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ねぇ、どこがすき?



午前中の練習を終え昼の休憩中。当然見知ったチーム同士ということもあり両校気の合う者同士で昼飯を食べていた。


「木兎さん、愛心ちゃんご飯まだですよね?」
「おう。けどずっとあれだし、呼んでも来ねぇの」
「木兎、お前研磨に負けたな」
「負けたとか言うんじゃねーよ!」


午前中うちのチームでマネージャーをやってくれていた愛心ちゃんは、1番会話数も少なかったはずの研磨がなぜか気になるらしく、休憩に入ってからというもの研磨の後ろを一定の距離を保ってくっ付いて歩いている。勿論研磨はそんな愛心ちゃんに困り果て一旦はトイレに逃げ込むも入口で待っていた愛心ちゃんから逃げる様にして未だに体育館をぐるぐると彷徨っている。


「黒尾、いい加減何か言ってやれよ。研磨も愛心ちゃんもあのままじゃ休憩中ずっと歩き回ってるぞ」
「見てて面白くはあるけどな。最終的に研磨がどうするか」
「酷いなお前」
「愛心ちゃん何か孤爪と話がしたいんですかね?」
「それにしては距離詰めないよな。研磨が止まったらちゃんと距離保ったまま愛心ちゃんもそこで止まるし」
「そうですね」


愛心ちゃんの不思議行動に体育館に居る面々が微笑ましそうに注目しているが本人はそんなの関係なしだ。そして研磨の表情は疲労困憊ってとこか。


「これ食い終ったら愛心強制連行してくる」
「あんまり無理矢理だとまた泣かれますよ、朝みたいに」
「うっ…」
「何、お前泣かれたの?」
「ちょっとだけだよ!」
「いや、結構泣いてましたよね」
「あっれー、いとこなのに?」
「赤葦お前どっちの味方なんだよ!!」
「味方って、本当のこと言ってるだけじゃないですか」


木兎はと言えば愛心ちゃんを研磨に取られて若干拗ねている。にしてもこのままじゃ研磨も飯食えねぇしな。


「次こっち側来たら捕まえるか」
「おう!孤爪は頼んだぞ黒尾」
「へいへい」


·


何で付いて来るんだろう。しかもこの微妙な距離の意味って何…。
後ろを少し振り向けば痛いほどの視線が向けられていている。クロも他の部員も助けてくれないし。なんかもう嫌だ。


「はぁ…」
「!」


歩くのをやめその場で足を止めるとやっぱり後ろの愛心ちゃんも足を止めたらしく追い越してきたりはしない。思い切って愛心ちゃんの方を向けばバッチリ視線が合って、笑顔ってわけじゃないけどどこか嬉しそうに俺を見上げてくる。


「あの、どうして付いてくるの?」
「ねこさんみたいだから」
「…え?」


どうしよう。ちょっと意味わかんないんだけど。


「あこね、けんまはねこさんににてるとおもうの。ねこさんはきゅうにちかづくとすぐににげちゃうでしょ?だからゆっくりついてくの、そしたらときどきこっち見るんだよ」
「…おれ猫じゃないけど」
「でもおめめとか、かみのけのいろとかにてるよ。それにたまにこっち見てたもん」
「……」


ダメだ、何て返したらいいのか分かんない。しかも名前覚えられてるし…普通だから別に良いけど。


「クロ、」


少し離れた位置で既にご飯を食べていたクロを呼ぶ。


「んー?」
「……助けて」
「はいよ」


ニヤリと笑ってそう言いこっちへ歩いて来るクロは絶対に今までのを見て楽しんでいたはずだ。


「さすがに限界か?」
「分かってるなら早く助けてよ」
「悪かったって」


傍まで来てそう言うとクロは愛心ちゃんの前に屈んで、すっかりクロにも慣れた愛心ちゃんも怖がることなくクロを見た。


「よし、愛心ちゃんそろそろご飯食べようぜ。木兎も待ってるし」
「けんまもいっしょ?」
「一緒一緒」
「ちょっと、」
「良いだろ、どうせそうなるんだから」
「……」
「じゃ、あっち行きますか」
「うん!」


