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ジェラシーとお出かけ



「あのね、あこのおうちにもっとおっきいうさちゃんもいるの」
「そうかそうか、そりゃすげぇなぁ」


バレーをしている時の木兎さんは基本的に集中力が高い。ただ愛心ちゃんがいる昨日今日はそうもいかない様で、練習中もチラチラと愛心ちゃんの姿を確認するよに視線を泳がせている。


「…木兎さん、気持ちは分かりますけどもう少し集中してください」


入ってませんし怪我しますよ。俺の上げたトスを打ち抜くも、ボールが落ちたのはコート外で着地早々「クッソォォォ!」と叫ぶ木兎さんにそう言うと「だってー」と情けない声が返ってきた。


「愛心、猫又監督にベッタリじゃん」
「まぁ練習始まってからずっと一緒ですね」


愛心ちゃんは俺たちが練習を始めてからというもの猫又監督の後ろをくっ付いて回り、今は音駒側に並べられたパイプ椅子に猫又監督と並んで座っていた。


「お得意の“こーたろー”が今日は聞こえないもんな」
「確信つくようなこと言わないで木葉!」
「別に愛心ちゃんが楽しそうならいいじゃん。お前今相手してやれねぇんだし」
「…それは、そうだけど」
「あとそのくらいでしょげないで下さいね。試合これからなんですから」
「分かってるよ!」


反対コート奥の愛心ちゃんを見つめながら言うその声は、嫉妬心丸出しでどっちが子供なんだ…と思ってしまう。


「よし、じゃあ10分後午前1本目の試合始めるぞ」
「「「はい!」」」


監督の一声でうちは勿論音駒側も返事をし、それぞれ一旦ベンチへと戻った。


「愛心ちゃん、すっかり猫又監督に懐いてるな木兎」
「うっ…そうッスね」
「木兎ってばジェラシー?」
「ジェラシーじゃねぇよ!」


監督やマネージャーにまで痛いところを突かれ渋い顔をする木兎さん。


「けど、昨日のボトルサービスが恋しいな。俺もちょっとジェラシーだわ」


ドリンクを口にしながら笑って言う小見さんに「そうだよな!」と同調する木兎さんは顔が本気過ぎて何と言うか…こんなんで明日愛心ちゃんと離れられるんだろうかと心配になる。急に与えられた子守という試練を、今は木兎さんの方が楽しんでいるようにすら感じた。


「とりあえず休憩終わるまでに一回拉致る!」


音駒ベンチを見据えながら目を光らせる木兎さんにその場の全員が呆れ顔を向けたのは言うまでもない。



·
·



練習中からずっと気付いてはいたが、今うちのベンチには見慣れない幼児が居座っている。何を隠そうそれが木兎のいとここと木兎愛心ちゃんだ。ただ想像よりもだいぶ小さかったことと、個人的にファーストコンタクトで大泣きされたことで現在距離の取り方を模索中である。


「黒尾、そんな目で見てるとまた泣かれるぞ」
「え、今の顔で怖いの?」
「そこそこ」
「マジかよ」


隣の海に指摘され試しに営業的スマイルを向けると「やめろ」と短く返された。


「夜久にはあんなにすんなり懐いたのにな。あれか、大きな声では言えねぇけど、やっぱ身長か?」
「それはないんじゃないか、ほら」


海の指す方を見るといつの間にかリエーフや犬岡と言った1年たちと話をする愛心ちゃんの姿があった。


「リエーフがいいなら誰でもいけんな」
「ああ。それにそもそも身長なら梟谷の奴らだって普通にデカいからな」
「それもそうか…。あれ、じゃあ何で俺泣かれたんだ?」
「顔だろ」
「…え、」


海の爽やかな笑顔が逆に心に刺さる。


「へー、愛心ちゃんって言うんだ」
「うん、おにいちゃんは?」
「俺は犬岡走」
「いぬおかくん?」
「おお!覚えた」
「俺も覚えて、俺も!」
「おにいちゃんのおなまえは?」
「灰羽リエーフ!」
「んー、りえーふ!」
「呼び捨てっ!?」
「あははっ、リエーフ対等だと思われてるんじゃない」
「ええっ」
「愛心ちゃんは観察力が凄いな」
「夜久さんどういう意味ッスか…」


パイプ椅子に座ったまま犬岡とリエーフに囲まれている様はそれはもう巨人と小人と言っても過言ではない。まあ精神年齢は割と近いかもしれないが。その後もどんどん他の部員の名前を覚えていく愛心ちゃんに、この時期の子供の興味と記憶力は恐ろしいレベルだと思った。


「研磨、お前は名前覚えてもらわなくていいのか」
「いい…おれ、子供とかどう接していいか分かんないし」
「ふーん。ま、あいつらに変なあだ名で覚えさせられないように気を付けろよ」
「クロは泣かせないように気を付けてね」
「……」


集団から離れていた研磨に声をかけると、まさかの反撃をくらうこととなった。一体俺が何をしたって言うんだ。


「こらお前ら、今から試合って分かってんのか」


小さな愛心ちゃんに群がる部員を見て、梟谷の監督と話をする為席を外していた監督が戻った途端呆れた声をあげる。


「スンマセン。ほら、さっさとゼッケンつけろ」


試合前の確認をしていると戻ってきた監督を見て愛心ちゃんが早速口を開いた。


「ねこセンセー、しあいってなーに?」
「試合ってのはな、うちのチームとおチビちゃんのいとこの兄ちゃんがいるあっちのチームとで戦うことだな。分かるか?」
「たたかう?…んー」


何かを考え込むように小さく唸ってから「こーたろーたちとけんかするの?」そう続けると、少し不安そうな顔で監督を見上げる。そんな愛心ちゃんを見て監督は豪快に笑いながら小さなその頭を撫でた。


「喧嘩じゃねーな。別に仲が悪いわけじゃない。みんなが好きなバレーボールで勝負をするんだ」
「しょーぶ?」
「そうだなぁ、おチビちゃんは仲のいい友達とじゃんけんするだろ?」
「うん、じゃんけんするよ」
「あれも勝負だ」


愛心ちゃんはニカっと笑ってそう言った監督の顔を見て、パチパチと大きな瞳を数回瞬かせた。


「そっか、おともだちでもしょーぶするんだね。しょーぶしてもなかよしだもんね!」
「そういうことだな」


漸く合点がいったのかパアッと表情が明るくなった愛心ちゃんは監督と俺たちを見ながらにこにこ笑って、膝の上のうさぎのぬいぐるみを抱き締めた。


「さて、仲良しでも勝負は勝負だ。勝ってこいよ」
「「「ハイッ!」」」