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子うさぎちゃんとアフター5



夕方まで続いた練習試合も終了し両校慣れた手つきで片付けを済ませる中、愛心は疲れ果ててステージの上でうさぎのぬいぐるみを抱き締めて眠っていた。


「黒尾ー」
「なんだよ」
「今日ってこの後なんか用事あんの?」
「いや、今日は別にねぇよ。解散もここでしようと思ってるしな」


音駒の部員達に指示を出す黒尾に近付いて、後ろから勢い良く肩を組むと若干鬱陶しそうにしながらも俺の問いにはちゃんと答えてくれる。


「じゃあよ、今日一緒にメシ食い行こうぜ!」
「は?」
「愛心もいるし、今日俺外食にしようかと思ってんだよ」
「お前が外食なのはいいとして、何で俺がそれに付き合わなきゃいけねぇの」
「いいだろーたまには!なっ?」
「…はぁ。赤葦ー」


深めの溜息を吐いた後、赤葦の名前を呼ぶ黒尾だったが赤葦はちょうどステージ上の愛心の傍に居て「はい?」と返事をしつつこっちを向くだけ。


「何やってんの赤葦?」
「いや、愛心ちゃん起きたみたいで」


愛心と赤葦の方へ向かうと、赤葦に抱き起こされてゴシゴシと目を擦る愛心がこっちを見た。どうやら朝の寝起きとは違い機嫌は悪くはなさそうだ。


「よく寝たな愛心ちゃん」
「…うん」


まだ目が覚めきっていないのか黒尾の言葉に小さくそう返して、また赤葦の胸に顔を押し付けている。


「赤葦替われ」
「はい?」
「なんかズルい」
「これくらいで妬くんすか?」


冷めた視線に少々イラッとしたがまあいい。とりあえず愛心を寄越せと両手を広げると腕の中の愛心に「木兎さんがおいでって言ってるよ」と言う赤葦の言葉を聞いて愛心がこっちを見た。


「こーたろー」


拒否されるかもしれないというほんの少しの不安は無用な心配で終わり、愛心は赤葦の腕の中から俺に向かって手を伸ばす。
ああ、可愛い。そしてなんて優越感!


「木兎、お前いい加減その顏ヤバいぞ」
「昨日からずっとこうなんですよこの人」
「ロリコンか」
「バッカ!ロリコンと一緒にすんな。俺は愛心が可愛くて好きなんだよ。誰でもいいわけじゃねーの」
「それが本心である事を祈ります」


2人からの視線を無視し愛心の頭をうりうり撫で回していると、体育館を見渡した愛心が口を開いた。


「ばれーおわったの?」
「おう、終わったぞ」
「もうかえる?」
「もう少ししたらな」
「…クロたちもかえっちゃうの?」


黒尾に視線を移してそう言う愛心の眼はどこか寂しそうだ。


「まあ、帰っちゃうな」
「けんまも?」
「そ、研磨も」


黒尾の返答に俺を見上げて「あのね、」と続ける。


「あこまだいっしょにいたい」
「黒尾達と?」
「うん。けんまとももっとおはなししたいもん」
「…俺はご指名じゃないのね」
「孤爪の事相当気に入ったんですね」
「じゃあやっぱ黒尾一緒に飯食いに行こうぜ!」
「だから何でそうなるんだよ。愛心ちゃんのご希望は研磨だろ」
「そんな事ねーよな愛心、黒尾ともまだバイバイ嫌だよなー?」
「うん、あこクロもいっしょがいい」
「!」


俺の腕の中から黒尾に視線を移してそう言う愛心に、黒尾も断る事を諦めたようだ。


「うーん、愛心ちゃんに言われたらしょうがねぇか」
「チョロいな」
「あ?」
「こーたろー、ちょろいってなに?」
「覚えなくていいよ愛心ちゃん」


赤葦は俺の発言から気を逸らさせようと愛心の頬を人差し指の背で撫でた。


「じゃあ俺と愛心と赤葦、あと黒尾と孤爪君で」
「ちょっと待ってください、俺何も聞いてませんよ」
「え、来ねーの?」
「だから聞いてませんって」
「けーじくんもいこう?」
「……まあ、愛心ちゃんが言うなら」
「お前もチョロいな赤葦」
「黒尾さんには言われたくないです」
「よーし、決まりな!」