クロのその一声であろうことか愛心ちゃんはおれの手を握ってきた。


「!」
「いこーけんま!」
「あら、研磨ったらモテモテ」
「…クロうるさい」


こんな小さな子の手を払いのけるなんて勿論できないし、しないけど…なんか行く先に居る木兎さんの視線が凄く痛い気がする…。



·



「へぇ、それで愛心ちゃんは研磨が猫に似てるから好きなの?」
「うん!ねこさんにもにてるし、けんまやさしいからすき」
「おれ優しくした覚えないんだけど…」
「こら研磨、そこは素直に喜んどけよ」


木兎さんの膝の上でおにぎりを頬張る愛心ちゃんは、さっきから孤爪の好きなところをあれこれ並べて夜久さんの質問に答えている。そんな素直な愛心ちゃんを目の前に黒尾さんの横に座る孤爪は居心地悪そうな表情でサンドウィッチを齧っていた。


「小さい子って雰囲気で誰が優しいとか分かるんですかね」
「確かにそれはあり得そうだよな」
「…愛心、そんなに孤爪君のこと好きなの?」
「すきー」


ご飯粒を口許につけたまま上を見上げて木兎さんの問いにそう答える愛心ちゃんは笑顔で、対象的にその言葉を聞いた木兎さんはどこかショックを受けた様な表情をしている。


「孤爪、気にしなくていいから。ただの大人気ないヤキモチだし」
「…う、うん」


どことなく木兎さんの視線から逃れる様にしている孤爪にそう言って愛心ちゃんのご飯粒を取ってあげる。


「ん?」
「ご飯粒」
「ほんとだ。あーんっ」
「え、」


ご飯粒を見た後の反応になんの事かと思っていると、俺の指ごとカプッと口に含まれた。


「!?」
「愛心何やってんの!?」
「けーじくんがとってくれたごはんつぶたべたの。ごはんのこしたらだめなんだよ?」


俺の指から口を離すと木兎さんにそう返してまたおにぎりを頬張る。


「愛心ちゃん本当偉いな」
「そして木兎くんはヤキモチ妬きだなー」
「黒尾うるせぇ!つーか、手洗ってるよな赤葦」
「洗ってますよ、木兎さんと一緒にしないでください」
「俺だって洗ってるわ!」


木兎さんを軸にして毎度展開されるこういうやり取りにも慣れたのか、愛心ちゃんは「シャケだ!」と一人嬉しそうに食べ進めたおにぎりの中身を見て喜んでいる。


「なあなあ愛心ちゃん、赤葦はどこが好き?」
「?」
「何ですか急に…」


木兎さんと話していると隣の黒尾さんはニヤニヤと笑いながら愛心ちゃんにそう訊ねる。


「ん、それぞれ好きなところがあるんだろうな、と思って訊いてみただけ」


そうは言うもののこの表情。恐らく愛心ちゃんに誰のどこが好き、と言うのを言わせて木兎さんが拗ねるのを面白がっているに違いない。また面倒臭いことになるのにこの人は。


「うーん…けーじくんはやさしいし、いっぱいだっこしてくれるからすき。あとかっこいー!」
「おおー」
「赤葦カッコイイってよ!」
「愛心昨日から赤葦のことカッコイイって言い過ぎじゃない!?」


