんの姿を見て安心したのか、木兎さんもその前に屈んで愛心ちゃんの頭に手を乗せる。


「よっ、お疲れ」
「…来るの遅い」
「入店に勇気振り絞ったんだよ」
「振り絞るヒマがあっただけいいよね」


酷く居心地悪そうに眉間に皺を寄せる孤爪を見て黒尾さんは笑っている。


「ほら、帰るぞ」


そう言って木兎さんが愛心ちゃんの腕を突ついた時だった。


「やだっ!」


愛心ちゃんの口から発せられた拒否の声に孤爪を除く俺たちはピタりと動きを止めて、相変わらず身を丸くして蹲ったままの愛心ちゃんに視線を向ける。


「えっ愛心…?」
「何、どうしたよ愛心ちゃん?」
「さっきからずっとこう」


黒尾さんの問い掛けに孤爪は疲れたようにそう返す。


「愛心ー?どうしたんだよ」


突然の反応に恐る恐るそう声を掛ける木兎さん。その姿を見守っていると蹲った愛心ちゃんの腕の隙間から何かが見えた。


「あれ、愛心ちゃん何か持ってる?」
「うん、ぬいぐるみ」
「あのうさぎか?」


そう言う黒尾さんに、それはここ。と言って孤爪のエナメルバッグから愛心ちゃんお気に入りのうさぎのぬいぐるみが顔を出していた。


「じゃあ愛心ちゃんが持ってるのって…?」
「なぁ愛心、何持ってんの?」
「……」
「愛心ー?」
「……」
「怒らないから見せてみ?」


側から見てこの光景はどうなんだろうか。幼児に群がるガタイのいい男子高校生。


「…あこ、」
「ん?」
「これほしーんだもん」
「え?」


ぽつりとそう言った愛心ちゃんはゆっくりと丸めた身体を元に戻して、抱き締めていたそのぬいぐるみを木兎さんに見せた。正直そのぬいぐるみを見た瞬間に何でそのセレクトなのかは予想がついた。


「愛心、なんでこれ欲しいの?」


勿論木兎さんも分かったのだろう。どこか嬉しそうに愛心ちゃんにそう訊ねる。


「こーたろーににてるから」


買ってもらえないのを察してか頬を膨らませながら離したくないと物語る表情はまさに子供特有のものだと思う。


「木兎さん、顔」
「うるせぇ」
「ショーウィンドウのディスプレイでこれ見て、ここで実物手にしてからずっと離さなかったんだよ」
「愛心ちゃんってどんだけ木兎好きなのよ」


呆れ笑いを零す黒尾さんを見て「いっぱいすき」と答えた愛心ちゃんに木兎さんは幸せそうだ。


「よし、じゃあ買ってやるか!」
「「「えっ」」」


木兎さんの太っ腹な言葉にパァッと表情を明るくした愛心ちゃんは「ほんとー!?」と大きな声を上げながら木兎さんを見上げる。


「おう!」
「やったー!」


手に持ったフクロウのぬいぐるみごと目の前の木兎さんに抱き着く愛心ちゃんは本当に嬉しそうだった。



·



お気に入りのうさぎのぬいぐるみを右腕に、今木兎さんに買ってもらったばかりのフクロウのぬいぐるみを左腕に抱いて木兎さんに抱っこされている愛心ちゃんはにこにことその2つを眺めている。


「良かったね愛心ちゃん」
「うん!」


2つのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめて満面の笑みを向ける愛心ちゃんにつられてこっちも笑顔になった。
レジを通してくれたのは入店時に声を掛けてくれた店員の人で、すぐに持って歩きたいと言う愛心ちゃんの希望によりタグを切ってくれたのだが、一応軽い取り扱いが書かれているからとその小さなタグを渡された。
そのタグにはこのぬいぐるみのシリーズ名と共に“フクロウ(ミミズク)”と記載されていて、隣の木兎さんを見ながら納得する。やっぱり愛心ちゃんにもこんな風に見えてるんだ。


「何だよ赤葦」
「いえ、確かに似てると思って」
「そんなに?」
「髪型とかですよね多分」
「うーん」


木兎さんが愛心ちゃんの腕の中のフクロウのぬいぐるみを見ながら唸ると、顔を上げた愛心ちゃんは「にてる!」と木兎さんの目の前にぬいぐるみを突き出した。


「まあ愛心がそう言うならそうなんだろ」
「全ては愛心ちゃん次第かよお前」
「いいんだよそれで」
「ま、可能なら明日のお前を俺は見たいわ」


おそらく黒尾さんの言葉の意味は木兎さんと愛心ちゃんの“別れ”を指している。勿論木兎さんもそれは分かった様だが愛心ちゃんの手前特に突っ込むこともしなかった。だが、まさかのまさか、当の本人が口を開いた。


「あしたになったらママがかえってくるから、そしたらあこおうちにかえらなきゃなの。ね、こーたろー」
「え、あー、…そうだな」


愛心ちゃんの言葉に驚きの表情を見せる木兎さん。もしかしたら愛心ちゃんの方が何倍も状況を理解し明日別れる事を考えているのかもしれない。


「あこパパにもママにもあいたいけど、こーたろーとバイバイするのさびしいの。だからこの“こーたろー”ずっともってるね」


そう言ってもう一度フクロウのぬいぐるみを抱き締める。


「え、それの名前“こーたろー”?」
「うん!こーたろーににてるからこーたろー」
「ぬいぐるみと一緒だってよ」
「待って愛心、それだと俺呼ぶ時分かんなくなんねぇ?ちょっとだけ名前変えない?」
「うーん、でもこーたろーってつけたい」
「ううっ、」


確かに全く同じ名前は少し紛らわしいなもしれない。


「じゃあ“2号”でいいんじゃない?」
「にごう?」
「そう、“こーたろー2号”」
「こーたろーにごー!」


俺の提案は愛心ちゃんの合格ラインだったようで、あっさりとそれが採用された。


「2号って何だよ」
「変ですか?愛心ちゃんの希望も叶うわけだしシンプルで良いじゃないですか」
「ネーミングセンス良いなお前」
(…クロ馬鹿にしてる)


そうやって騒ぎながら歩く俺たち。正確には殆ど木兎さんと黒尾さん、を他所に木兎さんの腕の中の愛心ちゃんは嬉しそうに2号を見て抱きしめ直すのであった。



「こーたろーもにごーも、あこだいすきっ」