·
·



「……何でおれここにいるんだろう」
「けんまはなにたべるの?」
「え、あー…」


よく考えたら孤爪には何も説明していなかった。ただそこは黒尾さんとまたも愛心ちゃんの一言により、渋々ではあるが結局孤爪も今ここに居る。


「こーたろー、あこおもちゃつきのやつ」
「お子様プレートな」
「うん」


ファミレスのメニュー表を食い入るように見ていた木兎さんとは対照的に、愛心ちゃんはいつもコレなのだと言わんばかりの勢いでお子様プレートを指差す。


「愛心ちゃんいつもこれなの?」
「うん。おもちゃとかシールとかもらえるんだよ」
「へー」
「いいよな、お子様用のメニューってメイン級がいろいろ乗ってるしオモチャまでついて、かつ安い」
「木兎君も頼めば〜?」
「俺はお子様じゃねぇよ!」
「ほら、いいから早く決めてくださいよ木兎さん」




注文したメニューが運ばれてきて俺と木兎さんの間で足をぷらぷらと揺らしながらお子様ランチを頬張る愛心ちゃんは、旗の立った小さなオムライスやハンバーグ、子供の口で一口か二口程しかないスパゲティーを嬉しそうに「次はコレ次はコレ!」と1人で順番を決めながら食べていく。


「美味しい?」
「うん!きのうもオムライスたべたけどきょうのもおいしい」
「何だよ木兎、昨日もオムライス食べさせたなら他のが良かったんじゃねぇの?お子様メニューしかダメとかじゃないんだろ」
「昨日は外食じゃねーよな愛心」
「うん。きのうはこーたろーがつくってくれたの」
「は!?」


ドヤ顔の木兎さんに目の前に座った黒尾さんは本気で驚いた表情を見せた。まあ当然だよな、木兎さんから料理とか想像できないし。


「昨日は木兎さんが家でオムライス作ったそうなんです。愛心ちゃんが腹痛起こしてなくて本当に一安心ですよ」
「愛心ちゃんソレ本当に美味かったの?」
「おいしかったよ、ちょっとちゃいろだったけど」
「……茶色…」
「お前等失礼だぞ!愛心が美味かったって言ってんだから良いだろ、なぁ愛心」


もぐもぐと口を動かす愛心ちゃんは木兎さんを見上げて大きくコクンと頷き口の中が空っぽになると「あこまたこーたろーのごはんたべたい!」と嬉しそうに笑顔を向けた。


「またいつでも作ってやるからな」
「やめとけやめとけ。本当にいつか愛心ちゃん腹壊すぞ」
「そんなに言うならお前に先に食わせてやるわ」
「遠慮させていただきます。俺健康でいたい」
「本っ当失礼な奴だな!」


その後暫く続いた木兎さんと黒尾さんの会話に気も留めず、愛心ちゃんは孤爪と一緒にアップルパイを食べ、お子様プレートに付いてくるおもちゃでは有名な某キャラクターのシールを選んでその中から1枚ずつ「みんなにもあげるね」と俺たちのジャージやらTシャツやらの胸元にシールを貼って嬉しそうにそれを眺めていた。


·


「けんまはうさぎさんと、ねこさんどっちがすき?」
「え、どっちって言うか別に…」
「あこはうさぎさん!このうさちゃんもだいすきなの」
「…そう、」
「けんまもだっこする?ハイッ、かしてあげる」
「あ、ありがとう…」


ファミレスを出ると愛心ちゃんは進んで孤爪と手を繋ぎ反対の腕には大事そうにうさぎのぬいぐるみを抱き抱えて歩き出した。孤爪は勿論助けて欲しそうな視線を送ってきたが、愛心ちゃんが「けんまとおててつなぐ」と嬉しそうに発した事で誰も何も言えず、結局そのまま歩いていた。


「愛心って何であんなに孤爪君好きなの?」
「何かフィーリング的なものなんじゃないですか」
「研磨は困り果ててるけどな」
「愛心〜」


愛心ちゃんの歩幅的に俺達より数歩後ろを歩く2人をチラチラと見ながら、木兎さんはどこか悔しそうな寂しそうな表情で唸っている。


「お前大丈夫か、明日には愛心ちゃん家帰るんだろ」
「やっぱそう思いますよね。黒尾さんが言う通り木兎さんの方が離れられないんじゃないですか?」
「うっ、別に大丈夫だし…」
「嘘だな」
「ですね。全く説得力ないですよその顔」
「え、俺どんな顔してんのあかーし?」
「自分で見てください」


そう言って通りのショーウィンドウを指差すと木兎さんは自分の顔を見ながら「うーん」と唸っている。


「そんなに変な顔してるか?」
「変っていうか情けない顔ですね」
「お前、容赦ねぇな赤葦」
「おい笑うなソコ!」


俺の発言に笑った黒尾さんと怒り出した木兎さんだったが、直後後方から聞こえてきた会話によって俺も含め話を中断する事となった。


「こーたろーだ」
「え、ちょ……愛心ちゃん、」
「こーたろーがあった!」
「待って、ちょっとどこ行っ……クロ!助けて!」