愛心ちゃんの返答に揶揄う様に笑う黒尾さんと、素直に良かったなと笑顔を向ける夜久さん。そして嫉妬心剥き出しの視線が隣の木兎さんから注がれる。


「じゃあ愛心ちゃん、黒尾さんはどこが好き?」
「なっ、」
「黒尾さんだって訊いたんですから良いですよね」


さっきの黒尾さん同様俺も愛心ちゃんにそう訊ねると、もぐもぐとおにぎりを頬張りながら黒尾さんに視線を移す。


「クロはおとなりのクロとなまえがおんなじだし、かみのけがおもしろいからすき」
「は?」
「髪の毛って!!」


まさかの謎回答に黒尾さんは拍子抜けしたような顔で、夜久さんは腹を抱えて笑っている。


「ちょっと待とうか愛心ちゃん、髪の毛ってどういう事かな?」
「だってクロのかみのけ、こーたろーみたいにツンツンしてるのにふわふわだもん。こーたろーのはカチカチ」
「手触りが良いってことじゃないですか?」
「…けどそれが好きってどうよ。あと名前だからね、俺の好きポイント」
「頑張れ黒尾、諦めんな」


慰めているのか笑っているのか微妙な表情で黒尾さんの肩を叩きそう言う夜久さんを見て「そこまで言うならお前の好きなとこも訊くぞ夜久」と言った黒尾さんは、今度は夜久さんの好きなところを愛心ちゃんに訊いた。


「やっくんはね、わらっていっぱいいいこいいこしてくれるのがすき。あと、いいにおいがする!」
「「「いい匂い?」」」
「うん、やっくんいいにおいがするの」


満面の笑みで言う愛心ちゃんだがこっちからしてみれば匂いって言うのはなんとも気になるワードだ。


「なに、夜久ってば幼児向けのフェロモン出してんの?」
「なんだよそれ、出せるかっ!」
「なんか気になりますね匂いって」
「やっくん、ちょっと参考までに匂い嗅がせて」
「ヤメロ!」


隣に座る夜久さんの匂いを本気で嗅ごうとする木兎さんを引っ張って止めさせる。


「なんかスミマセン」
「いや、けど本当に嗅がれたら殴るとこだったわ」
「やっくん怖い」
「木兎さんが悪いんですよ」
「だってよぉ〜」


膝の上の愛心ちゃんの頭に顎を乗せしょぼくれモードを発動し始める木兎さん。しょうがない、こっちも訊いておくか…。


「愛心ちゃん」
「ん?」


さすがに木兎さんも体重を掛けているわけではないのか、乗せられた顎を物ともせず食べていたおにぎりの最後の一口をもぐもぐと咀嚼しながら俺の方を見上げた愛心ちゃんに質問する。


「木兎さんはどこが好き?」
「こーたろー?」
「うん」


俺の問いに愛心ちゃんは木兎さんを見上げて、木兎さんは顎を離し見上げてくる愛心ちゃんを見る。その表情からは緊張が見て取れる。どうせ他よりも良く無い返答だったらどうしようとかそんなことを考えているんだろうけど。


「こーたろーはね、」


木兎さんを見上げていた愛心ちゃんはにっこりと笑って大きく両手を広げると、


「ぜーんぶだいすきっ!」


と声を大にしてそう一言。


(((おおー)))
「うっ…愛心ーっ!!」


その一言が相当嬉しかったのか、もう何度目にしたかも分からない全力の抱擁攻撃を食らう膝の上の愛心ちゃんは、嬉しそうにキャッキャッと笑っている。
…アレ苦しくないのか?


「本当に木兎の事好きなんだな」


夜久さんの言葉と少し驚いた様に2人の光景を見ている音駒の3人に「木兎さんは勿論ですけど愛心ちゃんも相当ですよ」と返すと黒尾さんは笑って呟いた。

「やっぱ血なのかねぇ」





「よっしゃー!午後も勝ちまくるぞ赤葦!」
「はい」
「よし。じゃあ愛心ちゃんは午後からもこっちのマネージャーしてくれるかな?」
「うん!」
「えっ」
「悪いな木兎、借りてくわ」
「愛心、今度はうちの方でマネージャーしない?」
「こーたろーたちはおねーちゃんたちいるでしょ?」
「……そう、ですね」
「木兎さん諦めましょう。ほら、あっちからマネも見てますよ」
「ッ!?……だからか、なんか寒気がすると、」
「木兎ー?何か言った?文句ある?」
「無いです」